資料1−10

研究領域 「素過程と連携」


1. 総合所見
 領域が異分野の集団だけに全体としての成果は見えにくいが、本領域が存在したことによる意義については、これを生命科学全体の中でどのように位置付けするかによって評価は分かれるところである。この領域に採択された課題の多くが、現在の生命科学分野における重要課題となっている点をみる時、その意義は十分あるものとみるべきであろう。
 各研究者が、研究総括の意図をよく理解し、提案課題を主体的に実施すると共に、研究総括が本プロジェクトで成功した人、必ずしも成功しなかった人など全ての研究者に対して適切な評価を行い、助言を与えるなど、日本の生命科学の基盤研究の進展と人材育成に、大いに貢献したことは大変意義深い。研究領域発足から5年間で、研究者38名中、助手、講師、助教授から教授に昇進した者が7名、助手あるいは講師から助教授に昇進した者が7名おり、さらに、現在までに、助教授から教授に3名が、助手などから助教授に3名が昇進した事実は、人材育成の成果を具体的に示す一端である。
 本領域の題名「素過程と連携」が、俄かには理解しにくく、内容の説明を要するものではあったが、何よりも、ゆるやかな枠の中での縛りであって、決して具体的な課題の選択を規制するものではないことが、「CREST」などとは違った特徴で高く評価されてよい。
 
2. 研究課題の選考
 本領域は、生物に共通する基本的原理と細胞の包括的な理解をめざして、遺伝学的解析に重点を置き、微生物から植物、動物にいたる最適と考えらえるモデル生物を用いた研究計画を重点的に採用する方針であった。延べ8名の領域アドバイザーは、専門分野を考慮した構成となっており、その人選とバランスは妥当である。ただし、領域が幅広く設定されているため、構成人数についてはもう少し多くても良かったと思われる。
 研究総括は、以下の基準をもって選考に臨み、最終的には研究総括の責任で課題を決定している。
1. 自ら独立して研究を実施する研究者
2. 本「素過程と連携」の感覚に富む者
3. 時代を先駆ける独創性の強い基礎的研究
4. 今後に大きく開花の望みのある世代の優先
5. 過去に何らかの有力な研究支援を受けた経験のない者の優先
 このように、選考にあたり採択基準を明確化していた点と、選考方法について相当の客観性を持たせようとした努力の跡がみられて評価できる。
 採択課題については、上記基本姿勢に基づき、細胞内要素の素過程と、複数の素過程の連携による形質発現のダイナミックな様相を、遺伝学に重点をおいて、包括的に研究することを目指した課題の選定を行っており、分野も多岐に亘り主に総括の個性と見識でなされた適切な選考結果であると見受けられる。
 
3. 研究領域の運営
 研究領域の運営は、若い挑戦者を育てるという「さきがけ研究」の主旨に沿う研究総括の基本方針に沿ってなされた。具体的には、年2回の領域会議を開き、研究者は報告を行っている。また、領域会議は北海道から九州までの4カ所で開催しており、これらの機会を異分野交流の場と認識して、各研究者の幅を大きく広げる機会として活用した。さらに、総括及びアドバイザーは研究者の研究内容には深く立ち入ることはせず、各自の主体性を尊重したことは、さきがけ研究の本来的趣旨を生かそうとした努力とみられ、領域運営の全体にわたって高く評価できる。
 予算配分については、研究総括と各研究者との直接面談によって決定する方針を採用し、各研究者の希望に配慮しつつも、必要度に応じ基本的にはメリハリのある配分になっており妥当であったと思われる。
 
4. 研究結果
 全体として採択された38課題の研究者の中には、基礎生物学の発展に多大に寄与するような特筆すべき成果をあげた者から、十分な成果が得られなかった者まで見られる。この点は、研究総括自身認めているところであるが、このような研究体制では致し方ない一面である。本研究領域がさきがけ研究である以上、近視眼的にみた研究業績(論文)よりも、その研究がどのくらい独創的で夢が多いものであるかも評価の物差しにするのがよい。この視点から全体を総合してみると、本領域の所期の目標であったモデル生物における生命現象の素過程を解析し、それらがどのようなネットワークを形成して連携しているかという課題に迫った点で、当初の目標は概ね達成されたとみてよい。
 また、本領域の研究者が、異分野の集団として幅広い討論の場を持てたことは、ここで育った研究者の将来に計り知れぬ影響を及ぼしたものと思われる。日本の生命科学を背負うと期待される若手研究者の今後の更なる成長に期待したい。
 本領域の成果の多くは基礎的なものであったが、国内外の特許数も多く、科学技術や国民生活への意義も大きいと思われる。
 
5. その他
 第1,第2,第3の各期の中では、第2期で採択数が増えたために、第1期、第3期と比較して競争率が極端に低く(1/2〜1/3)、この期の採択者の中には、多少水準の低い者も見受けられた。この質の低下は、競争率の低下に対応するものと思われるが、このような場合、無理に領域内の採択数を増やさずに、予算を有効に使う別の方策はなかったものであろうか。

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