平成18年度研究領域評価結果について > 研究領域 「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」 中間評価

研究領域 「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」 中間評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果及び当該分野の進展への寄与の見通し、本研究領域の意義、今後の研究推進への提言、等)

 コンピュータ、ネットワークの急速な進歩に伴い、物質、材料、生体などのミクロからマクロまで扱える新たなシミュレーション技術の構築が待望されている中、本研究領域「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」の設定は時宜を得たものである。
 「原子・分子レベルの現象」に基づいて医療・情報産業における「精密製品設計・高度治療実現」という極めて困難な課題に挑戦している点で高く評価できる。また、個々の研究チームでは、例えば久田チームの「心臓シミュレータの開発」や石田チームの「材料の組織・特性設計統合化システムの開発」のように、かなり実用化に近い段階にまで計算科学を進めた点でいくつかの重要な成果が見られる。
 今後もこの方向の努力をつづけるべきである。
 なお、「原子・分子レベル」の研究チームと「精密製品設計・高度治療」の研究チームとは、ほぼ、独立に研究を推進している。原子、分子レベルの量子力学と細胞や組織レベルの現象論的法則(流体力学、熱力学など)の間には原理的、法則的なギャップがあるが、両者をつなぐ課題についての情報交換を行うことが望ましい。その努力によって新規プロジェクトへ発展させる可能性も発生するものと思われる。

2.研究課題の選考(選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成と適切さ、等)

 「医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立」という研究領域の戦略目標および4つの達成目標「マルチスケール・シミュレーション技術の確立」、「マルチフィジックス・シミュレーション技術の確立」、「ネットワーク上に分散した多数のソフトウェア・データベース等を有機的に統合し、複雑問題を解析するシステム構築手法(データベースシステム技術等)の確立」、「革新的アルゴリズムの開発」に沿って計算科学各分野の課題が概ね適切に選定されている。
 一方、その「戦略目標」に掲げられた「原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現」という観点からは、「原子・分子レベル」に関する提案と「精密製品設計・高度治療実現」に関する提案の間にまだかなりの隔たりがあるように思われる。両チームから相手チームの研究成果を考慮しての両者をつなぐことに関する議題が起こることを期待したい。将来、その議論を基に、このギャップを真に埋めるような新領域の設定がなされる可能性もあろう。

3.研究領域のマネジメント(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、研究費の配分、今後の取り組み、等)

 研究報告会、公開シンポジウム、ワークショップなどを通じて、研究の進捗状況が的確に把握されている。また、「CREST」型と「さきがけ」型を組み合わせることにより、チーム研究と個人研究とが相互作用をもつユニークな取り組みになっており、成果が期待される。
 さらに、優れた研究成果が期待される研究に研究費増額の配慮が行われたことは評価される。一方、領域アドバイザーのほとんどが情報科学系で占められおり、他の分野、「原子・分子レベル」の研究の現状を的確に判断し得る研究者の比率を高めることが必要と思われる。また、戦略目標を実現していく上では、生体・医療や地球科学分野の専門家、「ものづくり」の現場からの領域アドバイザーも含まれることが好ましい。

4.研究進捗状況(①研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、②今後期待される科学技術及び社会・経済・国民生活等に対する貢献、③懸案事項・問題点、等)

 個々の研究にはいくつかの重要な進展が見られる。例えば、久田チームの「医療・創薬のためのマルチスケール・マルチフィジックス心臓シミュレータの開発」はイオンチャネルという分子レベルから心臓の拍動というマクロな現象までの階層的シミュレーションを実現している。この研究はミクロからマクロまでのシミュレーションのシステム(枠組み)を構築したという意味でその意義は大きい。また、石田チームはシミュレーションの結果に基づき合金設計を行い、それに基づいて実験を行って新しい合金を発見した。これはシミュレーションの結果が実際に「ものづくり」に活かされた数少ない例のひとつであり特筆すべき成果である。
 一方、個々の階層、特に、ミクロ(分子、原子レベル)な階層に関しては、現在、それぞれの分野で研究が急速に進展している段階であり、そのような新しい展開をどのようにより高い階層(マクロ)に組み込むことができるかが今後の課題となろう。

5.その他

 特になし
■ 戻る ■
This page updated on July 25, 2007
Copyright©2007 Japan Science and Technology Agency.