戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成19年度研究領域評価結果について > 研究領域 「エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」 事後評価

研究領域
「エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」
事後評価

1.総合所見

 戦略目標に応える研究領域を設定し、研究総括の明確な指導方針の下、課題の選考から評価まで、一貫して運営・展開された10課題から、世界で初めての基礎的発見、世界記録の達成、及び日常生活で直ぐに役立ちそうなデバイスの提案、新しい研究ジャンルの確立、基本特許の取得、パテントライセンスによる製品化など、CRESTの本領域ならではの基礎から応用までに亘る、期待以上の成果があげられている。
 具体的には、エネルギーの高度利用にかかる、科学技術の進展への寄与が大きい成果としては、ナノシート累積技術の創製とそれによる新超伝導体の発見、ナノブロックインテグレーション技術の創製とそれによる世界最高性能の熱電変換材料の創出の他、人工ピン導入による大電流通電可能な高温超伝導体、室温透明強磁性体、フラーレン系電界効果トランジスタ、可視光応答性水分解光触媒の創出などがあげられる。また、社会的及び経済的効用に資する寄与が大きい成果としては、酸化チタンナノシートの車両窓ガラスへの実用化試験や企業との共同研究、コンビナトリアル成膜装置、超平坦酸化チタン基板などのライセンス・製品化、有機金属堆積法による酸化亜鉛発光デバイスの実用化共同研究、全固体型リチウム電池関連の企業との共同研究に加えて、今後の展開が期待できるものとして、ナノサイズ化で放電速度が高められたリチウムイオン電池、熱電発電モジュール、ソーラーハイドロジェン生成の実証実験の他、77Kで大電力通電可能な高温超伝導線材の誕生などがあげられる。
 いずれも、インパクトのある新しい基礎概念の提案や基本特許の取得、そして社会に役立つアウトカムを目指した研究総括の方針通りの成果であり、深く広い学識と卓越した運営に敬意を表したい。
 具体的なアウトプットでも、論文発表1340件(国内70、海外1270)、招待講演661件、学会発表4289件(国内2777,海外1512)、特許166件(国内140,国外26)がマークされており、十分な数と言える。
 総合的な評価として、本研究領域は、当初のねらいを超える成果を達成し、国家的・社会的課題克服のためのエネルギーの高度利用に向けた科学技術の進展に多大の貢献をしたことから、極めて実りの多い事業であったと認められる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本領域は、戦略目標「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」をねらいとして、ナノテクノロジーを活用した高効率のエネルギー変換・貯蔵技術、環境調和型の省エネルギー・新エネルギー技術を創製し、環境改善・環境保全に資する研究、および、ナノオーダーでの構造・組織等を制御することにより、省エネルギーを達成し、エネルギーの高度利用に資するこれまでにない高度な物性を有する機能材料・構造材料・システム等を創製する研究等を対象に設定されたものであり、国家的・社会的課題克服のための重点領域の一つである。
 このような領域のねらいに加えて、単なる既存概念の延長ではなく、新たな基礎概念の提案や基本特許の取得と、更に、論文掲載や特許出願の件数(アウトプット)だけでなく、インパクトの大きなアウトカム(社会にどのように役立つか)を目指すとの、領域運営に関する研究総括の基本方針が打ち出され、それに相応しいトップレベルの研究者及び企業の経営者などからなる領域アドバイザーが編成されて、課題の選考が行われた結果、採択課題は、太陽光水分解、熱電材料、光エネルギー変換用ナノシート、電界効果型光機能素子、全固体型エネルギー変換デバイス、燃料電池用ナノナノチューブ、超伝導材料、電力貯蔵デバイス及び燃料電池用電極のシミュレーションなどと、エネルギー利用の全域(発生、変換、貯蔵、輸送・移送)をカバーする構成となり、且ついずれも意欲的な提案で、エネルギーの高度利用に向けて、革新的技術シーズの創出と大きなアウトカムが期待できるものとなった。
 すなわち、領域のねらいと課題の選考は、極めて適切であったと評価できる。

