資料1−8

研究領域 「形とはたらき」


1. 総合所見
 研究総括は「焦点を絞った領域の方が期間内の業績は上がるが、我が国の科学技術の将来を考える時、この領域のような独自性の高い存在も許される」という哲学で課題を選考し、研究領域の運営を行った。本領域が存在したことは、現在、生命現象の一つのとらえ方として、生体成分の分子から高次構造に至る過程において形を重視した研究が展開されていることをみる時、本領域を「さきがけ研究」の研究領域として5〜6年前に既に発足させていた意義は極めて大きい。また、本研究領域から、四方、塚谷、長谷部などの将来の分子進化学を担うような有望な人材が育ったことも、本領域が存在したことの大きな意義である。
 このような成果が得られた理由は、研究総括の熱意と個性豊かな運営によるところが大きいが、その中で若い研究者達が単に研究面だけではなく、総括の「研究とは何か」、「研究者はいかにあるべきか」という見識に触れて大いに触発されたためであろう。
 
2. 研究課題の選考
 本研究領域は、生物、無生物などに見られる多様な形とその意義、できかた、相互作用、系の形成、環境への適応などの「はたらき」を研究するものであり、生物から化学までの課題を幅広く網羅している。そのような中で、選考にあたった領域アドバイザーは、分子生物学、生物物理学、進化学、および化学の専門家からなる7名から構成されており妥当であったと判断される。ただし、幅広い領域をカバーするために、もう少し人数を増やしても良かったかも知れない。
 課題の採択は、上述のような研究総括の哲学のもとに、書類選考である程度の数に絞り、ついで、それらの候補者の面接審査を行い、アドバイザーを含めた投票による順位付けを実施している。また、最終的な採択にあたっては、その結果を重視しつつも、将来性を期待して、必ずしも得点順に従わない例も少なくないように見受けられる。このように、本制度の意義を踏まえて、研究総括はその選考方針として、研究実績よりも、研究の方向性と計画、ならびに研究者の熱意を重視している。その過程には、30代の研究者の創造の慶びを味わい、一緒に楽しみたいとの総括の情熱が感じられ、その選考方針を高く評価したい。
 実際に採択された課題は、40代はじめの研究者も含み、生物学から化学まで広がっており、極めて多岐に亘るものとなっているが、全体としてはよくバランスがとれたものとなっており、選考は適切であったと判断される。
 
3. 研究領域の運営
 研究の遂行は、原則として各自の主体性に委ねられた。領域会議では、研究者の間で活発な議論をすすめることを奨励して、アドバイザーは助言に徹し、研究総括は、折を見て、全員に対して、些末主義や安易に走らぬようにと、研究者のあり方を説いた。また、時によっては、個人的に対応もしながら、研究課題の変更や報告書の書き方についてまで助言を行っている。このように、総括は期待以上の熱意と見識を持って運営にあたりつつ、のびのびと、それぞれの考えに任せて研究させたことが、大きな結実につながったと考えられる。ただ、もし初期の歩留まりを2-3割と仮定したとすれば、注目に値し、進展しそうな研究にメリハリをつけた研究費の配分があっても良かったと思われる。
 
4. 研究結果
 分野により論文の出方は異なり、論文のみで評価するのは問題だが、研究総括の期待に沿って、38名中の約1/3は注目に値する成果を得ている。選考の方針により、最初から想定されていたことであるが、3年後に期待された結果がでない研究者が含まれていたことはやむを得ない。むしろ、安全な選択では、指導者の計画通りに考える小さなスケールの研究者しか育てられない可能性が大きく、総括のとった方針を高く評価したい。
 本領域からいくつかの優れた成果が出ている。中でも、アサガオゲノム研究への道を開いたもの(仁田坂)、植物の花、茎、葉などの器官形成に関する分子遺伝学的研究(長谷部、塚谷)、カエルの頭部形成の遺伝子群(橋本)、プラナリアの優性生殖誘導因子の発見(小林)、でたらめなDNA配列導入細菌が新酵素を誘導する過程(四方)、運動力学に注目した化石古代動物の運動シミュレーション(宇佐美)、人工らせんポリマー変換(八島)、実用化に近い新規有機合成法の発明(徳永)等々、みるべきものがある。とりわけ、一期生の宇佐見、四方、仁田坂は、選考当初は、手をつけていなかった課題にとりくみ、まさに総括の熱意が、彼らの創造性に富む研究を開花させたことは、この「さきがけ研究」の見事な成功例であると思われる。これらの研究者に対しては、これからの10年間に期待したい。
 本領域の研究成果の応用面への期待については、その趣旨から云っても無理な点が多く、評価は難しいが、研究総括の基礎研究が生まれるシーズの探求や夢のある研究の開拓ということに対する思いは達成されたとみるべきであろう。
 
5. その他
 本領域研究が文科省の科研費と一味も二味も違っている点は重要である。このことを認識した上で、研究総括自身が述べているように、研究期間の3年間で十分な成果が出せなかった研究者も含め、全員に対し終了後数年が経過した時期に、追跡調査をする必要があろう。要求される追跡調査の仕組みは、さきがけ研究がその後の研究でどのように生かされ発展したかが解るようなものであるべきであろう。

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This page updated on August 1, 2003

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