研究領域 「植物の機能と制御」


1. 総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)
 医学関連のゲノム科学を中心とした研究が多く見られていたライフサイエンス分野において、CRESTにおいても初めて植物科学の研究分野が設定された。これまで取り上げられることが少なかった植物科学の領域において、本研究費が投入されたことは意義があったといえよう。今後の環境、食糧といった問題を地球レベルで考えねばならぬ時代において、その問題解決に植物科学研究が果たす役割は極めて重要であることを考えると、本領域の研究成果が持つ価値は大きいと期待され、植物科学の研究全体に与えた影響は小さくない。
 各研究は、しっかりとした目標設定がされており、個々に秀れた研究成果を出している。基礎的研究であるCREST研究においては、その研究成果がすぐに実用化につながるものばかりではないが長い間待望されていた植物科学分野の領域であるので、今後これらの成果が社会に還元され、社会的なインパクトも与えることができれば本領域の存在意義がより高まるものと考える。 
 また、研究領域が比較的広く、扱っている材料も異なるが、グループ間の共同研究を進めることで、多面的な研究の良さをそれぞれが利用しながら研究成果を出し、それを応用に結びつけて欲しい。
 
2. 研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)
 本領域は、「技術革新による、活力に満ちた高齢化社会の実現」という戦略目標のもと、植物の持つ多様な機能発現機構をマクロ的(生態学的)、ミクロ的(分子科学的)の両面から解明することにより、その機能を人為的に制御する技術を早急に確立し、人類の生活基盤である食料、医療、居住環境の安定的な提供、改善へとつなげる研究を対象としている。選考は、将来の応用への出口を念頭において展開される「先端的な植物科学」として、成果の社会的貢献を1)生産力(収量)向上、2)高付加価値物質生産、3)環境保全、4)新技術の創成、という4つの分野に分類して行われた。その結果、1)生産力向上関連は、4件、2)高付加価値関連は4件、3)環境関連は2件、4)新技術関連は7件と、17グループが選定された。優秀なグループが選定され、成果が挙がっている。また、助教授等の若手や女性の研究者が多く選定されているのも特徴的である。
 「技術革新による、活力に満ちた高齢化社会の実現」という戦略目標のもとで領域設定を行い、設定した領域の中で適切な研究課題を採択しているが、あえて言えば、食糧として新しい機能(がん、老化制御)をもつ未知の植物成分(植物天然物化学)について解析する研究課題が含まれることも期待したかった。
 アドバイザーについては、領域の研究目標に沿った形で、広い分野を十分にカバーできる、植物科学の各分野から第一線で活躍の気鋭研究者、ならびに各分野を横断的、相対的に総合判断できる研究者が選任されており、最適な構成となっている。
 
3. 研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)
 将来の応用への出口を念頭においた研究の推進がなされている。中間評価においても、その方針に沿って検討がされており、それぞれの進捗に応じた、適切な指示が与えられている。特許出願件数が200件近くあり、他の領域に比べると圧倒的に多いことから、研究総括の指導のあとがよく見える。
 研究総括は研究課題の進捗状況、研究の方向性について助言を行うと同時に、研究費についてもメリハリをつけた配分を行っている。領域全体の進捗状況を確認し、進捗状況の的確な把握、相互の意志疎通を目的として、領域年報(部外秘)を発行することなど、全体的に研究領域のマネージメントは問題なく運営されている。
 
4. 研究進捗状況(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義、効果、今後の期待や展望・懸案事項等)
 進捗にばらつきがあるものの、概ね順調に進捗していると判断できる。従来の概念を翻した時計たんぱく質のリン酸化、脱リン酸化による慨日リズムの解明(近藤ら)など、独自性の高い、国際的にリードしている研究成果も既に得られている。その他、将来への応用という観点からは、デンプン構造を変えるエンジニアリングの基盤の構築(中村ら)、高トリプトファンイネ作成に関する技術(若狭ら)などは応用に近く、また、オオムギゲノム情報を利用したイネ科作物の交雑育種法(武田ら)は実用に近い。また、バリアは大きいが新たな巨大DNAのクローニングベクターとなる植物人工染色体の研究(村田ら)などは興味深く、大きな発展を期待したい。また、鉄欠乏応答発現調節機構(西澤ら)、植物の害虫に対する誘導防御の制御機構(高林ら)など、越えなければならない山は大きいが、それを越えれば応用価値がすばらしいと判断される。
 CREST研究であるので、基礎的研究成果、分子生物学的研究成果は出ていても、応用までにはまだかなり距離があるものが多いが、すばらしい応用価値をもつ研究課題が多くあるため、今後の進捗に期待したい。
 
5. その他
 本領域では、各研究課題共通業務の集中化として、サテライトラボを開設している。本サテライトラボでは、研究グループが独自に予算を立てて研究機器を購入することなく中央でそれをチェックし纏めて購入し、分析の指導まで行っているという点は興味深い。予算の使い方、研究の推進など幾つかの点でこのやり方の長所と短所を明らかにし、今後の参考に供して欲しい。
 本研究領域では単に植物科学の基礎としてばかりでなく、植物でなければ見いだすことが困難であって、他の生命科学分野にも寄与できる国際的に優れた成果が既に得られている。今後は他の領域の研究者との共同研究によりさらに発展させることを期待したい。

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This page updated on June 28, 2005

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