研究領域 「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」

 

1.

総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)

 

 ナノスケールではじめて実現する物理現象や動作原理を応用して、情報処理・通信における既存技術の限界を突破し、21世紀の社会・産業の要請にこたえるデバイス・システムを実現することは、わが国の重要な科学技術課題の一つである。本研究領域では、材料、計測評価、デバイス技術にかかわる広いスペクトルの基礎的・学術的な研究を推進し、さらにデバイス・システム創製に向けた研究を展開している。それらがまた基礎科学へインパクトを与えるという螺旋的発展も見受けられる。これらの成果は、670件近い論文の形に纏められており、プロジェクトの経過年数が他領域より1年長いこと等を勘案しても、研究活動が活発に推移してきたことが伺える。また、研究総括の指導により、特許出願や新聞発表などに積極的に取り組み、研究成果を社会・産業に還元する努力がなされている。ナノデバイス・システムの創製への寄与という意味では、今後長い眼での評価が必要であるが、一部ではすでに実用につながる革新的な成果も得られ、本研究領域の意義は実証されつつあると考えられる。

 

 

2.

研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)

 

 アドバイザーは物理系ナノテクノロジー分野を中心に第一線の研究者で構成されており、適切な布陣となっている。研究課題の選考にあたっては、新分野の開拓、技術限界の突破、挑戦的長期テーマの原理検証、カーボンナノチューブデバイス応用基盤技術の育成、基礎科学へのインパクトなどの観点から、総合的にナノテクノロジーを牽引する研究テーマと、ハイリスクではあるがインパクトの大きい成果に挑戦する合計11課題を選考した。いずれの課題も、本研究領域の目指す方向との整合性、研究目標の挑戦性、研究ポテンシャルの高さなどの観点から厳選された。発足当初の領域設定が広かったこともあって変化に富んだ課題が選ばれ、情報処理・通信のみならず、ライフサイエンス、環境など広い分野との分野融合も視野に入れて、研究が進められている。

 特に、新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製という本領域の目標を達成するために、基礎研究の成果をタイミングよく産業化に結びつけることを意識して研究課題が検討されてきた。また、当初より構成グループの形で多くの企業の参加を得て関連研究の活性化を促すと共に、適切な出口を意識して企業への働きかけを継続的に行っている。引続き研究成果の社会への還元の観点からの取組みを期待したい。

 

 

3.

研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成、今後の取り組み等)

 

 領域運営にあたり研究総括は、目的基礎研究の推進、ナノサイエンスの深耕、次世代リーダーの育成、分野融合基礎研究の推進を基本方針に掲げ、これらを強力に推進してきた。このために、各研究代表者と積極的に議論を重ね、研究会への参加などを通じて個々のチームの進捗状況をよく把握して、方向修正が必要な場合や追加費用の必要性が生じた場合など研究の進捗に応じ的確に対応してきた。さらに、若手研究者を集めた研究交流会を開催するなど、研究者の意欲を高め各チームの活動を活発にするための工夫をこらし、領域運営に十分な努力を払ってきた。

 また、領域内、領域間の連携や国内外の研究者・産学官研究機関との連携など多岐にわたる連携メニューを組み合せ、具体的成果をあげてきた。特に、当該領域の各チームは、所属機関や研究分野を原則異にする複数の優れたグループから構成され、緊密な連携のもとに分野融合的な研究を効果的に推進してきた。また、関連10研究領域から成るナノテクノロジー分野別バーチャルラボとして他領域との研究交流の機会を増やし、ナノデバイス・システムの創製に必要な広い視野の涵養に努めてきた。

 本研究領域を的確な戦略のもとに運営してきた研究総括のリーダーシップは優秀と認められる。

 

 

4.

研究進捗状況(研究領域の中で生み出されつつある特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義・効果に関する今後の期待や展望・懸案事項等)

 

 デバイス・システム創製に関する研究からナノサイエンスの研究まで多岐に亘っているが、それぞれ着実に成果が上がっている。実用的な意味では、近接場ラマン顕微鏡の実現とこれによるDNA分子観察(河田ら)、カーボンナノチューブ電界効果トランジスタによるDNAのハイブリダイゼーション現象の検知(松本ら)などは、新しい計測ツールの提供という意味で意義が明確である。また、高密度不揮発性メモリを目指したトンネル磁気抵抗効果増強構造の実現(猪俣ら)、高密度励起子状態を利用したダイヤモンド紫外線発光素子の開発(大串ら)、相関光子対を加工に使用する提案とその実現のための相関光子対光源の開発(三澤ら)など、新しい物理現象や機能の応用に関する先行的な研究成果があった。これらデバイスに関しては、インテグレーションも考慮して周辺技術へも目を配りながら実用化を意識した研究にしていく必要があるだろう。また、量子情報処理に必要な多ビット化の実現(小森ら)、量子相関状態の生成(高柳ら)に関して世界トップレベルの研究成果が生まれ、日本発の新しい情報処理システムの可能性を示している。他にも、半導体からの相関光子対の発生(石原ら)、カーボンナノチューブのカイラリティー制御法の発見(松本ら)、アイスカーボンナノチューブの発見(岩佐ら)など、多くのチームで重要なマイルストーンを達成した。

 ナノデバイス・システムの創製という観点から、一部のテーマはすでに実用技術として有効性が確認される段階に達している。また、大きな方向性に沿ってさまざまな切り口で挑戦し、非連続的でインパクト大きい将来技術の可能性を検討するという意味で、各テーマは十分な成果を上げてきたと評価できる。研究総括による社会還元への要請の効果もあって特許出願数が多いことも特筆に価することである。

 今後、産学連携を一層強化すると共に、研究成果を分かり易い公開講演会などの形で広く社会に公開するようなことも検討していただきたい。これらを通じて、多方面の関係者に刺激を与え実用化に向けてトリガーをかけることになれば、本研究領域の目的は達成されたと言える。

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This page updated on July 26, 2006

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