研究領域 「地球変動のメカニズム」


1. 総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域が存在したことの意義・メリット)
 本領域は、地球環境に関して、地球規模の諸現象の解明とその予測に必要となる研究を対象とし、結果として大気・海洋・陸域・生態系など地球を構成する各分野を網羅する13の研究課題が幅広く採択された。
 本領域から、前進した研究成果が得られ、当該分野のさらなる進展に寄与している。また、殆ど未着手だった分野に対し、挑戦的な取り組みを行った研究課題では、そのパイオニアとしての困難を克服し、先導的基礎研究として前進している。その他、本領域により得られた研究成果から、下記の研究総括の選考方針のメリットが示され、本領域の存在意義が認められる。
 また、本領域が数多くの若手研究者の育成に大きく貢献したことは特筆すべき成果といえる。研究代表者の優れた指導力、恵まれた研究環境及び良好な雇用条件のもとに、多くの大学院生や研究生などが各研究課題を通じ学位を取得し、また、多くの若手研究者が大学・研究機関などへ職を見出すことが出来た。
 一方で、研究総括自身も認識しているように、研究課題・計画が5年間という期間に対して、過大であったという面も見られた。5年間で何ができるかを十分考え、計画すべきであったと振り返ることが出来る。とはいえ、「未完」の形で残っている研究成果や本研究領域で開発された観測機器・拠点が何らかの研究資源によって継承され、よりまとまった成果に発展・成熟することを希望したい。
 
2. 研究課題の選考(アドバイザーの構成、選考方針及び課題の選考、課題のバランス等)
 研究課題の選考については、平成9年10月、本領域設置と時を同じくして、旧科学技術庁が設置した「大規模な長期的・組織的研究を行う『地球フロンティア研究システム』」に対し、研究総括は本領域を「個人の発想をいかした公募研究」とし、『地球フロンティア研究システム』と相互補完的な役割を担う領域と位置づけ、本領域全体をカバーするよりも「研究提案の質の高さ」、「目標達成の可能性」、「先導性」等を重視した。
 さらに、地球規模の諸現象の解明とその予測に必要となる研究、具体的には、「これまで未着手だった事象や領域を対象とした観測の実施や観測機器の開発」、「既存の観測形態のより高度化・結合化」、「地球変動予測にみられる曖昧さや不確定性さを少なくするための高精度の観測成果の獲得」などの研究に重点をおいた。
 このような方針ではあったが、大気、海洋、陸域、生態系といった地球を構成する各分野に関わる研究課題が幅広く採択され、結果的に分野の均衡がとれたものとなり、限られた研究資源の中で、慎重に検討を重ねた適切なものであったと評価できる。
 特に、ともすれば数値モデルによるシミュレーション研究に片寄りがちである本領域であるが、研究総括が地球科学にとって不可欠の、未開拓分野に対する観測と観測機器の開発に重点をおいたことは、大変重要な決定であった。しかしながら、測定そのものに関する興味がやや優先しており、人類にとって深刻な問題である地球環境問題の対処を目的とするというビジョンが多少欠けていたように思われる。また民間企業の参画を得られなかった点は研究領域の性質上また公募というシステム上やむを得ないと考えられる。
 尚、戦略目標に含まれる「地球内部変動」に関する課題が全く採択されなかったことは、当該テーマに係わる適切な研究課題の申請がなかったためということである。
 一方、アドバイザーの構成に関しては、地球を構成している大気、海洋、陸域、生態系などを対象とし、物理学、化学、生物学、リモートセンシング技術など様々な課題に対応できるように、各専門分野から6名が選ばれた。ところが、研究総括も主張しているように、広範囲におよび研究領域において、研究総括の専門外の課題を専門とする「課題アドバイザー」をもうけて期間中でも追加されることが望ましい。
 
3. 研究領域の運営(研究総括の方針、研究領域のマネジメント、予算配分とチーム構成等)
 本領域の運営に関しては、研究総括は毎年度少なくとも2回、研究計画と研究実施内容について研究代表者からヒアリング、必要に応じ計画・予算などの調整を行い、研究代表者が主催する研究集会・ワークショップなどにも出来る限り出席している。なお、研究課題発足後3年目に行われる中間評価に関して言えば、その結果は明確な結論を示す物でなく、またのこりの研究期間の運営に強く生かされていないという印象がある。
 また、研究総括が中心となり「研究代表者会議」が開催された。この会議を通じ、研究総括と各研究代表者及び研究代表者間の意志疎通を図ったことは、大変有意義で非常によい試みであった。このような会議は本領域において1回実施されたとのことであるが、複数回開催されることが望ましく、他の研究領域でも積極的に実行されるべきである。さらに、この会議開催を機に、「研究チーム間の協力」が実現された。個別の研究課題にだけ閉じこもりがちな、この種の公募研究において、「協力関係」の実現は、研究資源のより有効な活用に資するばかりでなく、異なる研究チーム間の相互啓発・相互理解にも大いに役立ったと思われる。しかし、この「協力関係」は「共著論文」として成果があがっているはずであるので、共著論文をデータとしてクリアにされることが望まれる。このような「協力関係」を実現可能としたのは、課題間および年度毎の予算配分の微調整などのマネジメントの柔軟性、チーム構成への研究総括のアドバイス(とかく、同じチーム内でも、それを構成する研究機関の間の調整を必要とすることが多い)が適切なものであったと考える。
 
