戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成19年度研究領域評価結果について > 研究領域 「生物の発生・分化・再生」 事後評価

研究領域
「生物の発生・分化・再生」
事後評価

1.総合所見

 研究領域のねらいに対する成果の達成度からみると、本研究領域は、3つの柱、(1)臨床医学に密着した問題意識から出発したテーマ、(2)再生医療などの技術開発に必要な基礎研究、(3)モデル実験生物を用いた発生生物の最先端の研究のそれぞれに我が国の最も優れた研究代表者を採択し、それぞれの中から、特徴を生かした研究成果を上げている点が評価できる。
 科学技術の進歩に資する成果の観点からは原著論文858報のうち世界に誇る高いレベルの研究論文が数多く発表できたこと、特許も61件出願していることは、本研究領域の特筆すべき成果であると評価できる。
 さらに、社会的及び経済的な効果・効用に資する成果の観点からは、生活習慣病の病態分子の研究から、新規な治療法の開発へと展開した点や、細胞の分化・増殖の制御に関する研究から新規医薬品開発の道を拓いている点で、医療への貢献が大いに期待される成果が挙げられており、高く評価できる。
 また、こうした優れた成果が多くの若手研究者の参加のもとで挙げられたことは、当該分野の今後の進展に大いに寄与するものと考えられる。基礎研究、応用研究を問わず、本研究領域で得られた基本的に重要な問題に対する成果は、単に発生・分化・再生分野のみならず、広く他の生物分野や医学への波及効果が十二分に期待される。総合的にみて、本研究領域は大変意義の大きいプロジェクトであったと評価できる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本研究領域は、ヒトならびにモデル実験生物のゲノム解読後、急速な進歩を遂げつつある生命科学の領域であることを考慮し、(1)臨床医学に密着した問題意識から出発した研究、(2)再生医療などの技術開発に必要な基礎研究、(3)モデル実験生物を用いた発生生物の最先端の研究を3本柱として取り上げ、それぞれ3課題、6課題および5課題と計14課題について、応用から基礎までの広い分野から、日本のトップの人材を集めた点は高く評価できる。
 選考方針は、研究代表者の提案の新しさや業績から期待されるフィージビリティの高さ、今後10年程度を目途とした社会貢献の可能性を基準とした適切なものと考えられる。
 課題の選考にあたっては、領域アドバイザー間の合議検討で決定している点も評価できる。領域アドバイザーはそれぞれの分野で業績ある研究者から選ばれており、その構成と採択された課題の構成はおおむね適切である。

3.研究領域のマネジメント

○研究領域運営の方針と課題間の連携
 本研究領域発足時に会合を開き、領域の趣旨を浸透させ、領域アドバイザーと研究代表者の間の討論により研究計画の修正を行った。原則として、研究代表者の意向を重んじ、比較的自由に研究を実施させた方針は、課題間の連携において、活発さの点でやや問題はあったものの、本研究領域に参加した研究代表者の優れた実績から判断して適切であったと評価できる。

○研究進捗状況の把握と評価
 毎年度開催される公開シンポジウムにおいて、口頭発表ばかりでなく共同研究者やポスドクが参加し交流できるポスターセッション等を通じて、研究総括及び領域アドバイザーは、逐次、研究の進捗状況を把握していた。

○研究費の配分
 論文数等の研究成果から考えるとコストパーフォーマンスは素晴らしく、研究費の配分は適切に行われたと考えられる。研究費の追加配分に研究成果を考慮した点も評価できる。
 上記より総じて、マネジメントにおいて、研究総括のリーダーシップは優れていたと思われる。

