研究領域 「認識と形成」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 研究領域「認識と形成」は、「生物の形づくりと修復」を要素論的立場に立ち、原理的かつ統合的に明らかにすることを目的としている。すなわち、細胞、組織、器官、個体の段階を、それぞれシステムとして捉え、基礎生物学の最重要課題である「生物の形づくりと修復」を追究するために、本研究領域が設定された。

 「認識と形成」領域で成し遂げられた成果は、細胞内小器官から組織・個体形成まで広範囲に及んでいる。また、当該分野は基礎研究ばかりでなく、組織・器官の修復・再生にも直結する、極めてインパクトが高い臨床応用研究も含まれている。

 哺乳類から魚類、植物まで種を超えた研究領域であったが、メンバー間の交流も自主的に、そして活発に行われており、人材育成の面でも意義があったと判断される。本研究領域の運営を通じて、将来、世界的に活躍しうる主体的研究者を育て上げた点は高く評価される。

 視野の拡大、発想の斬新性と融通性、研究者としての実行力が、研究を飛躍させるために求められるという研究総括の考えにより、さきがけ研究の利点を最大限に生かし、本研究領域が運営された。研究総括の明確な問題意識と個性に支えられたものと評価したい。

 本研究領域に採択された研究者の中から、将来の生命科学の発展に大いに貢献できる研究者が、一人でも多く出てくることが重要である。近視眼的な研究成果だけに注目するのではなく、今後、本研究領域の研究者がどのように研究を展開していくか、大きな期待を持って見守りたい。

 総合的な評価として、研究領域のねらいは達成しており、研究領域のマネジメントは的確かつ効果的であったと認められる。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 領域アドバイザーは個体発生、組織再生、免疫系、神経系さらに植物遺伝学などの幅広い分野から、それぞれの分野の指導的立場の研究者を集めており、領域名を広くカバーできるように配慮された、的確な人選であったと考えられる。

 選考に際して、「独創性」「妥当性」「主体性」の3つを基準とし、生命現象をシステムとして捉えて、新たな発想と方法論を持った課題に絞っている点が高く評価される。加えて、さきがけ研究への専念を条件にしていること、30代を中心としていることは、研究総括の明確な問題意識を示すものであろう。その結果、研究能力の高い若手研究者(有能かつ個性的な研究者)が採択され、適切であったと考えられる。

 選考された課題のうち、神経系の分野が全体の約1/4を占めたことになったのは、ややバランスを欠いたとの指摘もあった。しかしながら選考基準に照らしての結果であり、動物から植物まで概ねバランスの取れた採択課題であったと思われる。

 課題の採択倍率が3年間を通して高かったことは、本研究領域の研究者層の厚さを示している。また、このことは本研究領域の必要性と期待が如何に大きいかを如実に示していたものと考えられる。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 本研究領域では、有能かつ個性的な若手研究者に的を絞り、生物の形成と修復の理解を新しい方法論によって切り拓くことを求めている。基礎的な研究をより重視しており、最終的に医療技術開発への種を生み出すことを共通の問題意識とし、研究領域を運営している。

 年2回の領域会議とシンポジウムを開催することによって、アドバイザーの適切な助言の下に、研究推進が図られたことが伺える。研究者間の交流も盛んに行われており、優れたマネジメントと言える。また、研究総括は各研究室を訪問し、研究環境や進捗状況等を的確に把握している。また、さきがけ研究を円滑に推進できるよう、研究者の上司とも面談し、研究者の主体性、独立性を保証するよう強く求めたことも評価したい。さらに、研究が「国費によって支えられていること」を明確に意識するよう研究者に求めたことも研究総括の見識を示すものであろう。これらのことは、研究総括がさきがけ領域研究の意義を十分理解し、それに賭けた意気込みを示すものとして高く評価できる。

 研究予算についても、専任研究者や研究室新設者等に配慮するなど、各研究者の置かれた状況や事情を考慮して、的確に配分されている。

 研究総括の領域運営やマネジメントは適切に行われていたと考えられる。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 多くの優れた研究成果が挙がっており、組織構築に際して異常細胞排除するための非自律的細胞死を発見した(安達-山田 卓)、膵臓形成に関与する遺伝子ptf1の導入マウスを用いて、異所性膵組織の誘導に成功した(川口 義弥)、神経回路網に関わる分子情報伝達システムの解析から神経病解明に繋がる成果が得られた(柳 茂)などの研究成果は、医療への応用が期待される。また、細胞走化性運動制御に関わる三量体G蛋白質共役受容体の働きを1分子レベルで解明した(上田 昌宏)、新規RNAプライマーゼGANPが胎児形成における細胞の増殖・分化制御機構に重要な役割を果たすことを明らかにした(桑原 一彦)、植物ホルモンであるサイトカイニンによる形態形成制御のしくみを解明した(柿本 辰男)、魚類において始原生殖細胞から個体まで育成する系を確立した(吉崎 悟朗)などは基礎的な研究成果として高く評価される。いずれも、今後の展開が大きく期待できる。

 その他の課題についても、それぞれの努力の跡が見られ、今後の研究の突破口を見出している段階である。その意味で、本さきがけ研究プロジェクトとしての役割は十分果たされたと思われる。

 61報の論文がNature、Science、Cell、Nature Cell Biology、Cancer Cell、Nature Neurosci.、J. Cell Chem.、など世界のトップジャーナルに発表されており、そのことからも本研究領域が順調な研究成果を上げたことを示している。また、本研究期間終了後、多くの研究代表者が、特定研究、基盤研究S(文科省)、厚生科研費(厚労省)などの大型競争的資金を獲得していること、日本学術振興会賞を含めて各種受賞者も16名に上っていること、さらに、18名の上級職への昇任者を出していることなどは、日本を代表する研究者を育成する上で本研究領域が大きな役割を果たしたことを示している。

 

 

5.

その他

 

 さきがけ研究期間を終了した研究者にも、報告会等に出席を求めたことが、自主的・持続的な研究者交流の場を構築することにつながった。今後も、本研究領域に参加した研究者による会合が計画されているとのことである。本研究領域で培われた研究者間のネットワークを維持することは、今後、各研究者が研究を展開していく上で、大変重要であると考えられる。

 本研究領域だけに関したことではないが、さきがけ研究が日本の科学進歩に果たす役割と重要性を研究社会に再認識してもらうべく、強い啓蒙活動が必要と思われる。その方法には色々あると思われるが、かつてさきがけ研究に採択された研究者に力になってもらう活動も必要かもしれない。

 自己の研究が国費などによって支えられている、という意識が希薄な傾向が強まっている昨今であるが、この点を研究者に常に強く意識させた研究総括の態度が印象的であった。

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This page updated on July 26, 2006

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