4. 研究結果(研究領域の中での特筆すべき成果、科学技術・周辺分野・国民生活・社会経済等に対する意義、効果、今後の期待や展望・懸案事項等)
 「地球変動のメカニズム」という領域の性質上、“ブレークスルー”を早期の段階から安易に期待することは難しい。このため、本領域の選考の際、「これまで未着手だった事象や領域を対象とした観測の実施や観測機器の開発」、「既存の観測形態のより高度化・結合化」、「地球変動予測にみられる曖昧さや不確定性さ少なくするための高精度の観測成果の獲得」などに重点をおき、「地球変動のメカニズム」をより正確に理解する上で不可欠となる基礎的な観測事象を把握するため、まず中長期的な展望の下、本格的理解のための準備からスタートしたといえる。
 13課題のすべてについて共通していることは、自然科学研究の基礎をなす「観測とそれによる事象の把握」、「そのための観測機器の開発」を優先的に進め、その上で観測成果の解釈理解のための理論的研究、数値シミュレーションによる観測成果の再現・確認を通して、より進んだ「素過程」、「相互作用」、「メカニズム」の研究がなされた点にある。この点においては、選考の方針が正しく、選考された課題が適切であったと考えられる。しかし、これらの研究成果は、直接・間接に周辺分野・国民生活・社会経済などプラスの波及効果をもたらしつつあるものの、ローカルな貢献に終わっているという印象があり、例えば、国連を中心とするグローバルな研究(世界気候計画、全球気候観測システム、START、IPCC、など)の中で位置づけ、貢献をクリアに示すべきであった。 以下に本領域において注目すべき具体的研究成果をあげる(順不同)。

 (1)中島チームの研究成果が、フロンティア研究システムが行っている地球温暖化の数値シミュレーションの手法による評価に活用され、従来のものより高精度のエアロゾルなどの放射強制力データとしてインプットされた評価結果は、将来のIPCCレポートに反映される見込である。

 (2)若土チームのオホーツク海総合調査によって、これまで未着手だった領域に科学のメスが入り、環オホーツク海研究プログラムに発展しつつある。

 (3)浅野チームの林冠クレーンが、今後、国内および国際的に有効活用される道が開け、生態圏−気圏相互作用のメカニズムの、より総合的な解明に貢献しつつある。

 (4)吉崎チームの集中豪雨の詳細なメカニズムについての観測成果と数値シミュレーションによる観測事象の再現結果は、気象庁の予報業務のための次世代数値予報モデル(非静力学モデル)の開発に大きく貢献し、集中豪雨などの気象災害に対する防災情報の高度化に貢献している。

 (5)小池チームの大気−陸域相互作用についての衛星観測及びモデル化の研究は、従来から国際的に実施されてきた、研究観測を飛躍的に発展させた。いくつかの予期しなかったマイナス要因を克服した、研究目標の達成に努めた点は、高く評価されるべきである。

 各研究課題の性質の違いから、成果にばらつきがあるものの、論文数、学位取得者数など、領域全体としては驚異的な成果が上がっており、本領域の社会的意義、効果はある程度認められる。こうした先導的基礎研究が今後時間の経過とともにその枝葉を大きく広げて多くの果実をもたらすものと期待される。
 他方、優れた研究結果に到達し得なかったと思われる事項も見られる。チームの構成に懸案事項があったと推測されるが今後の進展が望まれる。
 
5. その他
 本領域において採択された13課題の研究成果は、各研究課題の成果をまとめた論文や受賞の数などからも世界的なレベルのトップレベルにあることが推測され、我が国の科学技術の進展に貢献している。しかし、このような成果が得られているが、本領域の研究期間は基本的に5年では短いと考えられる。
 一方、資料の構成について、研究領域の運営者側の資料(中間評価、事後評価を含めて)に関して、研究に従事した研究者側の声が殆ど盛り込まれてなかった点に不満を覚える。評価会における研究総括による口頭報告によれば、研究代表者や参加研究者が、マネジメント全般、特に5年間に及ぶ研究期間とその間の柔軟な予算配分と相対的に多額な予算額に対して謝意を表しておられたとのことであった。しかし、研究は研究総括と研究実施者両者のバランスのとれた交流があって初めて生き生きとして進展するものだと信じているため、本研究領域はうまく機能したと思われるものの、もう少し具体的な実情が把握できるよう事務局には工夫をして欲しかった。

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This page updated on June 28, 2005

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