平成18年度研究領域評価結果について > 研究領域 「情報と細胞機能」 事後評価

研究領域 「情報と細胞機能」 事後評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本領域の意義、等)

 本研究領域はライフサイエンスにおいて細分化の進む先端研究と包括的な生命システムの理解との融合を目指した領域設定であるが、研究の多様化時代を迎えた現在において、このような「さきがけ」の役割は大きく、総合的にみれば、今後のわが国の生命科学領域を担う若手研究者の育成という意味で、大変大きな成果があったと考える。本領域が成功裡に終了したのは①研究総括が目的にとらわれない自由な発想と展開にこそサイエンスの重要性があるという哲学を前面に打ち出し、それを実行したこと、②選考を慎重に行い、適正な研究者が選択されたこと、③領域アドバイザーが研究総括の意を汲んで進捗状況を把握し、的確なアドバイスを行ったこと、などが挙げられる。
 このような研究の支援において重要なのは「結果を恐れないで、科学の新しい地平戦を切り開く」という姿勢であると考える。これは、研究遂行者のみならず、それを評価、支援する側にも求められる姿勢であろう。従って、当然のことながら、すべて大きく実を結ぶ結果に終わることは当初から期待してはいけない、とも言える。すなわち、採択時の計画はすべて独創性、将来性に溢れたものであっても、その中から、僅かでも大きく結実する成果が得られれば、本研究領域の設定・運営は成功した、と評価されるべきであろう。その意味では今回の研究成果の中には当該分野の進展に大きく寄与したものが多く見いだされることから、本領域遂行の意義はたいへん大きなものがあったと評価される。実際に、研究成果はライフサイエンスの広い範囲にわたり、それぞれの分野における新しい発見、新しい概念の提出があり、我が国のサイエンスの進展に大きく寄与したことは間違いない。また、本領域で支援された研究者の多くがその後、(教授に就任など)プロモーションされているのもその成果の証といえよう。特定の研究機関に研究者が集中しておらず、全国的に網羅していることも評価される。本プロジェクトの真の評価はこれら卒業生の今後の活躍により決まるところが大きいとも考えられることから、選ばれた研究者諸君のこれからの大いなる飛躍、活躍を期待したい。
 今後とも、科研費等とは性格・目的が異なっているこのような「明日を切り開く研究と明日を担う研究者の育成」の目的を見据え、「さきがけ研究」が更に多くの成果を挙げていくことを期待する。

2.研究課題の選考(選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成と適切さ、等)

 研究領域「情報と細胞機能」はライフサイエンスのすべての領域を含むと言って良いほどの幅広い設定となっており、門戸を広げて優れた若手研究者の登用を図ったものと理解される。すなわち、独自のアイデアで他とは異なった視点と切り口から研究を遂行することが出来ると思われる若手を慎重に選考されたが、結果からみてその選考は正しかったと評価される。研究総括の具体的な研究目標にそった4つの主要の選考方針は明確であり、さきがけプロジェクトとしては妥当であった。
 具体例として病気との関連をあげているが、他に類を見ない研究、目からうろこの落ちる発見、大グループの歯車でない研究などを基準として選考されたとあるが、その姿勢は選考結果に良く反映されている。生体の情報の可視化などの新技術を導入する、遺伝情報の伝達・発現とその制御過程と異常について解明する、などの視点から、細胞機能の異常とそれによる疾病の解明、といった研究課題の選考方針は極めて妥当であり、かつ明日の医学・生命科学の新しい地平線を開拓しようとする極めて意欲的で興味深い設定となっている。そして、その選考過程の公正性も前面に出ており、且つ本プロジェクトの研究目標に合致した将来に期待できる独創性の高い課題が採択されていた。領域アドバイザーも若手の育成に熱心な先生方から構成されており、厳しく建設的な指導が行われたと思われる;あえていえば、当研究分野では女性にも優れた研究者がいるのでその点を考慮しても良かったかも知れない。
 総合的には、研究統括の方針が十分に理解され、広範な領域より優れた課題が選定されている、研究課題の前段階の領域アドバイザーの選定が確かなものであったことを示している。選択された課題は、ねらい通りライフサイエンスの広い領域に渡っており、ともすれば見落されがちの若手研究者による優れた研究が選ばれている。

3.研究領域のマネジメント(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、研究費の配分、等)

