研究領域 「生物の発生・分化・再生」


1. 総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)
 来るべき高齢化社会にどのように対応していくのかという問題は、我々人類が直面する大きな課題である。このような中、個人の特徴に応じた革新的医療を実現することを目指して、オーダーメイド医療、再生医療等の実現に不可欠な、生物の発生・分化・再生のメカニズムを解明することが必要である。
 本研究領域の重要性は近年益々大きくなっており、全体として成果が蓄積された印象が強く、世界的にも高く評価される重要な知見も多く得られている。このような研究成果が直ちに社会貢献するものではないが、中長期的に見た場合、診断、再生医療、創薬という医療面において、基礎研究として欠かせない成果であることは確かであろう。また、広義の意味で、発生学、再生医学等の研究分野へもきわめて大きい貢献をもたらしたと言える。
 さらに、1,561件(うち、海外論文発表は443件)の外部発表数、新聞・テレビ等での報道も主要なものだけで20件あり、これらの数字を見ても本領域における研究活動の活発さ、質の高さが判る。さらには、若手を含め人材の育成にも成功している。以上のことから、本研究領域の存在意義は非常に大きいと判断される。
 既に実績が相当ある研究者が選考されたこともあり、斬新な面が薄いと言えなくもないが、世界でも類を見ない強力でバランスの取れたプロジェクトグループが形成できたと考えており、将来にわたって本事業の手本となることが期待される。
 
2. 研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)
 本領域のアドバイザーの構成は、基礎研究から臨床医学的な応用研究までの幅広い分野に亘り、トップレベルの研究者によって構成されており問題はない。
 アドバイザーの構成を反映して研究課題もバランスよく採択されているが、具体的な研究テーマについては、どちらかと言えば神経科学に関する研究が多かったように思われる。また、実験材料としてショウジョウバエやマウスを用いた研究が多く、臨床医学的な要素が薄い印象を与えるのではないかと思われる。これらの動物の、モデル生物としての有利性や研究人口を考えると致し方ないことは理解できるが、多少気になる点である。
 すでに研究が軌道に乗っているグループが採択され、良いアイディアを持つ次世代の優秀な若手研究者の提案が採択されにくいような印象を受けるが、結果的には素晴らしい成果が得られているので特別な問題はないと思われる。ただ、急速な進歩を遂げつつある研究分野だけに、全体で14件という少数の採択しか行われなかったことは残念である。
 
3. 研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)
 研究総括は、研究の開始時点からきめ細かな配慮と指導を行っており、また途中段階においても研究課題の進捗状況に応じて適切な助言を行っていた。運営においては、ほとんど問題は見られなかった。しかし、研究総括自身が多忙であったため、全体への指導が充分かつタイムリーに行えたのかという点で不安が残った。
 予算配分については、それぞれの業績から考えると総額として少ない印象を受けた。可能なら、もっと増額してもよかったと思われる。予算の一部を中央に留置き、また追加予算等の資源配分にあたっては進捗状況等を考慮して、研究総括の判断で追加配分を実施して研究の推進を図った点は評価できる。
 
4. 研究進捗状況(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義、効果、今後の期待や展望・懸案事項等)
 本研究領域は、CREST事業の中でも最も業績が上がっている領域の一つであると推察する。特筆できる成果としては、神経幹細胞の存在を示す証明とその応用研究への展開(岡野ら)や、MAPキナーゼカスケードに関する研究(松本ら)などが挙げられる。その他、肥満等の生活習慣病治療の可能性の開拓(門脇ら)、新たながん抑制遺伝子の発見など、臨床に直結した成果も上がっており、基礎から応用までバランスよく研究が進められていることが分かる。全体として、この領域は基礎的な研究成果が多く、直ちに応用に結びつくものは少ないが、その学術的レベルは非常に高い。応用面も十分視野に入れて、さらなる大きな発展を期待したい。
 国際的なトップジャーナルへの成果発表や積極的なプレスリリース、さらには新聞やテレビ等での報道などにより、科学的な業績を分かりやすい形で国民へ伝える努力が行われた点は高く評価できる。これからも引き続き研究成果の広報に努めて欲しい。社会へのインパクトは充分であったから、今後は研究成果を医療などの実用面へ結び付けるにはさらなる努力と新しい戦略が必要であろう。
 
5. その他
 本研究領域の採択競争倍率は毎年度17〜18倍と高く、研究領域に対する関心度の高さをうかがい知ることができる。現時点では、メンバー間で業績の差があるようだが、本領域の研究方向については評価できるので、このままさらに進めていただきたい。

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This page updated on June 28, 2005

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