研究領域 「内分泌かく乱物質」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 本研究領域は、戦略的大型研究の特色を生かしながら、基礎研究を進展させると共に社会的要求にも着実に応えるという特徴的かつ有意義な成果を挙げた。また、本研究領域は内分泌かく乱物質研究に飛躍的な発展をもたらし、得られた成果の他の研究者への波及効果も大きく、我が国における内分泌かく乱物質研究の全体的レベルの底上げにも著しい貢献を果たした。また、大きな研究費が投入され集中的な研究が行われたため、諸外国より大きな結果が得られた。したがって、本領域の目的は十分に達成されたものと判断できる。まだ端緒についたばかりであった内分泌かく乱物質研究の基盤作りに本研究領域が果たした役割は大きく、さらに今後の内分泌かく乱物質研究の進むべき方向性を明示したことも高く評価される。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 本研究領域は内分泌かく乱物質が大きな社会問題となっていた平成10年度に補正予算で急遽発足したものであり、基礎研究の推進のみならず問題の早期解決と社会的貢献をより強く求められていた点で他の領域とは若干性格を異にする。6名の領域アドバイザーは本領域がカバーする幅広い学問分野を総合的に理解できるように選ばれており、的確な人選といえる。課題の選考は、内分泌かく乱物質の生体影響とその作用機構解明に焦点を当てるとの選考方針に従って実施されており、必要とされる研究分野をほとんど網羅し得る課題が選ばれている。この意味において研究課題の選考は重要な事項を漏らさないように偏り無く採択されたものと評価できる。欲を言えば、これに留まらず、さらに内分泌かく乱物質の量と反応の関係の評価やそれをもとにした対策技術や疫学的研究に踏み込んだ課題の応募が望まれた。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)

 

 研究総括は、各研究代表者の自主性及びリーダーシップを最大限に尊重しつつも、一部の研究グループに到達目標のステップアップを勧めたりチームの再編を命じたりして、領域全体の目標達成を念頭に置いた適切な取り纏めを行ったものと評価できる。このような指導・運営体制は、各研究者の責任意識を向上させ、グループ間での共同研究が数多く組まれるなど、かなり有意義な効果を与えたように見受けられる。予算配分も研究がスムーズに推進されるように弾力的な運用がされており、また、チーム編成も適切であると判断できる。

 なお、不適切な経理処理で所属大学から停職処分をうけた研究代表者がいたことは残念であるが、当該グループの中心となる数人の研究者を研究総括が直接指揮して終了報告書を作成するなど、適切な処理が取られている。

 

 

4.

研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 本研究領域は内分泌かく乱物質について、基礎研究面での科学的・技術的成果のみならず社会的貢献も強く要求され、他の領域とは少し性格の異なるものであったが、国内の環境行政や国際的ネットワークへの貢献に見られるように、当初期待された以上の成果が得られた。特筆すべき成果としては、基礎研究面では、内分泌かく乱物質受容体を介した毒性発現機構、性分化の基本的機構および魚類における性の可塑性などの解明、さらには画期的な各種影響評価法や高感度質量分析装置の開発などがあり、これらを通じて内分泌かく乱物質の動物や魚類への影響の多くのメカニズムが一通り明らかになった。また、社会的要求に応えた成果として、各種化学物質のヒトでの汚染状況の把握、社会的認知度の高い諸問題(母乳、子宮内膜症、精子数など)への対応やダイオキシン耐用摂取量算定のための基礎データ提供などがあり、これらは適宜情報発信され啓蒙活動として社会的にも大きく貢献した。一方で、いわゆる低用量問題やディーゼル排ガス・微粒子などの問題に対する明確な結論、あるいは現状での評価などは将来の検討課題として残された。今後、本領域の成果を踏まえた研究の継続によって、これまで取り組まれた内分泌かく乱物質が生物に及ぼす目に見える有害性や影響を示唆するシグナルについての研究に加え、ヒトの健康(生活の質)や生物の生存に与える影響の有無について、本質的な理解と解決がなされるものと期待される。

 

 

5.

その他

 

 本研究領域は社会的関心および環境行政からの要請に応えて行われたものであり、その点を各研究者が深刻に受け止めて研究に取り組むべきであった。社会問題である「内分泌かく乱」問題の解決に、科学技術の基礎研究によって貢献しようとしたことは本研究領域の大きな特徴である。このような点から考察することによって、将来、日本の科学技術政策に対する興味深い示唆が得られる可能性がある。その意味で、本研究領域の記録を保存し、将来、この種の問題に関する基礎的・応用的・政策的な研究のありかた、さらにはその連携性などについて検証することは重要であろう。

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This page updated on July 26, 2006

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