戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成19年度研究領域評価結果について > 研究領域 「環境保全のためのナノ構造体制御触媒と新材料の創製」 事後評価

研究領域
「環境保全のためのナノ構造体制御触媒と新材料の創製」
事後評価

1.総合所見

 「ナノサイエンス・ナノテクノロジーは、近年最も著しい進歩を遂げつつある分野であり、一方環境を維持・改善する技術は全世界的な喫緊の課題である。本研究領域は、ナノを基礎として環境に貢献する新触媒・新材料などの創製を目標とするもので、戦略目標である「環境負荷を最大限に低下する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」に合致する、現在、最も話題性のある領域の一つである。基礎から応用まで幅広いスペクトルとなるよう11の課題が選考され、研究者の自発的研究を尊重しつつも、研究総括の卓越した運営・指導の下に上記目標に向かって研究が推進された。
 研究課題が基礎から応用まで幅広く分布していたことを反映して、幅広い研究成果が得られている。社会的及び経済的な効果・効用に資する成果としては、すでに工業化され、環境貢献を果たしている例、企業等との実用化研究が活発に行われている例などがある。一方、基礎科学面でも、数多くの斬新なナノ構造体が創出された。成果を環境保全への貢献にのみ求めると、必ずしもすべての研究が成果を挙げたわけではないが、科学技術全般という視点で見る場合、それを補うだけに留まらぬ特筆すべき成果が数多く得られており、また、企業との応用指向の共同研究に発展した例も数多くある。当該分野の基礎科学の発展に大きく寄与し、関連分野に少なからぬ波及効果を及ぼしただけでなく、企業の開発・実用化研究にナノの視点を導入するのに一定の役割を果たしたものと考えられ、JSTのプロジェクトとして適切なバランスの成果であったと評価できる。
 これらの成果は、Nature, Scienceの7報をはじめとする881件の論文発表(国際誌851件)、学会発表2,796件(国際学会944件)、特許132件(国外16件)として公表されており、また、これらの成果によって文部科学大臣表彰4件、グリーンサステイナブルケミストリー賞(文部科学大臣賞)1件、同(経済産業大臣賞)1件をはじめとする多数の受賞者を輩出している。以上のように、数多くの優れた成果が挙げられており、領域のねらいは高いレベルで達成されたと認められる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本研究領域は、ナノオーダーで構造・組織等を制御することにより、これまでになく高効率・高選択的にかつ環境負荷を低く化学物質等を合成あるいは処理することが可能な新触媒・新材料・システム、環境負荷の低い新材料等を創製し、環境改善・環境保全に資する研究を対象として設定されたものであり、研究領域のねらいは時代の要請に即した極めて適切なものである。
 課題の選考は、環境、ナノ、触媒の3つのキーワードを、自らの発想、着眼点から自在に組み合わせて研究課題を提案させるという方針で行われたが、この方針は、ユニークであり研究者の発想を重要視する意義深いものである。基礎としてのナノと応用としての環境のバランスに関しては領域全体としてバランスが取れれば良いこととして、基礎主体の研究から応用への指向性の強いものまで幅広いスペクトルとなるよう選考された。採択された課題は、大別して、ナノレベルでの構造を制御した物質の合成とその計測、合成されたナノ材料の触媒作用、触媒の実用化を通じた環境保全への貢献の3段階のステージの研究がバランスよく配置されている。環境にベクトルを合わせて研究課題を選考した方が良かったという意見もあったが、基礎から応用までの研究者が共通の目標を持って一堂に会する効果は直ちには表れないかもしれないが、特に、若手研究者への効果は大きく、基礎から応用までをカバーするJSTのプログラムとして課題の選考も非常に適切であったと評価される。
 なお、平成16年度から理論研究者を採択したことは評価できるが、惜しむらくは領域全体への波及効果を生むためには研究期間が短かった感がある。

3.研究領域のマネジメント

 本領域では、基礎・目的基礎研究から応用・開発研究、さらには実用化まで、幅広いテーマを許容し、研究者の自発的研究を尊重したため、当初は研究の方向性に不統一感があったが、シンポジウム、ミーティング及び研究総括と研究者グループとの個別面談を通しての討論で研究開発の目的のベクトルを徐々に合わせて行き、各研究課題の環境改善技術としてのポテンシャル調査などを通じて最終的にはベクトルが環境面への配慮に向くに至ったことは研究総括の功績大と評価できる。
 また、予算配分をすべてオープンにして透明性を確保し、研究の進展度合いに応じて資源配分したことは研究の促進に大きな効果があったと考えられる。特に、若手の萌芽的な研究に対して積極的に研究費の投入を図るなど機動的な運営は、研究運営の成功事例として評価できる。さらに、課題間の連携を図るため、時には領域をまたぐ合同シンポジウムなどの工夫がなされ、特に若手の研究者が広い視野を持つに至った。バーチャルラボラトリー内での共同研究の成果は、研究期間内に得られたものに留まらず、この制度によって育成された人材が、将来にわたって我が国の科学技術の進歩に還元していってくれるものと考える。上と併せて、本領域のマネジメントは極めて良好に行われたと認められる。

