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平成19年度チーム型研究(CREST)研究領域総合評価報告書

 戦略的創造研究推進事業における公募型研究(チーム型)研究領域の事後評価において、「研究領域としての戦略目標の達成状況」に関する評価を領域横断的に総合的に実施する試みを行った。

評価の視点と総合所見

 JSTの戦略的創造研究推進事業は、我が国の科学技術政策や社会的・経済的ニーズを踏まえて戦略目標が国(文部科学省)により設定され、その下に、JSTが推進すべき研究領域を定め、インパクトの大きなイノベーションシーズを創出することを目指して研究を推進するシステムである。
 JSTの戦略的創造研究推進事業における戦略目標の達成状況とは、単に研究成果が応用に近づいたか否かではない。応用に近いが他の研究事業でも行われているものと比べて特徴の少ない研究や、応用はされたがインパクトの小さい研究は、本事業の成果として期待されるものではない。むしろ、研究のフェーズが基礎的であっても、我が国が世界をリードすることを可能とし、長期的な視点で我が国の産業競争力や社会基盤の構築に大きなインパクトを与えると期待される優れた研究が、戦略目標の達成状況という視点からは高く評価されなければならない。今回、CRESTの11研究領域の総合評価を行うに当たっては、このような視点と指標から評価を行った。
 この戦略目標には年を追って明らかに特徴の変化が見られる。特に、平成12年度辺りを境に、それ以前では、戦略目標は分野として非常に広く、時間的にはより長期的未来を目指し、また到達すべきところはやや抽象的であった。一方、それ以降、特に平成14年度以後では、戦略目標は狭い分野に絞られかつ具体性の高いものとなってきている。今回の研究領域事後評価では、奇しくも、平成12年度発足と平成14年度発足の2種類の研究領域が対象となったため、その違いが如実に見られることとなった。平成12年度の時点では、研究領域と研究総括の狙いの設定に当たって、基礎研究としての価値を重視し、戦略目標を比較的ゆるやかにとらえてきた傾向が強い。今回の研究領域事後評価で戦略目標達成状況が評価項目として掲げられたことは、研究総括にとっては領域発足当初求められていたこととは異なる評価の視点を持ち込まれたとの感が否めなかったかもしれない。戦略目標の達成状況の評価という観点からは、平成12年度発足領域の戦略目標はやや大雑把過ぎ、平成14年度発足の戦略目標はやや細か過ぎるというのが正直な印象である。今後の戦略目標策定において、領域の広さをどの程度にすべきかは検討の余地があると考えられる。
 さて、今回評価対象となったCREST 11研究領域に関して上記の視点に立って評価した結果、それぞれの領域について課題が指摘されたものの、いずれも戦略目標に対して一定の成果が得られたものと判断され、特に過半数の領域に関しては優れた成果が得られたものと評価された。
 CREST以外のERATO、さきがけなどの研究事業では、従来は戦略目標の設定なしに研究領域が定められ研究が推進されていたが、平成14年度からCRESTと同じ現在の戦略的創造研究推進事業のシステムの中に統合されている。特にさきがけは、次世代を担う優れた個人の独立した研究を推進するシステムであり、戦略目標達成状況を研究領域の評価項目とするには、その評価の視点及び指標が大きな問題となる。今回の評価においては、さきがけ研究領域の評価としては、基礎研究において優れた成果が得られているかどうかが最も重要であるとして、戦略目標達成状況の評価の視点及び指標については、今後の検討課題とした。

研究領域:生物の発生・分化・再生
戦略目標:技術革新による活力に満ちた高齢化社会の実現
(研究総括:堀田凱樹)

