研究領域 「環境保全のためのナノ構造制御触媒と新材料の創製」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 本研究領域の目的は、持続可能社会の実現を支えるST(sustainable technology)として最も重要なものの一つであり、また目的達成の方法としてナノスケールの構造や組織の制御を採り上げているが、材料開発の工学基礎として必然の方向である。研究中間状況は、その工学基礎分野としての学術的面から環境保全技術としての応用面を指向したものまで分布している。基礎分野としては従来にない特徴あるナノ物質が誕生しており、今後はその材料としての特性を明確にしていくことが基礎科学として重要であろう。応用に関しては、カーボンナノファイバーのように電池材料として注目に値するような成果がある。今後は環境に直接貢献する具体的な方向付けをすることが重要であろう。

 以上、本領域は我が国の強い分野の1つであり、世界に先駆けて開発するという意味もあり、存在意義は非常に大きいと判断できる。また、海外論文発表の多いことと、トップジャーナルに数報の発表があることなどから、研究活動の活発さと同時に質の高さが評価される。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 本研究領域は、環境負荷の低い化学プロセスを可能にする新触媒、新材料および環境負荷の低い新材料を創製して環境の保全と改善に資することを目的としているが、アドバイザーはこの目的に添って、産学両分野からほぼ同数のメンバーにより構成されている。学側のアドバイザーは触媒・材料合成・環境技術面などの関連分野にバランス良く配置され、また、産側については実用化について早い段階で助言を得ることを目的に選考されている。この構成は、研究目的から考えて、きわめて妥当と考えられる。

 研究課題に関しては、基礎主体の研究から応用指向の研究までの広い分野にわたっているが、均一系・不均一系の触媒、材料合成と機能設計、グリーン合成と環境保全技術などからバランス良く選考されている。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 領域全体としては、「ナノ」と「環境」の双方をカバーするが、個々の研究には幅広いスペクトルを認めており、基礎主体の研究については性急に環境技術と関連づけることを求めず、応用指向の研究についてはナノテクノロジーとしての科学的基礎付けにも配慮するよう求めるなど、個々の研究の特徴に応じた進捗が図られている。これは総括者の基本姿勢によるものであり、シンポジウムやミーティングでも、この方向付けが浸透するように図られている。短期間の研究を中途半端に終わらせないためには、有効な研究方針の1つであると考えられる。その反面、例えば環境技術としてインパクトのあるターゲットを領域全体として検討するなど、各課題間の連携には注意が必要であろう。

 予算配分には、公正原理を働かせ、全研究者納得の上で運営されており、また、留め置いた資源を、研究総括の判断により、研究の進捗状況に応じて追加配分するなど、研究推進上好ましい形で運営されている。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 概ね妥当であり、一部には目覚しい成果を挙げているものが見られる。基礎的視点では、数種の新規ナノ多孔質材料やデンドリマー型金属集積分子の合成に成功したこと、新規ナノクラスター触媒や両親媒性触媒などを合成し、有機合成に適用できることを明らかにしたことなどの工学基礎科学として注目すべき学術成果があがっている。応用的視点では、新規ナノ多孔質材料および酸化物、金属ナノクラスターを触媒として高効率な触媒反応を実現したこと、炭素ナノファイバーの大量合成法の開発や電池用材料への応用などに、環境技術として期待される成果がうまれている。

 今後は、目的としている「環境保全に向けて、何ができるのか。」について、ナノ構造の特徴が環境保全の何に発揮されるかを明らかにし、インパクトのあるターゲットを示すことが重要であろう。また、研究代表者の異動などのため進捗状況の芳しくないグループがあり、後半に向けて対策を望む声もあった。

 

 

5.

その他

 

 前半の3年は、新材料の創製、その性質の把握段階として、比較的、各研究グループの自主性に任されたようであるが、本領域としての基礎も固まったので、後半では、環境とどう向き合うかを明確にする必要があろう。しかし、環境保全に学術的に直接関わることは、あまりに多くの切り口があり、大変難しい。そのため、本領域の今後の方向に関する意見にも広いスペクトルがあった。一つでも良いから画期的な応用例となる成果を期待する声がある一方、応用に走らずに、ナノ構造作りを着実に進めようという総括の方針に強い期待をかけるとの意見もあった。課題毎に明確な方針をたて、残りの期間を有効に使うことを期待する。

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This page updated on July 26, 2006

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