研究領域 「組織化と機能」


1. 総合所見
 研究領域「組織化と機能」は、組織化と界面がもたらす機能の解明を基盤として、ナノメーターサイズの組織体を構築するという幅広いテーマの設定であったが、この研究領域が2000年春の米国クリントン大統領の国家ナノテクノロジー戦略以前の1999年度から独自のプログラムとして開始されていたことは重要である。他国に先んじて、この様なテーマ設定の下に領域研究をスタートさせた研究総括の先見性・洞察力に敬意を表したい。
 本領域が掲げる、ナノサイズの組織体を構築する、組織化と機能発現の相関を明らかにするというテーマは、本領域発足以降に本格的に取り上げられるようになったナノテクノロジーの中心課題のひとつであり、この分野でのブレークスルーへの期待が大きいことからも研究領域としての設定は適切であったと言える。ただ、「組織化と機能」という研究領域名は一般的であり、他の研究領域との住み分けの意味ではもう少し工夫があっても良かったのではないかとの印象はある。
 戦略的創造研究推進事業の「さきがけ」研究は、公募であるという点では科学研究費補助金と似ているが、研究者が所属組織から独立した形で、研究総括やアドバイザーとの密接な交流のもとに研究を推進するという大きな特徴がある。本領域では、その特徴を充分に生かして期待を上回る独創性の高い研究成果を上げており、一流の国際論文誌にもその成果が掲載されるに至っている。材料が多様であり、領域自体の時代を先取りした先進性故に、統一的な指導原理の確立は難しかったと理解するが、多くの先進的成果を得たことはナノテクノロジーの今後の発展にとって大きな糧であり、本領域の大きな成功を意味している。
 なお、概ね45歳以下の比較的若いメンバーは着実に転身しており、この新しい分野に人材と学問の広がりをもたらした。本領域の成果は、優れた研究結果のみではなく、日本の材料研究における有為の人材を多数輩出したこと、研究者の登竜門としての機能をも果たしたことである。これが計16件もの受賞を生む原動力となった。先端的、融合的領域であるだけに、今後引き続き異分野間交流をつづけてこの分野を育成していくことが大事であろう。
 総合的な評価として、研究領域としてのねらいの達成状況および研究総括のマネジメント状況について、高い水準であったと位置付けられる。
 
2. 研究課題の選考
 研究課題の選考委員である領域アドバイザーの構成に関しては、「組織化と機能」という広い研究領域を捉えるため、「生体関連機能」、「有機、無機材料のナノ組織化」、「新しい測定技術および理論解析」に関する関連分野から企業を含む第一線の研究者が配置されており、適切な構成であったと言える。
 研究課題の選考は、材料分野の多様性や地域にも配慮されており、また生体関連など先端的な分野からの採択もなされており、慎重な多段階プロセスによる概ねバランスのよいものであったと評価できる。ただし、化学を中心とする物質材料系に若干偏重しているきらいがあり、もう少し多彩な分野や概念から研究課題を編成してもよかったのではないかとの印象が残る。
 なお、選考過程における地域バランス考慮の必要性については、議論を要するところである。
 
3. 研究領域の運営
 さきがけの特徴は、厳しい選考で選ばれた後は研究者独自の研究目標を追求すること、最大限の自由を認めるところにあるが、本領域においてもこの方針は一貫して重視された。成果主義ではなく、研究者の自主性や独自性を尊重する運営方針は若手育成の面からも好ましいものである。
 また、研究課題が広範囲であることから、研究者間の相互的連携をもたせなければならないが、この点を強化するために、研究領域全体の進捗状況を把握し研究者間の意思疎通を目的として、年二回の泊まり込みによる領域会議や国際シンポジウムを行うなど工夫がなされている。研究総括や領域アドバイザーから常にエンカレッジする立場で討論し、研究領域としてのマネジメントは的確かつ効果的であったと言えるであろう。とことん研究者とつきあい「国武学校」とも言える分野を越えた研究者ネットワーク作りに成功している点は、研究総括の非凡な手腕を見るところである。さらに、研究領域のマネジメントとして、全ての研究実施場所に研究総括自らが足を運び、研究環境の整備に努めたことも特筆に値する。
 なお、領域事務所のスタッフのサポートが常に研究者の立場でなされたとの評価がある。さらに、研究者の事務負担軽減のために、研究総括自らが尽力し研究予算管理システムを独自に導入したことは特筆すべき功績である。このシステムが、他の研究領域にも適用され、効率のよい研究支援システムの構築に発展することを期待したい。
 
4. 研究結果
 基礎的研究面での優れた成果として、筋肉のナノマシーンの研究(龔 剣萍)、生体分子モーターの基礎研究(野地博行)、細胞内シグナルに応答して化学情報へと変換するシステムの構築(片山佳樹)、ブルー層の安定発現技術と高速応答液晶(菊池裕嗣)、フラーレンの単層膜の摩擦のないシステムの研究(佐々木成朗)、高密度磁性材料の開発(寺西利治)、バイオインターフェイスでの組織化された水分子機能の研究(田中賢)、単一電子の挙動評価技術の研究(真島豊)、リン酸化タンパク質センサーの研究(浜地格)などが挙げられる。
 また、理論解析からの予測として、水中の気体の拡散機構の解析から気象変動の精密予測(深澤倫子)や巨大磁気抵抗効果を示す材料の解析(森茂生)などで優れた成果を得ており、次世代の学問を構築する重要研究領域が開拓されつつあることに頼もしさを感じる。
 比較的若手の研究者であるにもかかわらず、一流国際誌での多くの発表や、新聞紙上での記事掲載、多数の特許出願もあり、研究者独自の発想に基づく応用につながる成果が非常に高い水準及び確率で得られていると言えるであろう。
 さらに言えば、「組織と機能」という概念を個々の研究成果から帰納し、統一概念や法則性などより一般的なコンセプトにまで昇華する討論や作業までなされていれば、より意義深かったのではないかと考える。さらに領域間の連携、関連性などについても積極的に議論を深めてほしいところである。今後、個々の研究成果をどのように一般概念化し、自然観を作っていく上で役立てるかが重要であり、それによってこの領域設定の意義がさらに深まるものと思われる。
 
5. その他
 本研究領域の研究者は、「組織化と機能」というきわめて重要な課題に取り組む機会を与えられ、優れた成果を得ているが、今後これらの研究を国際的な評価に耐えうる独自の科学とするためには、総合的かつ定量的な裏づけが必要となるであろう。
 また、テーマが境界領域的な新分野であることから、研究をさらに深く展開することに難しさがあるため、さらに質の高い情報に触れる機会を設け、他の分野の研究者と協力するようなシステムが必要であると思われる。

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This page updated on July 26, 2005

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