平成18年度研究領域評価結果について > 研究領域 「生体分子の形と機能」 事後評価

研究領域 「生体分子の形と機能」 事後評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域の意義、等)

 研究領域「生体分子の形と機能」は、遺伝情報を機能として具現化させる実体であるタンパク質に焦点をあて、物理および化学的手法およびバイオインフォマティクス的手法によりタンパク質の立体構造から機能発現メカニズムを解き明かすことを目指している。
 このように本さきがけ研究は、ポストゲノム解析の中心課題であるタンパク質の機能を明らかにする目的で立案された、時期を得たものである。実質的な領域アドバイザーの運用により採択された若手研究者による研究は、タンパク質の立体構造形成について、多くのブレイクスルーとなる成果をあげ、さらにタンパク質の機能発現、形と機能を統合するバイオインフォマティクスの領域においても注目すべき成果をあげている。本さきがけ研究は的確に計画され、的確にマネージングされることにより当該ポストゲノム分野の発展に大きく寄与したと判断する。本さきがけ研究は特に研究総括の意欲に満ち、使命感を持った指導性で、若手研究者の成長がなされ、次の時代を担う研究者が、本研究領域から輩出されると考える。

2.研究課題の選考(選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成と適切さ、等)

 本さきがけ研究は、タンパク質に焦点をおき、1)その立体構造形成の仕組み、2)立体構造に基づく機能発現の仕組み、および3)立体構造と機能を結ぶバイオインフォマティクスという3点から研究を進めその統合を図るという、研究の意図が明確であり時期を得た研究である。選考方針においては、研究内容を柔軟に捉えた前広な研究領域の設定、研究者の独創性およびチャレンジング精神の重視など、さきがけ研究制度に適した選考方針となっている。選考に当たっては、知的財産の形成や新技術創製につながるなど現実性の高い研究課題に関しては3年間の構想を厳しく評価し、また当面の応用を意識しない研究に関しては、研究統括による申請者の「夢の質と研究者の資質」を問うといった、通常では難しいしかし重要な観点からの評価を行い、いずれの方式により採択された課題も成果を上げている。
 また、領域アドバイザーも、本研究領域を見渡せる研究者により構成され、採択課題のバランスも、バイオインフォマティクス研究者が若干少ないものの、当時の当該研究領域の広がりを考慮すると許容範囲で、全体として良好である。したがって、上記の方針およびアドバイザーにより採択された課題は、充分本研究領域の充実、発展に寄与しているものと判断する。

3.研究領域のマネジメント(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、研究費の配分、等)

 運営方針については、研究総括が全課題担当者の所属機関を訪問し、関係者に協力を要請するなど、木目の細かい活動をしている点は評価できる。また、領域会議を定期的に開き、さらに類似のCRESTプロジェクトとの合同成果報告会など開催し、双方のプロジェクト研究の推進に相乗効果をもたらした。この点は今後のこの種のプロジェクト研究の有り方に一石を投じたものとして高く評価できる。また、領域会議および研究成果報告会に基づき、予算の重点配分がなされたこと、また当初予定していた研究計画が不可避的外的要因により遂行が困難になった場合の総括による成果に結びつく適切な関与は評価される。  したがって、本研究領域では、適切な評価、指導と弾力的な研究費配分が行われ、全体のマネジメントは良好であると判断する。

4.研究成果(①研究領域の中で生み出された特筆すべき成果、②科学技術及び社会・経済・国民生活等に対する貢献、③問題点、等)

 多くの優れた研究成果が挙がっている。濡木博士による「X線結晶構造解析によるtRNA伸長機構の解明」、小澤博士による「タンパク質オルガネラ移行と遺伝子発現の非侵襲的時空間解析法の確立」、および村上博士による「X線結晶構造解による多剤排出タンパク質の薬剤認識機構の解明」は、日本を代表する極めてインパクトの高い研究であり、本研究領域の底上げをするような基礎的研究である。その他の課題に関しても、今後の展開が期待されるものが多く、また研究領域の幅を広げるような成果も出ている。
 研究期間中に、297報の論文がNature, Science, Cell, PNAS, Neuronなど世界のトップジャーナルに掲載されたことからも客観的評価は確立している。また、研究期間中に20人がプロモーションしたことからも、次の世代を担う研究者の人材育成も順調であった。
 本さきがけ研究の推進の中で共同研究が行われ、5編の論文がその成果として報告されている。これは、本研究領域が単に個人研究の集合というものではなく、領域内における自然発生的な研究展開がなされていたことを示している
 ポストゲノム研究の中心であるタンパク質の形と機能を理解する上で、本さきがけ研究は最先端の知見を提供し、生命科学における貢献は大きい。またいくつかの研究は特許の申請につながり、研究成果に基づいたベンチャー企業も立ち上がっていることからも、産業界に本研究領域の成果が生かされていると判断する。

5.その他

特になし
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This page updated on July 25, 2007
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