研究領域 「高度情報処理・通信の実現に向けたナノファクトリーとプロセス観測」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 ナノ構造体の新しいプロセシング技術および新しい計測・評価技術を対象とする本研究領域は、ナノデバイスの実用化に向けて、きわめて重要な領域である。来るべきポストシリコン時代に向けての課題は、デバイスそのものよりもプロセスの実現性にあり、従来のトップダウン的な加工・プロセスに代わるボトムアップ的(自己組織化的)な加工・プロセスの構築が求められている。本研究領域の狙いはこうした新しいプロセシング技術、計測・評価技術のシーズ探索にあり、期待に応える成果が出始めていると認められる。

 計測・評価技術に関する3課題の成果はいずれもユニークであり、ナノテクノロジーの共通基盤技術の一部として有力性が確立していくものと期待される。一方、ナノ構造のプロセシング技術に関する5課題については、マイルストーンの確保を行ったと言うことができるが、今後の発展には新たなブレークスルーが必要であろう。

 また、優れた研究課題が選ばれ、すでに研究成果が上がっていることは今後に期待させるものがあるが、プロセシング技術、計測技術ともに実用化には産業界との協力が不可欠である。今後、企業との共同開発を加速することによって、実用化に向かうことが望まれる。

 なお、本研究領域においては、性格の異なる研究チーム(プロセシング技術と評価技術)が総括・アドバイザーの指導のもとに共存し、全チーム出席の領域会議やオンサイトミーティングなどが実施されている。その結果、チーム間の共同研究や企業との共同研究が多数実現し成果を上げており、本研究領域が存在することの意義は十分に高いといえる。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 本研究領域は、テーマをナノ構造のプロセシングと計測・評価技術に特化しており、総括はもちろんアドバイザーも専門性をよく考えた布陣となっている。プロセシング技術、評価技術においては、探索フェーズであってもコスト感覚と量産を前提として選択され実行されるべきであり、産業界出身のアドバイザーが入っていることは好ましいことである。

 研究課題の選定に関しては、採択8件のうち、プロセシング技術に関するもの5件、計測・評価技術に関するもの3件という構成になっている。「集中するよりも可能性のある手法をバランスよく追求していくことが必要」という研究総括の方針どおりに、特定の課題・分野・手法に集中することなく、可能性のある手法がバランスよく組み合わせて選択されており、共同研究が発生しやすく相乗効果の期待できる構成となっている。

 なお、本研究領域では、企業からの提案による研究課題の採択はなかったが、チーム内には企業グループの参加も見られ、共同研究は大変活発である。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 本研究領域では、研究総括が全般にわたって優れた指導力を発揮し、研究の活性化を図っている。領域発足当初から研究協力の鼓舞を目指して全研究チーム参加による領域会議を行い、また全関係者が研究代表者の研究室を見学し、つぶさに研究情報を得るというオンサイトミーティングを随時実施している。さらに、他のナノテク研究領域との協力関係の一環として、CNTワークショップを共同開催している。このような運営方針は、互いの研究活動における相乗効果を得るために有効である。特に、オンサイトミーティングはユニークかつ有効なナレッジ・コラボレーションの制度であり、研究チーム間の情報交換や共同研究への発展に貢献すると同時に、若手研究者に刺激を与える方策としても高く評価できる。こうした取り組みの結果、チーム間の共同研究が多数実現したことは、総括のリーダーシップの賜物と言える。

 現在、プロセシング技術に関する課題についてはシーズ探索のフェーズにあるが、課題間の連携などによって少しでも完結したプロセスが構築されるようマネジメント努力を行うことが望ましい。また、計測・評価技術に関する研究課題については、既に企業との共同開発が多く進められており、研究の成果が順次実用されていくと期待される。産業界との連携が強く望まれる研究領域であり、今後のマネジメントにおける一層の努力が望まれる。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 研究課題のうち計測・評価技術に関する課題については、研究の性格上、比較的実用に近い成果が得られている。特に、レーザドップラー効果を応用した高分解能走査型力顕微鏡の開発(川勝チーム)、位相差極端紫外線顕微鏡(木下チーム)、放射光を利用する立体原子顕微鏡(大門チーム)は特筆に価する。企業との協力関係も多く発生しており、今後比較的短期間に実用性の高い技術に成長するであろう。

 一方、ナノプロセシングに関する研究課題については、独自性の高い手法が開発され、ユニークな成果が得られており、マイルストーンが確保されたといえる。CNT配線素材の研究(本間チーム)は実現すれば半導体分野に多大なインパクトを与えるはずのものであり、Geドットの研究(市川チーム)は半導体量子ドットの具体的な実用例に発展する可能性がある。CNT単電子トランジスタの実現(石橋チーム)も興味深い成果であり、本間チームとの共同研究推進等により今後の大幅な進捗を期待したい。ナノ相分離構造大面積テンプレートの実現(彌田チーム)については工業的な意味でも興味深く、具体的応用先の開拓が望まれる。いずれの課題もナノプロセシング技術の進展にそれぞれ寄与しうるものであり、今後の一層の努力をお願いしたい。

 なお、デバイスが実用化されるには工業生産ラインに乗る必要があることは言うまでもなく、コスト、スループットが適切になって初めて産業としてデバイス事業が成立する。その意味で本研究領域はきわめて重要な領域である。優れた機能を持つデバイスを実プロセスに成長させるためのマネジメント努力に期待したい。

 

 

5.

その他

 

 ナノデバイス・材料・システムを目指す戦略目標の下には本領域を含む4つの研究領域が立てられているが、研究テーマにオーバーラップがみられ、本来は選考以前に総括間で話し合いを行うべきではなかったかと思われる。他の領域と関連するテーマ(例えばカーボンナノチューブ関連)については交流を積極的に進めるなど、領域間の相互作用が必要であろう。また、本領域のプロセシング技術開発と、他の研究領域で進められているデバイス・システム開発との間で、整合性が取られている事が望ましい。この意味で、ナノテク関連の研究領域全体を俯瞰できる討論の場が必要と思われる。

 研究成果の公開については、1チームあたりの平均論文投稿数が17件程度で必ずしも多いとはいえず、また、領域の公開シンポジウムは行なわれていない。研究成果を社会へ公開することは当然重要であり、また研究者側へのフィードバック効果も多大であることから、成果の公開にもう少し注力することが望ましい。

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This page updated on July 26, 2006

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