 本研究領域では、標記戦略目標に向けて、領域としての狙いを、(1)臨床医学に密着した問題意識から出発した研究、(2)再生医療などの技術開発に必要な基礎研究、(3)モデル実験生物を用いた発生生物の最先端の研究を3本柱として取り上げ、革新的医療実現のための目的基礎研究と捉えて、活力に満ちた高齢化社会の実現のために、臨床医学に密着した研究およびその基盤となる基礎研究がバランスよく展開された。基礎から応用までそれぞれの特徴を生かし、多くの優れた研究成果を挙げ、特に、生活習慣病、神経疾患、再生医療関連の成果が、今後、新規治療法、新規医療品の開発などの道を拓き、実用化に向けて実を結ぶことが医療への貢献として期待される。
 本領域全体としては、戦略目標にむけた研究領域の目標は十分に達成したと評価される。
 尚、モデル実験生物を用いた発生生物の最先端の研究については、学術研究としては興味深いものとなっているが、戦略目標からはやや遠い感はある。

研究領域:植物の機能と制御
戦略目標:技術革新による活力に満ちた高齢化社会の実現
(研究総括:鈴木昭憲)

 本研究領域は標記戦略目標に対して設定され、豊かで健康な食生活と安心して暮らせる生活環境の実現を目指して、成果の社会的貢献を指標に、農林業の生産力の向上、高付加価値物質生産、環境保全、新技術創製という4分野で、オリジナリティの高い研究が遂行された。環境保全分野はやや成果がもの足りない感があるが、全般的には、学問的に高い成果が得られ、更に、多くの共同研究や特許の実施許諾が行われ、ベンチャー設立や産学連携にも発展している。植物バイオの基礎研究の成果は日本では実用化が難しいと考えられている中で、研究領域の基盤整備と、実用化へ向かう技術シーズの創生の両立を進めたことは高く評価される。
 但し、本研究領域の成果が、戦略目標に掲げられた「活力に満ちた高齢化社会の実現」にどのように結びつくかという点はやや具体性に欠ける印象は否めず、目指すところの人類の生活基盤である食料、医療、居住環境の安定的な提供、改善へとつなげる道のりにはまだ遠いものがある。領域運営の責任とは言えないが、全体としてテーマが多岐にわたりすぎて戦略目標に対してどのような考えでつながっているのかが見えにくい。

研究領域:超高速・超省電力高性能ナノデバイス・システムの創製
戦略目標:情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製
(研究総括:榊 裕之)

 「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」という戦略目標に対して、4研究領域が設定されているが、その中で、本研究領域は最も出口に近いものとして位置づけられる。本研究領域では、今日の情報通信分野を支える半導体デバイスに関して、その性能の極限あるいは限界を探る世界のトップレベルの研究が進められており、我が国の研究が世界をリードしている極めて重要な研究領域である。シリコンの限界を超える次世代のデバイスとして、超伝導単一磁束量子、スピンエレクトロニクス、有機分子デバイスなどに関する優れた研究がなされていることは、論文や特許申請などから示されており、研究領域としての基礎的研究の狙いは達成されていると考えられる。
 その中で、本研究領域の掲げた「超高速・超省電力・高性能デバイス」という応用に関して、産業界の期待する将来への基礎基盤を構築するという間接的な貢献はあったものの、具体的に応用に結びつく成果は未だ少なく、社会的・経済的効果・効用の観点からは、今後の更なる取り組みが必要である。研究グループが全て大学であり、産業界や公立研究機関の参画がなく、研究環境がデバイス開発に不適であったことが直接応用に結びつく成果に至らなかった一因と思われる。本研究領域に関わる全体の基盤が整備され、その中から、今後実用化への具体的アクションにつながるような突出した成果が生み出されることを期待する。

研究領域:新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製
戦略目標:情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製
(研究総括:梶村皓二)

