資料1−4

研究領域 「単一分子・原子レベルの反応制御」


1. 総合所見
 本領域は、「大きな可能性を秘めた未知領域への挑戦」という戦略目標のもとに設定された「単一分子・原子レベルの反応制御」であり、新しい方法論の確立も含めて反応場での「各種の化学反応」を理解して新規物質を創成する、という大きな総合的戦略の下に計画された。
 この計画の実現にあたり、本領域で採択された課題を「独創性」と言う尺度から見ると、特筆すべき独創的な成果は課題によってばらつきがあるものの、化学分野全般に亘り広く優秀な人材が選ばれ、さまざまな分野でピークを示す成果が得られたと判断される。特に若手研究者の成長に本事業が貢献していることは特筆すべきである。得られた成果の多くは、化学における各分野の発展に大きく寄与し、あるいは今後寄与するであろうと思われる。この意味において、化学系のプロジェクトとしての本研究領域が大変有意義であり、初期の戦略的目的は概ね達成できたと判断される。
 一方、CREST発足当時は、「目的志向型のプロジェクト」があまり強調されていなかったため、研究対象に広がりが見られるのは致し方ないと思われるが、研究チーム間の相互作用が領域としてもう少しあってもよかったと思われる。
 受賞の多さは研究内容の質の高さもさることながら、研究成果の普及活動の結果でもある。材料系の研究は、成果が応用に結びつき易いという特質はあるが、研究成果の社会還元を積極的に推進した結果でもあろう。この両面における研究総括の指導力と技術参事の活動を高く評価する。
 
2. 研究課題の選考
 研究課題の選考に関しては、分野として偏りがないように広範な分野から、アドバイザーとして11名のシニア研究者が選ばれており、その選定は適切であった。ただし、企業の研究者は1名だけであり、広範な領域に識見を有する企業研究者の選定は困難を極めたと予測されるが、もう少し参加があってもよかったと思われる。
 課題の採択は、「優秀な研究代表者と研究協力者のいるグループによる計画の中で独創性と新規性を最優先して評価する方針」で選抜し、「アドバイザーの意見を参考にして」知名度の高いシニアの研究者から若手研究者まで幅広い年齢層から構成されている。
 結果として採択された課題は、無機、有機、薬品、生体の幅広い分野に亘り、それぞれの分野で人選が行われており、領域のねらいとして概ね適切な選考結果と言える。ただし、その一方で、反応制御は有機合成反応が中心にあり、無機、高分子合成反応などは少なく、また物理など異分野の研究者がまったく採択されていないのは、多少バランスに欠けるように思える。
 
3. 研究領域の運営
 研究総括が述べたように、優秀な研究代表者を選ぶことができたので、個別の研究方針は研究代表者に原則として任せて、議論を基にして方針を変更した事例は非常に少なかった。これは研究課題がやや分散的であり基礎研究に重点が置かれている以上、止むを得ない面もあったと推察される。このように領域の運営は、研究者の主体性を極力尊重しており、得られた結果の水準から見て、その運営は概ね成功したといえる。
 また、本領域の予算に関しては多少の傾斜配分が見られるものの、研究課題毎に殆ど平均化されていた。これは、「業績が比較的目立つ一部の研究者への研究費の過度の集中を防ぐ」という、領域総括の哲学の下で行われたと見受けられるが、厳正な中間評価の結果を踏まえて、予算を均等配分ではなく目標に合わせて差をつけることがあってもよかった。このような大型研究予算の研究では、予算任せで装置を揃えるような研究費の使い方ではなく、独創性の高い装置の開発に重点配分することができるからである。実際に本領域でも、他で開発された装置と類似の装置製作も見られる一方、複数の課題で独創性の高い装置の開発に成功している。
 日常的な運営においては、研究総括と企業出身の技術参事とがよく連携して運営に努め、成果を目に見える形とした。特に、研究成果の応用面に関しては、技術参事が積極的に適宜意見を述べたこと、成果発表が3期にわけて行われ、更に課題別のシンポジウムが開催されて、企業などの技術者に対して、積極的に研究成果の情報を提供するなど、知的財産権獲得や特許・技術移転などに大きな成果が上がった点は高く評価できる。アドバイザーの選定と同様、困難であったことは予測されるのだが、可能であったならば研究途中でも企業からの研究参加があれば、さらによかったように思われる。
 それぞれの課題の採択時の研究体制状況がどのようなものであったかは理解しかねるが、少なくともプロジェクトの進行中に同一研究者が複数の大型研究課題に参加している例が見出された。この事実は、この領域に関してだけでなく全ての大型プロジェクトに対して言えることなのだが、研究者が現実になしうる能力から見てこのような参加形態は決して望ましいものではない。また、実際に得られた成果から見ても、このような研究チームの研究成果の達成度は他のチームの成果と比較して低い。このことは、これまでの業績が高い研究者を優先的に評価した方針の結果と見ることもでき、課題採択のあり方に関する検討課題と言えよう。
 