4.研究成果

 研究課題は、ナノレベルでの構造を制御した物質の合成とその計測、合成されたナノ材料の触媒作用、触媒の実用化を通じた環境保全への貢献の3つに大別されるが、それぞれにおいて、成果の達成度はチームによって大きく異なるが、平均して大きな進展が達成され、多数の特に優れた研究成果が得られ、研究成果は極めて高いレベルで達成されたものと評価される。
 実用化を通じた社会的・経済的インパクトの大きい例は、(故)奥原らの薄層担持ヘテロポリ酸のグリーン合成への工業的適用であり、化学プロセスにおける省資源、省エネルギー、廃棄物削減を達成するという本物の環境への貢献を実現する成果である。また、持田らのカーボンナノファイバーの構造の作り分けと選択的大量合成および共同研究による環境材料などの実用化研究の展開も特筆すべき成果である。
 ナノと環境の両面でバランス良い成果を上げた例として、辰巳らのチタノシリケートによるエポキシ化とシクロヘキサノンオキシム合成および水野らのポリオキソメタレートの分子設計法の確立と高選択的分子変換システムの開発が挙げられる。これらは、触媒科学の進歩にとっても大きな一歩であるが、触媒の効率化による環境への顕著な貢献を予感させるめざましい成果である。また魚住らの高分子担持分子触媒による多彩な水中有機反応は、化学プロセスの環境調和型への転換に有力な選択肢を提供したものであり、環境への貢献が期待される。
 ナノの観点から科学技術の進歩に資する成果としては、黒田ら、辰巳らの多様な新規ナノ構造の創生や山元らの新規デンドリマ-の合成と金属の規則的配位が挙げられる。大西,鈴木らによる表面分析関連のテーマにおいても、将来的に大きな発展が期待できる芽が育った。環境への貢献が希薄な研究があるとの声もあったが、科学技術として見た場合に、世界に誇る先駆的な研究成果であり、広い分野にインパクトを与える重要な発見である。我が国の科学技術をこのような形で高めていくことが、将来的な国益に結びつくものと考える。応用を目指した企業との共同研究に発展した例が多い点も評価すべきである。

5.その他

 JSTのプロジェクト全般に関わる傾聴すべきコメントが出されたので、参考のために以下に記しておく。
 多数のチームによって領域を構成すれば、当然のことながら、著しい成果を挙げるチームがある一方で、そうでないチームも生ずる。課題がチャレンジングであればリスクも大きくなるので、成果が出なかったこと自体はとがめられないが、リスクを低減し、対費用効果を高める方策を講じることも必要であろう。チームごとに共同研究者の編成が大きく異なり、これが成果に反映することもあるので、共同研究者の採択について領域代表者の意見が反映されやすい仕組みを作ることがリスク低減につながるのではないだろうか。また、対費用効果向上のためには、一方で研究費の追加投入をするのであれば、研究グループあるいは予算の縮小もあってよい。中間で撤退あるいは縮小することは大変重い決断であり、実質無理であることは理解できるが、例えば中間評価時に一定数の外部評価委員による課題評価を行い、極端な場合には思い切った見直しをする厳しさも必要なように思われる。
 もう一点は、実用化に発展の可能性の高い成果の扱いである。国費を使った研究成果がみすみす他国にとられ、知的財産権の喪失どころか、自国の企業が実用化しようとしたときに障害となることもありうる。JSTとして知的財産権を効果的に獲得するのが理想であるが、周辺特許等、企業であれば知的財産部の主導で展開されるべき戦略をJSTが担当するのは難しいのではないか。自社の分野で事業展開をしようと考える企業とできるだけ早く共同開発研究を始めることによって、世界をリードする経済的な効果が期待できると考えられる。共同研究先の特定にはオープンシンポジウムも効果があると思うが、もっと個別に積極的に企業アピールする仕組みも必要のように感じられる。
 より大きな成果がより効率的に挙げられ、より国益に貢献しやすいシステムの構築を期待したい。

6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

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