平成18年度研究領域評価結果について > 研究領域 「高度メディア社会の生活情報技術」 事後評価

研究領域 「高度メディア社会の生活情報技術」 事後評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域の意義、等)

 本研究領域は、先端的情報通信技術と「生活」の乖離を縮小することを狙ったもので、科学・技術の国民生活や社会経済への貢献が強く求められている現在、質が高い安心できる暮らし、活力ある社会の構築を目指したことは,時宜を得たものである。「高度メディア社会」における多様な「生活情報技術」を「あらゆる人々が自由に使いこなせる」という観点からとらえて設定された本領域が、メディアを中心とした情報技術と研究領域の新しいカタチを、国際的にも先導的に示したことは、極めて有意義である。これは戦略目標にも合致し、当該分野の進展への寄与が極めて大きい。
 具体的には、「人間」や「社会」という対象の理解、人にやさしい情報技術、新しい利便性をもたらすコンテンツ構築などの多様な研究課題を採択して、学術的、文化的、あるいは実用的にそれぞれ個性のある十分な成果を挙げた。課題の独立性を尊重しつつ、大きなシナジー効果があったと思われ、その観点からの情報発信が望まれる。ごく一部にねらいは良かったが少し具体性に欠け将来の見通しが不透明な研究課題があったが、総体として研究領域の成果は期待を超えるものがあったと高く評価できる。
 また、本領域は、情報技術の「量から質へのパラダイムシスト」と「未来社会の明示」という2つの視点を示したポスト情報化社会の情報技術のあり方を示したものとして重要である。さらに、本研究領域の研究課題から数多くの優秀な研究グループが大型研究資金による研究を継続して、分野の大きな広がりを見せており、本研究領域が学術的に先導的役割を果たした意義は大きい。

2.研究課題の選考(選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成と適切さ、等)

 テーマの独創性に加えて、学問的な成果だけでなく、実用につながり社会に貢献しうるテーマに重点を置いた選考方針は適切であり、かつ、「生活情報技術」を対象としたCREST研究領域の姿勢として重要である。また、情報社会のあるべき姿の多角的な探索を狙ったことは優れた判断であった。
 採択課題は類似のテーマを避けて、研究領域のねらいの範囲で、「人間」と「情報コンテンツ技術」の2分野を中心にバランスよくかつ挑戦的に採択が行われている。とくに、社会科学的側面をもつテーマの採択は、新たな研究領域開拓の例としても評価できる。一方、当初想定したバリアフリーや調和社会などの研究課題が少なかったことは、公募とはいえ、残念である。
 領域アドバイザーは大学、国立研究機関だけでなく、企業からも招聘し、深い経験と見識を有する研究者でバランスよく構成され適切であった。生活情報技術という視点をもち、実用化を考慮した取り組みでもあったので、ベンチャーキャピタルなどからのアドバイザーを中盤以降に取り込むとさらに効果的であったと思われる。

3.研究領域のマネジメント(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、研究費の配分、等)

 領域アドバイザーの協力を得て、各課題の研究現場を頻繁に訪問して、進捗状況のチェックとアドバイスを行ったことは、適度の緊張感とフィードバックによるよい効果を生み出した。研究総括自身が24回も現場を訪問し討論するなど、現場を重視した運営は高く評価される。
 期間中の5回のシンポジウムは課題間の相互理解と相互啓発に十分役立ったと思われる。とくに生活情報技術課題に対して、生活者・利用者側の視点として、人間科学研究者による積極的な議論とアドバイスを促すことによるシナジー効果促進のマネジメントを実施したことは高く評価できる。
 研究費は、テーマ内容とチーム構成の多様性を尊重しつつ、中間評価結果等を反映して課題間で最大3倍に達するダイナミックな配分を実施し、柔軟な姿勢をとった。追加配分なども研究代表者の要望を聞いており、予算は有効に使われている。論文など学術的成果の同一基準で機械的に評価せず、広く活用される情報サービスという成果軸なども設定し、アドバイザー間での合議によってとりまとめたことも極めて的確かつ効果的に働いたものと高く評価できる。

4.研究成果(①研究領域の中で生み出された特筆すべき成果、②科学技術及び社会・経済・国民生活等に対する貢献、③問題点、等)

 課題の性格に応じて、論文などの学術的評価、広く活用されるサービス、科学技術展示・教育コンテンツとしての社会発信など、多岐にわたる十分な成果が達成された。以下のテーマは、研究分野にインパクトをもたらした。文化遺産データベースのテーマは大規模な文化遺産のディジタル保存への道を開拓した。感情音声分析のテーマは発話音声の表現力の豊かさを探求した。ディジタルヒューマンのテーマは人間機能のモデリングに挑戦した。テレイグジスタンス(遠隔存在感)のテーマは遠隔相互コミュニケーションの完成度を高めた。また、情報のモビリティのテーマなど国際的に評価が高い成果も得られている。連想に基づく検索技術は実用性の高さが評価できる。
 文化遺産データベース、ディジタルシティ、着用指向情報パートナー、ディジタルヒューマンなどは、マスコミで取り上げられ、近未来の「生活情報技術」の啓蒙に大きく貢献した。書籍「ヒューマン・インフォマティクス」の出版は、一般読者に向けて高度メディア社会の未来像を適切に呈示するのに大きく役立った。また、若手研究者にとっても、この分野の非常に有益な手引き書となるであろう。
 シーズオリエンテッドな基礎研究でありながら「人」や「社会」に使われ役に立つ研究の探索は困難であるが、今後さらなる進展を期待する。

5.その他

 研究成果としてのデータベースやソフトウェアに関して、本研究分野のみならず周辺分野の研究材料としての貴重な財産となりうるので、より使いやすい環境構築への組織的な取り組みの実施により、研究コミュニティへの普及がさらに促進され、今後のメディア研究にとって有益な研究資源となることが期待される。また、実用の面からみて、今回の成果をもとに新ビジネスの創成を推進することも大事である。それぞれ成果を創出した研究者は、勇気をもって起業してはどうか。
 研究統括とアドバイザーの努力で、機械的な評価を避けている点が評価できる一方で、報告される課題評価の基礎データが、論文発表件数、特許件数など、旧態依然としている点は改善が必要である。特に本研究領域では、データベース(コーパス)の体系的収集、教育方法論、コンテンツ、データベース検索実用サービスなど、有益かつ形のある成果が出ており、これらも基礎データとして整理してまとめるべきであろう。
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This page updated on July 25, 2007
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