研究領域 「秩序と物性」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 研究領域「秩序と物性」は金属・無機・有機という枠に捉われることなく、原子やイオンの配列の次元性を制御した物質や材料を作り、その物性を評価して構造と物性の関連性を把握することによって、わが国発のオリジナルな高性能・新機能を示す材料の創製や、材料設計指針構築の基盤とすることを目指して設定された。これは、次期第三期科学技術基本計画の重点項目ともなっている“ものづくり”の重要性を見越した先駆け的なテーマであり、その先見性に敬意を表したい。

 本領域で得られた成果の多くは、国の基幹技術でもあるナノサイエンス・ナノテクノロジーに結びつく、産業への波及効果も高い研究である。各々の研究者が3年間という短い期間で将来の世界を支える材料が何であるかを見定め、そして設計指針をうち立てるのは難しいと考えられたが、実際にはその多くが国際的な業績を上げ、しかも約半数以上が研究期間中或いは研究終了後まもなくして昇進していることからも、将来の材料研究を担うキーパーソン発展の育成に成功したと言える。

 総合的な評価として、研究領域の設定目的、達成状況及び研究総括のマネジメントのいずれについても的確かつ効果的であったと認められ、高い水準のプロジェクトであったと位置付けられる。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 材料学分野において、将来を担う若手研究者の育成を通じて我が国発の新しい技術分野を切り開くことをコンセプトに、それぞれの研究分野に造詣の深いアドバイザーを産官学から幅広く選出している。また、専門的な研究だけでなく、人材育成に対する情熱の高さを選出の視点ともしており、適正な構成であったと言える。

 課題の選考は、単なるシミュレーション研究を選択せず、実験と理論のバランスの取れた物性研究を選ぼうとする方向で一貫していた。課題のバランスも無機材料、金属、有機、複合材料などの分野を網羅し、様々な分野の融合による新材料創成への発展を期待されるものとなっている。

 本領域では採択者29名中で女性が2名採択されている。材料系では女性研究者が他分野に比べ少ない傾向にあるが、このことを考慮しても、良い結果であったとの意見と、材料研究の将来のためには2名の採択では気がかりであるとの意見で分かれるところである。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 研究領域のマネジメントは、1)幅広い材料分野と種々の機関から物質作製に優れた研究者を採択してほぼ均等な研究費を与える、2)年2回行われる領域会議や研究室訪問を通じて研究環境整備状況と研究の進捗状況を把握する、3)研究員、総括、アドバイザー間の情報交換と相互交流を通じて個々の研究の深化と融合的新分野開拓の契機作りを同時に図る、また必要と判断すれば適当な資金的支援策をとる、4)個人的能力を最大限に発揮・開発させるために補助者は1名までとする、5)領域会議での質疑応答を英語で行うなど、英語力を涵養する、6)社会還元を狙った知的財産権利化のための講習会を開き,特許出願を励行するなど、明確できめ細かいものであった。特に3)は、未経験な領域に踏み込む未来開拓的な強い刺激を与える点で特に有意義である。

 全般的に、研究領域の運営は的確かつ効果的であり、優れた若手研究者の能力を育成する強い熱意が感じられた。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 成果として約230編の国際論文の発表、また、国内51件・PCT出願5件(所属機関からの出願を加えると10〜20%増)の特許出願があり、学術的貢献と知的財産の蓄積と充実への貢献は大きい。

 研究テーマは多岐に渡るが、幾原研究者はアドバイザーの助言を受け入れて未経験な実験に勇敢に取り組み、転位配列や粒界の周期性を利用した新しい工学・学問体系の構築を期待させる大きな成果を挙げた。岩村研究者は、炭素ハイブリッド構造膜について実用化の期待できるハードコーティング特性を実現した。任研究者は、独自の点欠陥対称性原理に基づき演繹的に巨大電歪効果材料を開発し、「独創的な高性能鉛フリー圧電材料」と題する技術説明会を開催するなど応用的研究に弾みをつけている。他にも、非晶質ポーラスシリカの微細構造制御による可視発光(内野)、錯体構造制御による湿度応答型磁性体の創製(大越)、光波アンテナによる輻射場の制御と発光特性(宮崎)、単一次元鎖磁石の構築(宮坂)、光磁性の発見(大場)などが挙げられる。今後は、本領域での研究が核となり、互いに融合して画期的な複合材料を創成し、また、新しい研究領域を生み出すことを期待する。

 

 

5.

その他

 

 特に期待のかけられる研究者には発展的な継続研究を、また発展性のある研究テーマには、新規メンバーをあてて更なる展開を目指す措置があってもよいのではないかという意見があった。また、研究総括とアドバイザー、研究者たちの間に築き上げられた繋がりを終了後も育む方策を充実させてもらいたい。

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This page updated on July 26, 2006

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