資料1−9

研究領域 「状態と変革」


1. 総合所見
 本領域は、「状態と変革」という大きな枠組みの中で、物質の構造秩序が、急激に変革する現象、すなわち多様な可能性を秘めた安定秩序構造が、どのように他の状態に変革するか、そのダイナミクスと機構を研究するものであった。
 研究総括は、「変革」という言葉に従来の常識を覆す挑戦と冒険(研究総括によれば「超常識」)の意味を込めて、提案が優れた発想を有しかつ将来の発展性に期待を寄せることができれば従来の業績に拘らない、として従来の研究分野の枠組みを超えて幅広く(同「超分野」)課題を採用してその研究を推進しようとした。
 以上のような趣旨を踏まえると、この領域は、研究総括の強力な指導力の下に、物質科学分野の若手研究者の成長に広く貢献することができたと考えられ、「さきがけ研究」の特性が充分に発揮されたと判断される。事実、採択された研究者の中には、当初は無名であったが、その後、本領域での業績を通じて知名度が格段に上がった若手研究者がおり、また、多くの研究者が教授等へ昇格しており、こうした才能豊かな若手研究者を支援した本領域の貢献は大きかったと言える。
 本領域からは、上記のとおり数多くの有望な科学者が育ち、かつシーズ的研究成果が生まれたが、その一方で、将来的にどのように社会に貢献しうるか、という視点を持たずに出発した研究が多かったという側面も否定できない。直接実用化という点での社会貢献は必ずしも多くないが、研究総括が当初から目指した「科学研究の文化への新しい潮流を生むシーズ」という視点からは充分高く評価でき、「さきがけ研究」の使命に沿った大きな社会的意義と認めることができる。
 研究総括の「世界的に見てもこのような制度は存在しない」という言明に留意すべきであると同時に、この制度の中から、次の時代を担う「さきがけ」精神を持った若手研究者たちが育ってくることを大いに期待したい。
 
2. 研究課題の選考
 領域アドバイザーは、充分に経験を積み、多くの分野に亘る科学者から人選が行われ、その構成はよくバランスが取れていたと言える。
 実際に採択された課題には、挑戦的、冒険的なものが多く見られ、その採用傾向として、第1期、第2期、第3期とにそれぞれ特徴が見られる。第1期は光誘起相転移が中心課題、第2期は分野が極めて多岐に亘り、第3期は基礎物性に関する方法論の開拓、先進手法による研究に主眼がおかれている。これらの研究課題は、一見して分散しているように見えるが、多くの現象の中から新しい現象(「超常識」)の発見を目指すと共に、統一した概念を確立しようという、研究総括の哲学がよく反映されている。また、「さきがけ研究」の性格として、比較的基礎に重点がおかれていたことは適切であろう。結果的に、大学研究者からの採択が多かったが、企業研究者は、基礎学問としての認識が低くとも新しいニーズを持っている場合があるので、多少の冒険を覚悟しつつ、そうした新しいニーズへの挑戦者を、ある程度積極的に採択する途もあったかと思われる。
 
3. 研究領域の運営
 「状態と変革」という研究領域を掲げて、その中で「超常識」を「超分野」で挑戦する、という確固とした哲学を実践するために、研究総括はアドバイザーと協力して、領域会議等の泊まりがけの研究会を行うなど、採択後の課題の進度を注視、督励する態勢をとり、研究者間の相互作用の奨励に積極的に努めた運営姿勢は高く評価できる。研究総括のマネジメントが、独創性のある研究の進展に寄与したかどうかは、現時点では評価しかねるが、実際に本評価会における質疑応答を通じて、領域全体を極めて的確に把握しているとの印象を受けたことは、上記の努力の成果を示すものである。
 また、予算執行に関しては、必要なところに多く配分するという方式がとられたように見受けられるが、一方で別のやり方として、研究成果の発展に応じて多少メリハリを付ける、という選択もあったかも知れない。
 
4. 研究結果
 「新規なアイデアの機能材料、機能素子を実際に開発する」という当初の期待は、おおむね20%が実現したが、その他にも、光誘起相転移現象、低次元系での電子・スピン系挙動に関する基礎研究などの将来デバイス開発に発展する可能性を秘めた数多くのシーズ的研究成果が生まれている。これらは、基礎研究に軸足を置いた領域設定と課題採択方針の結果と理解できる。特に、有機磁性体およびコバルト系熱電材料は、新しい原理に基づく現象という観点からその科学的意義は極めて大きい。ただ全ての研究成果にいえることだが、応用面での真の社会的貢献は、今後の研究を待たねばならない。
 一方、必ずしも研究目的が達せられない時点で終了し、その後の発展に期待されない課題も幾つか見受けられる。この点は、本制度の性格である若手を優先的に抜擢することや、3年間の研究期間、さらに、本領域の哲学を考慮すると、むしろ当然のことと考えられ、到達した成功率は充分であったと思われる。
 
5. その他
 領域総括が「さきがけ研究」の精神と理念を十分に意識し、かつ積極的に行った運営が印象的である。

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This page updated on August 1, 2003

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