 本研究領域では、標記戦略目標を目指して、情報・通信技術に革新をもたらす新しい物理現象、既存技術の限界打破に関する多くの研究が行われ、革新的技術シーズが生み出されるなど市場の出口の見える成果を含め、原著論文、特許ともに、充分な研究成果を上げた。若手人材の育成もなされ、将来性が期待される。研究成果から、ベンチャー創出や実用化を目指した企業との連携に至っているものもあり、出口の見える成果もあることは評価できる。
 本研究領域の目指す「新しい物理現象や動作原理に基づいたデバイス・システムの実現」は、重要ではあるが現実的に実用に結びつく成果を得るのが大変難しいチャレンジングな研究領域でもある。様々な可能性にチャレンジがなされ有用な成果も得られているが、実用化にはかなりの距離が感じられる面もある。但し、基礎研究段階では、当初設定した目標とは異なる成果が得られる場合があり、そうした成果が、応用に向かって展開できるようなものであれば、CRESTの狙いは達成されたと考えるべきであろう。

研究領域:高度情報処理・通信の実現に向けたナノファクトリーとプロセス観測
戦略目標:情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製
(研究総括:蒲生健次)

 本研究領域では、標記戦略目標のもと、ナノ構造の加工、評価という基盤技術の確立を目指して研究が進められ、ナノ構造作成ではカーボンナノチューブ成長の制御、Siナノドット作成、評価法では立体原子像顕微鏡によるナノ領域計測などの研究が行われた。プロセスと計測という視点では、学術的に優れた研究が行われている。
 本研究領域の成果はCRESTとしては基礎に寄りすぎていると思われる。特に、目標となるデバイス・システムの具体的デザインが不明確であるために、ナノ計測の実用化に関しては不透明であり、ナノデバイスまでの距離は遠い。戦略目標に向けての達成度という観点からは、積極的に高い評価を与える材料に乏しい。次世代ナノデバイスの研究は探索的な段階であることは否めないが、だからこそあえて応用までを見据え、そこから必要と思われる基礎技術分野を限定することが大切なのではなかっただろうか。

研究領域:高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用
戦略目標:情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製
(研究総括:福山秀敏)

 本研究領域では、標記戦略目標に向けて、日本の物質科学をリードする頭脳集団が形成され、理論を含めた物性解明を基軸として、ナノ構造体材料に関するトップレベルの研究がなされた。学術論文1052件、特許70件などに示されるように研究成果は質、量ともに高く、スピン液体、単一分子種金属、単分子磁石などナノ構造の新物質状態の実現や、電極問題などの基本課題に貢献する極めて興味深い学術的成果が得られた。その中で、社会的・経済的効果としても、カーボンナノチューブや巨大負熱膨張材料について企業と共同研究を推進している点は評価したい。
 しかしながら革新的デバイス、材料は物質科学研究のみからは生まれないことにも留意すべきである。本研究領域の目指したところと、戦略目標達成との距離は大きく、本研究領域が革新デバイス創出の核となるためには、応用開発に関わる他分野と緊密に連携し、現行のデバイス、システムの可能性と限界を明らかにしつつ、高度情報処理や通信にむけてどのような寄与をなしうるかの方向性を明らにしていくことが必要であろう。

研究領域:医療に向けた化学・生物系分子を利用したバイオ素子・システムの創製
戦略目標:非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製
(研究総括:相澤益男/雀部博之)

 本研究領域では、標記戦略目標に対して、ナノテクノロジーを核として医学と工学を融合した新分野の創設を意図して研究が進められた。遺伝子内包型ナノ構造体ベクター、抗原を抱合した抗レトロウイルスワクチン、スーパー抗体酵素などで世界をリードする優れた成果が出ている。
 本研究領域における研究は、全般的に基盤研究のレベルであり、直接、社会的・経済的効果を目指した取り組みは少ないが、医工連携等を通じて、再生医療、ドラッグデリバリーシステムなどへの発展性が期待されるシーズも生まれている。特に、医工連携のプラットフォームを構築した点は高く評価できる。ここでの研究を出発点として、研究が継続され、実用化の期待される成果も育っており、今後更なる実用化に向けた取り組みを期待したい。