4.研究成果

①研究領域のねらいに対する成果の達成度
 研究領域のねらいと研究課題の選考についての項に記載した3本柱のそれぞれに我が国の最も優れた研究代表者を採択することができ、当初の目標を上回る成果を達成できたと考えられる。
 特に(1)臨床医学に密着した問題意識から出発した研究においては、門脇チームが生活習慣病の病態分子アディポネクチン受容体を単離・同定し、製薬企業との共同研究から新規な治療法の開発にも至り、臨床への貢献が期待できる。岡野チームは脊髄損傷マウスの幹細胞治療の可能性を示唆する研究成果を得た。また、中山チームは細胞の分化・増殖を制御するユビキチンリガーゼ群の研究から新規医薬品開発の道を開いている。
 (2)再生医療などの技術開発に必要な基礎研究においては、坂野チームの1神経・1受容体ルールが嗅覚受容体分子を介して制御されている嗅覚系の神経回路形成のメカニズムに関する新しい知見は、本領域から得られた特筆すべき成果と評価できる。
 (3)モデル実験生物を用いた発生生物の最先端の研究において、松本チームは、線虫ショウジョウバエ、アフリカツメガエルとマウスを用いて、生物系に共通する分子メカニズムを解明し、基礎生物学の研究基盤を形成している。

②科学技術の進歩に資する成果
 国際的な原著論文858報、特許出願61件と大きな成果が得られた。すべての研究代表者のチームは、論文のリストから明らかなように、Nature, Cell, Scienceといった一流のジャーナルに多数の研究成果を発表することができ世界的に見て非常に高いレベルの成果が得られている。本研究領域から得られた知見・技術は今後の科学技術の進歩に大いに資するものと考えて良い。また、こうした優れた研究に参加した多くの若手研究者は、研究の過程で開発した知識・技術によって、今後の発生・分化・再生の研究領域のみならず、基礎医学や臨床医学等の他領域の発展に対しても大いに貢献するものと期待される。

③社会的及び経済的な効果・効用に資する成果
 ①で述べた門脇チームの研究成果は近年、社会的に関心の高い肥満・糖尿病・高血圧症・動脈硬化症等のメタボリックシンドロームの発症機序の解明から新しい治療法の開発に貢献するもので、世界的な注目を集めている。このことは極めて大きな社会的・経済的効果であると期待される。岡野チームはこれまで不可能と考えられていた神経細胞の再生の可能性を示唆した。この研究成果は、臨床応用までには時間がかかるものの、神経疾患の治療に新しい道を拓き、患者や周囲の人々に希望を与えている点で、社会的な効果は大きいものと考えられる。また、中山チームはH18年度JST産学共同シーズイノベーション化事業に採択され、実用化に向けて発展していることも、望ましい成果が生まれたと評価できると同時に医療への貢献が大いに期待される。坂野チームの研究成果は、将来の感覚系に関する治療や再生医学に期待される。

5.その他

○本研究領域の特徴の1つに、研究における多様な側面への配慮があると思われる。たとえば、松崎チームは、既に本研究以前にショウジョウバエの研究で評価を得ていたが、この研究費により哺乳類神経発生の分野に進出する基礎を作ることができた。佐藤チームは、我が国がリードするホヤという実験生物で、基盤となるデータを整備することができた。また、広海チームのように、素朴な疑問をもとに発生の基盤を論理的に問う異色の研究にも援助を行った。これらの多様性は、研究総括の「懐の深さ」によるものであり、このような配慮が長期的にはより大きな発展につながるものと考えられる。

○領域評価の対象ではないが、
①本領域アドバイザーの1人が、アドバイザー辞任後、同研究領域に応募して、審査の結果研究代表者として採択されたケースがあった。JSTは応募資格と選考方法等をさらに検討し、ガイドライン等により、基本姿勢を明確にすることが望まれる。
②また、最近、JSTの課題の選考において、イノベーションに資する研究成果として、医薬や創薬への応用が重要とされている。そのためには化合物の探索を含めそれぞれの関連する企業との連携も必要であり、国全体で、化合物ライブリー等の基盤を整備し、有効活用ができるような仕組みの構築が必要と思われる。

6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた。

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