3.研究領域のマネジメント

 研究チームリーダーのオリジナリテイーと熱い雰囲気を尊重しつつ、学術的な基礎研究の裏付けを十分に行い、インパクトの大きなアウトカムに向け運営するとの基本方針に従って、毎年、多数回に亘るミーテイングや報告会を通じての採択課題の進捗状況把握と研究推進が行われた。研究テーマの導き方でも、進捗会議等での成果報告を厳しく評価し、研究目標未達のテーマに関しては、見直し、テーマの選択と集中が行われた。研究費の配分でも、一定額の総括準備金をキープして、必要度、緊急度、成果に応じた重点配分が行われた。また、成果報告、説明責任でも、詳細年報、ニュースレター、アピール書籍の発行に加えて、領域内のみならず、領域間合同での多数回に亘るシンポジュウームやワークショップを通じての、交流とアピールが行われ、超伝導関連他で領域間の連携も実現した。さらに、高いレベルの論文発表を行うために、英語論文添削も行われた。これらのマネジメントを受けて、研究成果の達成度には、後述のように、目を見張るものがあるが、特に、知的財産権保護の重要性を研究代表者に認識させ、特許出願を奨励した結果、国内特許140件及び国際特許26件を出願し、3件がライセンス化、製品化に到ったこと、そして基本特許と考えられるものが26件もあることは注目に値する。
 以上から、研究領域のマネジメントは、極めて素晴らしいものであったと言える。

4.研究成果

 前記の研究領域のねらい及び運営方針に従って展開された本領域研究では、ほぼ全てのチームが、当初計画に沿った、あるいは当初は予想できなかった新たな進捗を遂げており、国際水準から見て特に優れた研究成果が多数挙げられている。
 中でも特筆すべき成果例として、佐々木チームは、無機ナノシートをビルデイングブロックとする、ウエットプロセスナノテクノロジーと呼ぶべき、ナノシートの精密累積技術を概念提案、開拓し、高い超親水性と耐摩耗性を利用した車両窓ガラス、ナノレベルで機能するhigh-k材料、紫外光で動作する磁気光学材料などを創出し、いずれも実用化検討中である。加えて、コバルト酸化物で初めての超伝導体を創出し、超伝導分野に大きなインパクトを与えた(Nature掲載で引用回数600回以上)。河本チームは、ナノブロックインテグレーションという新しい材料設計概念を提案し、物性のトレードオフを打破した高効率熱電材料を創製した。従来のような有害・有毒元素を含まずに世界最高性能が達成されており、今後、未利用熱エネルギーを電気エネルギーに変える発電技術の実用化への展開が大いに期待できる。また、山本チームは、電極物質をナノサイズ化することにより電力貯蔵デバイスの性能を大幅に向上させた。リチウム電池の発火事故などの安全対策の基礎研究でも成果を挙げ、次世代自動車用高性能蓄電システムの技術開発プロジェクトの中で、発展展開中である。
 これら3チーム以外でも、多くのチームが、科学技術の進歩に資する革新技術の創製及び展開、または社会的及び経済的な効果・効用に資する実用化及び社会的価値の発見・発明か経済・産業への展開のいずれかで、総合所見に記載したような、優れた研究成果をあげており、それらの価値は、受賞や企業との共同研究・実用化によって裏付けられている。
 以上により、成果の達成度は、極めて高いと評価できる。

5.その他

 本研究領域の研究総括のみならず、多くの研究総括が、領域終了時に、高揚した研究ポテンシャルをスムーズに次の支援に繋ぐ制度がない(一部はなくなった)ことを、悔やんでいる。次の支援を得るまでのブランクは国家的損失とも言える。優れた成果の出ている課題に対しては、適切なタイミングで次の支援を保証し、より大きく発展、結実させる新制度・スキームの創立をぜひお願いしたい。
 また、個別課題の事後評価を行う折に、一定数の外部評価委員を加えることが好ましいとの意見があった。

6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

■ 戻る ■