資料1-1

研究領域 「生命活動のプログラム」


1. 総合所見
 本研究領域は今や日本が世界に誇るものであり、その発展、進展を促し、担ったのが本研究領域の研究である。本領域の推進により、我が国から世界先端水準の成果が数多く生まれ、若手(加藤ら)をはじめ最高水準の研究者が多数育った。このことは、研究総括の強力なリーダーシップによるマネジメントもさることながら、得られた研究成果が国際的に極めて質の高い一流誌に多く発表されていることからも明らかである。本研究領域が、日本の生命科学の基盤研究の進展、特に発生・分化・老化など生命活動の基本となる生命現象の分子生物学の研究の進展に大きく貢献したことは高い評価が与えられる。これらの成果は現時点では直接ではないが、将来は、医学・医療などを通して国民に還元されることが期待される。
 以上を総合すると、本領域が存在したことの意義は極めて大きく、本事業の趣旨及び総括の所期のねらいは概ね達成されたと判断できる。
 
2. 研究課題の選考
 きわめて広範な生命現象を対象とした本領域の8名のアドバイザー(註:途中2名が交代)は、古典的分子生物学分野に幾分の片寄りがあるが、日本の分子生物学を築いた世代と、生化学の分野からと、専門分野が配慮されたものとなっており適切であったと判断される。また、外部の識者の意見も加えて選考が行われた点も評価に値する。ただし、全体的に年齢が高いので大学等の現職教官等も含める点と、対象が「高等生物」なので高等植物の応募提案に備えて植物関係のアドバイザーを候補に入れる等考慮してもよかったと思われる。
 選考方針としては、日本中から最も優れた人材を選び出し、優秀な研究を一層育てるという考えの基に、広範囲の分野から課題が選考されている。また、選考方法に関しても、本制度の一般的方式を採用しており、そのプロセスはおおむね適切である。
 採択された課題は日本を代表する一流の研究者によるもので、バランスもよいが、これはおそらく、領域名が広い研究を網羅していたためであり、領域名の設定の大切さを物語るものであろう。 
 いくつかの課題は、研究代表者の知名度とは裏腹にそこでの成果は期待されたほどではなく、それは本制度の成立初期の混乱のためもあるとは思うが、提案内容と研究者の力量から、幅広い公平な評価の上に立って選定を行うことの重要性を示す事例と思われる。
 
3. 研究領域の運営
 優れた人材が選ばれた結果、研究総括は、原則として研究者の自主性を尊重する方針をとっている。また、研究の進捗状況については、総括が各代表者の自主性を尊重しつつも、必要に応じて直接面談を行い、適宜助言を与えるなど、研究総括の方針に添った方法で実行した点も評価できる。
 さらに、本領域の予算に関しても、適度なメリハリのある配分になっており、研究結果からしても妥当であった。
 全体として、我が国を代表する研究を適切に推進したと結論できるが、一部には著名科学者を代表としながらも研究成果の必ずしも充分でない課題や、一部資金の運用に問題の出た者もあり、研究総括が一層の強い指導性を発揮してもよかった事例が見られた。
 なお、事後評価の段階で外部評価者を新たに加えたのは適切であった。
 
4. 研究結果
 本領域は、生物機能の分子生物学的研究として国際先端水準を抜く多くの成果を輩出している。その中でも、初期胚発生の誘導現象におけるアクチビンの同定(浅島ら)、老化に関するKlotho遺伝子の発見(鍋島ら)、胚発生における左右非対称性lefty遺伝子の研究(濱田ら)、ステロイドホルモンと核内レセプターを介した遺伝子発現制御(加藤ら)、回転分子モーターF1ATPaseの一方向への回転の直接観察(木下ら)などの研究成果は、その科学的意義は云うに及ばず、科学技術の新しい研究分野の開拓へと繋がるものとしてその貢献度は大きい。また、人工染色体の研究(岡崎ら)は、世界的にも他に類を見ない、極めて挑戦的な課題であり、長期的には遺伝子治療への道を開くもので、科学技術や国民生活への意義も大きい。一方、MAPキナーゼ系列のシグナル伝達の研究(松本)や細胞分裂における染色体分離機構の研究(柳田)、タンパク質の膜を介した移動や配置等の研究(伊藤)などは、純粋基礎研究的色彩は強いが、その成果はまさに国際的に高い評価を得ており、今後応用面への貢献が大きいものと期待できよう。その他にも特筆すべき成果が多々あり、これらの成果が今後、癌をはじめとする様々な疾病の研究や治療技術に活かされると期待される。
 
5. その他
 先に述べたことでもあるが、「生命活動」をもっと広義に捉えて、植物も含めたならば、さらに課題の採択が適切であったと思われる。確かに、この分野の研究は動物に比べ植物では一般的に遅れているが、その分だけ、本制度の中で植物に関する科学技術を先導していくような課題を採択する意義も高いと見ることも可能だからである。

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This page updated on August 1, 2003

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