 研究総括のマネジメントとリーダーシップが存分に発揮された領域である。すなわち、細胞の内的情報の仕組みとその仕組みの破綻による疾病発症について若手による自由な発想に基づく先駆的な研究を支援する、という「関谷放牧場」の運営方針はまさに適宜であったと高く評価される。最初に立案したプロジェクトの目的を達成することよりも、むしろプロセスにこだわり良い方向に展開することに主眼を置いて自由度の高い研究を支援、推進していることが印象的であった。結果的には支援を受けたほとんどの研究者がプロモーションを受けていることからもその運営方針が適切かつ重要であったことが伺える。研究進捗状況については、領域アドバイザーを含む会議を年2回の割合で実施されていたが、研究総括や領域アドバイザーの意見や助言がどの程度有益で有効であったかは判断しにくいところもあるが、研究者によってはsite visitingを行なうなどのきめ細かな指導がもっとあっても良かったかも知れない。
 研究統括は高い立場での基本的な方針決定、運営・指導にあたり、具体的な研究進捗状況の把握と評価、指導においては各領域アドバイザーが重要な役割を果たしたものと思われる。「研究領域会議」「研究成果報告会」などでの、領域アドバイザーからの厳しい批判、建設的な示唆が新しい研究展開に繋がった例の報告もあり、システムはスムースに機能したことが伺える。研究費の配分は、研究進展にともなう重点的予算追加が加味されているが、比較的高低の幅は少なく、平均42百万円となっている。研究者全員の研究計画が満たされていたとのことであり、適切に配分されていたといえる。

4.研究成果(①研究領域の中で生み出された特筆すべき成果、②科学技術及び社会・経済・国民生活等に対する貢献、③問題点、等)

 報告論文総数320件であった。研究者総数が32名であり、平均して各研究者が3年間(修了後の1−2年の期間を含めて)10報の論文を発表していることになる。これらの数字だけからの評価が適切かどうかは議論のあるところであるが、ライフサイエンスのトップジャーナルがかなりあり、大変順調な成果が得られていると考えられる。なお、各研究者による報告論文数では27報から2報とかなり差がみられた。以下に述べるように、元来の知識では解けなかった事象が本領域ではいくつも明らかにされており、将来応用面にも貢献できる可能性が高い成果も挙げられた。少数ではあるが、思ったように成果が上がらなかったプロジェクトも存在するようであり、そのような研究者を研究総括や領域アドバイザーはどのように導くべきかが一つの課題であろう。ただし、本さきがけ研究は、CRESTなど他のプロジェクト研究と異なり、得られた成果がすぐ社会経済や国民生活につながるものではないものの、国外10を含む33の特許出願もされており、将来的には重要で萠芽的研究内容を含んでいたことが認めらたことに意義があると考えられる。
以下に特筆すべき成果を挙げる。
○アニオントランスポーターLST-2遺伝子の研究によるがん細胞選択的な制がん剤導入、という方法を開発し、がん治療技術の開発に貢献しつつある(阿部)。
○小胞体ストレス応答研究の新経路を見いだし、当該研究分野に新しい展開をもたらしたとともに、更なる新展開を見せようとしている(吉田)。
○糸状菌毒素ACRに対する受容体研究やACR毒素生合成に関与する遺伝子クラスターの特定など、地味ではあるが独創的な研究を発展させた(秋光)。
○膜輸送分子としてのprotrudinの機能解析を進め、神経突起形成機構に新展開をもたらし、神経変性疾患の解明にも貢献する研究を進めている(白根)。
○巨大プロテアゾーム形成時に分子集合を司るシャペロン分子群を発見し新しい研究分野を展開させている(村田)。
○2光子励起断層画像法を駆使し、膵島における開口放出機構の研究に新展開をもたらし、糖尿病の病態解明などにも貢献する成果を挙げている(高橋)。
○ゴルジ体が異なったユニットに分かれており、それぞれ異なった機能を担うことを明らかにした(後藤)。
○ミトコンドリアゲノム欠損変異を持つマウスを作製し、特定のゲノム領域の欠損が♂の不妊に繋がることを見いだした(中田)。
○プルキニエ細胞を中心とした小脳特異的レンチウイスルヴェクターを開発し、応用への道を拓いた(平井)。

5.その他

 全体的にみれば既述したように、本領域設定とそれによる研究成果は極めて高く評価される。申請資格について:本さきがけの際だった優れた特徴として申請資格が挙げられる。本さきがけでは32名の研究者を採択しているが、そのうち、10名は採択当時、国内に常勤職をもたず、うち、3名は外国の大学所属である。ポスドクの増加や大型ナショナルプロジェクトの増加のなかで、研究資金提供システムと職位の関係が多様化していくなかで、本特徴の恩恵を期待する研究者層はますます増えていると思われる。さらに、上記のように、本課題終了時にこれらの研究者がいずれも我が国の大学、研究所にしかるべき職位を得ていることは特筆に値する。
■ 戻る ■
This page updated on July 25, 2007
Copyright©2007 Japan Science and Technology Agency.