研究領域:ソフトナノマシン等の高次機能構造体の構築と利用
戦略目標:非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製
(研究総括:宝谷紘一)

 本研究領域は、標記戦略目標の中のソフトナノマシンの研究に主眼を置いており、ソフトナノマシン、特に分子複合体レベルでの機構解明や基礎技術などにおいて多くの成果を上げ、例えば、「ゆらぎを利用した分子機械」など究極の省エネルギーシステムを想起させる興味深い研究など、科学性を重視したレベルの高い研究が遂行された。
 しかし、研究領域全体としての特許出願数も少なく、ソフトナノマシンを医療システムとして利用するという戦略目標の達成に対して、どこまで資するものか明確でなく、十分な見通しも得られていないと思われる。工学的側面からのアプローチの強化が望まれる。基礎研究としてノーベル賞級の成果が含まれているとしても、その成果がどのような波及効果をもたらすのか、具体的に明確にすべきであろう。

研究領域:医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製
戦略目標:非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製
(研究総括:茅 幸二)

 本研究領域では、標記戦略目標の下に、研究領域としては「医療に向けて」という目標を掲げて、自己組織化等の分子配列制御によりボトムアップ的にナノ構造を制御して人工生体材料を創製することを目指して研究が遂行された。本分野は、化学と生命科学・生物物理の多様な観点から、物質科学と生命科学を融合した新分野として注目され、国際的にも競争が激化している分野である。本研究領域からは、ナノからマイクロにいたる新機能性物質等に関して多くの優れた研究成果が出され、トップジャーナルでの発表、特許出願、招待講演なども多く、一部では医療への応用が視野に入る成果が出されている。
 ナノ研究者と生物系研究者が連携をとれる体制を構築したことは評価できるが、目に見える形での異分野間の連携・融合の研究が実現していたようには見えず、一朝一夕では達成できない課題を多数抱えていると思われる。社会的・経済的効果、実用化への道のりは未だ遠く、戦略目標の達成に資する研究成果としては今後の更なる取り組みが必要であろう。

研究領域:環境保全のためのナノ構造制御触媒と新材料の創製
戦略目標:環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製
(研究総括:御園生 誠)

 本研究領域は、ナノ構造物質の創製を通して、標記戦略目標に貢献することを目指しており、世界的な緊急課題である環境保全とナノサイエンス・テクノロジーを結びつけた最も話題性のある研究領域の一つである。戦略目標を受けて設定された研究領域の狙いは妥当であると評価できる。新規なナノ構造の創製、ナノ構造の新規な制御法の開発、その触媒機能の研究が行われ、基礎的研究としては、論文発表などの実績に見られるように、数多くの優れた成果が得られている。
 本研究領域の研究から直接的に環境保全に貢献する成果は得られてはいるわけではなく、社会的・経済的インパクトの大きい成果は限定されているが、工業的合成化学における新触媒の創製など産業利用への方向性を含む実用化研究が活発に行われており、これらの成果はトップジャーナルを初めとする数多くの論文発表、特許の出願につながり、戦略目標達成の基礎となる優れた成果が上がっていると評価される。

研究領域:エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製
戦略目標:環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製
(研究総括:藤嶋 昭)

 本研究領域では、ナノテクノロジーを活用して新エネルギー技術、省エネルギー技術を開発し、標記戦略目標に資することを目指し、種々のナノ材料開発が精力的に進められた。多くの論文発表、招待講演、特許出願に見られるように、新超伝導酸化物、層状酸化物熱電材料など科学的インパクトの大きな研究成果が得られた他、応用に展開する成果が多くのチームで得られた。
 本研究領域は、戦略目標の達成につながる多くの基礎的成果を挙げたと評価される。領域総括が、集団としてアウトカムを目指すことを明確に打ち出したことが、成果に端的に現れていると考えられ、本研究領域はCREST研究のモデルケースの1つとなると考えられる。

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