4. 研究結果
 研究は基礎から創薬に至る化学反応の極めて広範な分野に及んでいる。このために、本領域は領域全体としての成果を表現しにくくしているが、それぞれの分野では、極めて優れた研究成果が多数得られており、それらの成果は国際的にも高く評価されている。ただし注意しなければならないのは、このような大型研究費の研究成果に対する評価を論文数で行ってはならないという点である。本制度のような多額な研究費と多くの研究者が参加する研究では、論文数が多いのは当然であり、むしろ、特筆すべき結果が得られたか否かが、評価の中心とならねばならない。このような視点から改めて評価するならば、採択課題の70%から今後の発展や周辺分野への波及効果が期待される特筆すべき成果が得られていると評価できるので、「単一分子・原子レベルの反応制御」は領域として成功であった。また、5名の研究者がIBM科学賞を受賞するなど、本領域が若手研究者の成長に大きな貢献を行った点も特筆に値する。
 個別の研究成果の中では、山崎貞一賞を受賞した蛍光ラベル法は生体分析法として高く評価されており、実用的にも社会への貢献は大きい。また、液層カーボンナノチューブの合成の発想は独自性が高く、ナノチューブ自体の工学的意義がはっきりすれば、その評価も定まろう。
 総括すると、特許出願が320件に達し、出願された特許の企業へのライセンスが30件以上であることなど、社会経済等への貢献に対する期待ができるので、新技術・新産業の創出という戦略目標に近づいたと言っても過言ではない。
 
5. その他
 本領域での、研究総括および領域アドバイザーの成果に対する評価姿勢に対して述べたい。研究総括および領域アドバイザーは、単に研究成果に対して学術面で高い評価を与えるだけでなく、目標達成度の面からは厳しい評価を行うべきであった課題もある。何故ならば、これこそが研究総括および領域アドバイザーの課題の採択に対する責任だからである。
 また本領域は、本制度の中に化学領域が少なかったこともあり、化学に集約してそれを追求するものであった。一方、今や「ナノサイエンス・テクノロジー」などに代表されるように、21世紀の重要な科学・技術分野は化学、物理学、生物学などの古い学問分野を超えた学際領域に移行しており、異分野間の研究者が協力・交流して独創的なブレークスルーが達成されると期待されている。今後の研究領域の設定、研究課題の選考などに当たっては、このような観点・視点をいっそう強く打ち出して、本制度の特徴を明確にしていくことが望まれる。
 本領域のアドバイザーの構成を見ると、企業の研究者が不足しているが、そうした不足部分を、企業感覚を持った技術参事がうまく補ったように思われる。このように、日常の研究遂行を支援するという意味では、技術参事の役割は非常に重要である。技術参事の仕事は、研究総括以上に難しい局面もあると思われるが、研究総括に比較して、技術参事の社会的地位が確立されているとは言えない。今後は、本領域の成功の例を多くの後輩に伝えつつ、技術参事の社会的意義の高さを認めて形にする努力が必要と思われる。

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This page updated on August 1, 2003

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