平成18年度研究領域評価結果について > 研究領域 「ナノと物性」 事後評価

研究領域 「ナノと物性」 事後評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域の意義、等)

 研究領域「ナノと物性」では、ナノメーターレベルで制御・加工した「ナノ材料」を主軸とした新たな産業分野の発展に資する研究を対象として支援が行われた。具体的には、材料設計、ナノ構造形成法、物性評価、デバイス試作などの研究が対象とされた。また、ナノテクノロジーは、物理、化学、生物といった既存の学問領域を横断する学問・技術の創出につながるものであることを捉え、パイオニア性の高い学際的な研究提案をより積極的に採択するという方針が採られた。総数526件もの応募が集まりその中から28件の課題がこの方針のもとで精査され採択された。その結果本領域では、先導性の高い優れた研究が多数行われ、我が国におけるその後の一連のナノテクノロジー研究重点的支援のさきがけとなった。本領域は我が国のナノテクノロジー研究に広がりを与え、科学技術の基盤強化に大いに貢献したと言える。
 本領域で研究を行った28人の研究者はいずれも気鋭の研究者であり、本事業への参加により、自らの研究領域を深めると共に、より広い視野を身につけることが出来た。特に、界面制御の重要性が様々な研究を通じて明らかにされたことはナノテクノロジー研究の今後の応用展開にとって重要な成果である。また、医療応用など展開領域を広げる先導的成果が出たことも特筆すべきである。
 基礎から応用、理論と実験にわたる学際的で多様な研究をバランス良く推進することは容易ではなく、それを見事に実現した神谷研究総括の深く広い学識と卓越した運営に敬意を表したい。本領域において、最終募集年に応募者が倍加したことは、本領域が若手の研究者に広く認知され高く評価されたことの証拠である。
 総合的な評価として、本領域は当初のねらいを超える成果を達成し、ナノ材料の科学技術の基盤強化とその発展に寄与すると共に、我が国の若手研究者の育成に大きく貢献したことから、極めて実り多い事業であったと認められる。

2.研究課題の選考(選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成と適切さ、等)

 課題の選考を行う領域アドバイザーは、ナノテクノロジー科学および技術の分野で豊富な経験を有する世界的な研究者によって構成された。本領域が扱う研究課題の広がりを考慮し、産官学、物理と化学、理論と実験、基礎と応用のバランスのとれたメンバー構成となった。期の途中で環境医療などにウィングを広げることを意識し、メンバーを追加したことも適切な対応であった。このようなメンバーのもとで、研究課題の選考に関しては、パイオニア的な研究に重点を置くこと、分野間のバランスに縛られない、個人の自立を重視するという方針が貫かれた。結果として、研究者の顔が見える先導的な優れた研究を適切に選別することに成功しており、高い倍率の中で精度の高い評価が行われた。

3.研究領域のマネジメント(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、研究費の配分、等)

 本領域は広い分野にわたるため、研究者の多様な要望に応えることは困難であるが、研究総括の広い視野と包容力、運営手腕により円滑な運営が行われた。また、アドバイザーの豊富な経験を折に触れて研究者に伝える工夫がなされた。年2回の非公開の泊まり込みの研究会では終了研究者も含め、研究者達が起居を共にした。これは、本領域で目指した融合的学問の発展の種を植え付ける絶好の機会となった。この効果は研究者の今後の活動の中で明らかになるはずである。また、研究成果の対外報告はナノテクノロジー関連の4領域と合同で行われた。これは、本領域での優れた研究成果を広くアピールすると共に、参加した研究者が自らの研究の位置づけを確認する上でも有益であった。
 先端ナノテクノロジー研究においては、試料作成、評価共に大規模な共用施設の利用が必須となる場合が多い。このような施設を利用する研究において、さきがけ研究者の独立性を尊重する運営を担保するための工夫が必要である。本領域では、全体の実験システムのブロック図を研究者に明示させ、本事業による支援部分を明確化させた。これは研究者自身に独立した研究者としての自覚を促し、また周囲の研究者にそれを示すとともに、本事業の研究費をその趣旨にそって適切かつ効率的に活用することに役立った。
 研究者ごとの研究費配分については、留め置きの財源を有効に活用し、研究者の移動など特殊要因への配慮がなされ、研究の円滑な遂行に役立った。研究総括がトップダウンマネジメントをより強力に行えるような、財源措置を行うことができれば、成果に応じてよりメリハリのある采配ができたのではないかと考えられる。JSTにはこの点を考慮した工夫を期待したい。
 本領域の運営の特徴に、特許支援がある。技術参事の企業における豊富な経験をもとに、研究者に対して、特許申請指導・支援が行われた。知財の啓蒙と教育に役立ち、特許申請は65に達した。この活動は、知財についての研究者支援の一つのモデルとして活用すべきである。

4.研究成果(①研究領域の中で生み出された特筆すべき成果、②科学技術及び社会・経済・国民生活等に対する貢献、③問題点、等)

 本研究領域の優れた成果として、トンネル磁気抵抗素子の新しい作成法の考案による世界最高のオンオフ比の実現(湯浅)、ナノ無機−有機コンポジット材料開発とそれによる細胞感染抑制機能を持つ経皮デバイスの開発(古薗)、高分解能近接場光学顕微鏡による量子ドット励起子波動関数の観察(松田)、ガドリニウム内包フラーレンによる超伝導トンネル接合素子の作成(塚越)、自己組織化ナノ有機分子による機能性集合体構築(磯部)などが挙げられる。この他、固体中のスピン制御やフラーレン、ナノチューブ関連研究で優れた研究成果が多数あった。また、ナノ材料を利用する為には、界面の役割を理解しその制御を行うことが本質的である。本領域において、その本質を捉えた先導的成果が多数あった。
 研究成果は多数の原著論文および特許として報告され、成果は質量共に十分である。多くの受賞や研究者の昇進実績がこの成果を裏付けている。

5.その他

 20世紀における科学技術の爆発的な進歩により、人類は膨大な知識を獲得した。この知識の海に溺れることなく、新たな知の領域を拡大していくためには、知識を俯瞰し再編する作業を進めていくことが必要である。本研究領域において、「ナノテクノロジー」を物理学、化学、工学といった既存の学問のディシプリンを超えて新しい学問領域を形成する為のプラットフォームと捉えるという方針が貫かれ、それがもくろみ通り成功したことは極めて意義が深い。本プロジェクトで培った、学問領域を超えた知の交流が、この考え方をさらに発展させ、人類全体の福祉に資する新しい学問・技術を生み出すことを期待する。
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This page updated on July 25, 2007
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