研究領域 「協調と制御」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 研究領域「協調と制御」は、協調的制御が存在証明されている生物系、及びさらに柔軟で強靭なシステムが望まれているコンピューターシステム、その融合領域などからのテーマを採用し、「現代科学におけるコミュニケーションの情報学的・工学的重要性を認識し、長い年月をかけて生物が進化させた種々の巧妙なネットワークにおける協調的制御方法を明らかにすると共に、それと関連して、新しいコンピューター技術、ネットワーク技術、インターフェイス技術に関わる研究領域を創生する」ことを目標として領域が設定された。これまで関連がないと考えられていた分野からの研究テーマが領域主題である「協調と制御」という観点でつながり、多くの研究成果を生み、その横断的な運営により新しい研究分野を生み出そうとしていることは、大変意義のあることと言える。特に本研究領域を通じて、複雑系科学、システム科学の研究方法の一つを確立したことの意義はきわめて大きい。

 科学は従来、要素の解明を主たる手段としてきたが、本領域研究は要素解明だけでは得られないシステム的理解のための研究方法を開発することに重点をおいた。又、工学においては要素技術が開発されると共に、システム構築の技術も同時に開発されてきた。それ故、科学、とりわけ物理科学と工学は相性の面で必ずしも良いとは言えなかった。本研究によって科学においてもシステムとして解明されうる具体的な道筋が見えたことは画期的である。

また、本研究領域の存在によって、優秀なポスドクのみならず、大学院生を研究計画書に登録することにより、さきがけ研究に参加させることが出来るなど、事業を通じた若手研究者の育成の意義は大きい。

 総合的な評価として、研究領域の設定目的、達成状況及び研究総括のマメジメントについては的確かつ効果的であったと認められる。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 「協調と制御」という領域は、人間・社会・環境間の情報のやりとりと制御を、生物系をモデルとして定式化し、新しい工学的手法を生み出そうということで、非常に広い範囲の課題が含まれている。全体としてはバランス良く課題が選ばれている。

 アドバイザーの構成も、その分野で定評のある優れた専門家であり申し分ないが、採択課題に脳関係が多い割には情報系のアドバイザーが多かったように思われる。また、産業界から期待されている分野でもあるので、産業界からの参画を増やした方がもっと良かったのではないかと思われる。

 選考は全ての応募者に書類選考と面接を行うのが理想であるが、応募数が多かったことを考慮すると、可能な限り多くの研究提案を直接聴取し、提案内容を吟味し、本人の熱意を配慮するなど、良く工夫された選考方法が取られたと判断できる。尚、結果として、2名の女性が採択されていることは評価できる。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 若手研究者の育成と独創性に富む研究の推進、新しい研究領域の創成を目標に、有機的なチームが構成され、領域が運営された。また、年2回の領域会議の他に分野を絞ったサブ領域会議を企画、実行し、より深い議論が出来るように工夫した点は評価できる。

 さらに、研究総括が積極的に研究者の所属機関を個別に訪問し、研究環境の確認、研究の進捗状況についての意見交換を行うなど、大変素晴らしい試みである。また、ポスドク以外に院生も将来の優秀な科学者として育てる仕組みを取り入れたことは非常に好ましいことであった。

 予算配分については適当であると判断でき、十分満足のいく予算処置であった。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 研究成果は論文、国際会議などで数多く発表され、本研究領域アクティビティの高さを国内外に示した。優れた研究の一例として、四方哲也研究員の遺伝子ネットワークの再生と共生、競合から共生への転移の発見は特筆に値する。黒田真也研究員のシグナル伝達機構の解明は胚発生における分化の問題にシステム論的な解を与えた画期的なものと思われる。北澤茂研究員の時間順序の脳内表現に関する研究は生物における時間の起源問題を解決する突破口の一つを開いたと考えられる。西尾信彦研究員のモバイルネットワークの自立再構成も今後のモバイル社会を牽引する技術に繋がることを予感させる。河原達也研究員の会話の自動書き起こしは誰もが必要と感じていた技術だけに快挙だと思える。坂上雅道研究員のサルの「思考・推論」実験はそのアイデアが斬新であり、完全に成功すれば脳の高次機能の解明にとどまらず、人と動物とのコミュニケーションを拡大させる技術に発展すると思われる。大沢幸生研究員の予兆発見の研究は、多くの人が日常的に感じている科学的な研究に発展しにくい課題を果敢に取り上げ、一定の成果を挙げていることに感心した。また、岡田真人研究員の一般的に生物分野では評価されにくい理論研究でありながら優れた研究成果を挙げ、生物分野においても理論研究の必要性を強く印象付けることに成功している。このほかにも数々の研究成果が出てきており、本研究領域での成果が元となった新しい研究の潮流を期待したい。そのためにも、本事業終了後も、研究者の交流や研究成果を議論できる機会があることが望まれる。

 

 

5.

その他

 

 本領域では、研究総括が各研究者を訪問し、研究課題について議論し、研究者を鼓舞した。また、領域アドバイザーも優れた批評者として機能した。このような交流が各研究者の優れた能力とうまく相互作用し、各研究者を成功に導いた一因と思われる。これはさきがけの他の研究領域でも行われていることであるが、優れた年輩の研究者が日常的に全国を回り、優秀な若手研究者を発掘し、議論し、鼓舞するような仕組みを、国として戦略的に系統的に行うべきであるという意見も出された。

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This page updated on July 26, 2006

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