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中間評価の詳細
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(1)研究目的
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窒化物半導体の不均一結晶性を科学的に理解し、かつそれを制御することは、窒化物半導体を用いた短波長半導体レーザ並びに発光ダイオードなどの光デバイスや、高出力高周波の電子デバイスの一層の高性能化にとって、極めて重要なことである。窒化物半導体には、デバイス性能を左右するキーとなる不均一性が存在している。それらは、組成揺らぎ、内部電界、マクロ欠陥(転位、積層欠陥等)、ミクロ欠陥(点欠陥、不純物等)など,さまざまな不均一性を含んでいる。中村プロジェクトでは、これらの不均一性を科学的に解明すること、及び制御することを通して、窒化物半導体のバルク結晶、薄膜結晶の高品質化、さらにはそれらを用いた高性能半導体デバイスを目指すことを重要な目的としている。 |
本プロジェクトは次の3つの分野から構成されている。 |
1)不均一性結晶バルクグループ |
2)不均一性結晶薄膜グループ |
3)不均一性結晶評価グループ |
第1の分野は、GaN及びAlNのバルク結晶のグループである。このグループの主な目的は、MOCVDやMBEで薄膜結晶を作製する際に低欠陥密度を実現するための窒化物半導体の完全結晶基板を作製することである。 |
第2の分野は、薄膜結晶のグループである。窒化物半導体において、MOCVDやMBEは不均一性を制御する最も基本となる技術であり、不均一性を制御する新技術を発見することにより、LEDやLDなどのデバイスの性能を格段に向上することを目指している。また、窒化物半導体薄膜の成長過程の詳細なシミュレーションを行い、その結果を結晶性向上に役立てることを目指している。 |
第3の分野は、不均一結晶を評価するグループである。ここでは、窒化物半導体に存在する様々な不均一性の特性や相互の関係を科学的に解明することと同時に、それらの不均一性がデバイス性能にどのように影響を与えるのかを解明する。最終的に、不均一性のもつ消極的な特性を削減するとともに、逆に不均一性のもつ積極的な特性を見出し、それらをデバイス性能向上に発現させることを目指す。 |
(2)プロジェクトの実施場所およびマネジメント
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本プロジェクトは中村総括責任者が所属しているアメリカ合衆国のカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)と、日本の東京理科大学並びに筑波大学の3箇所で研究を実施している。 |
カリフォルニア大学サンタバーバラ校における研究グループは、窒化物半導体における結晶成長分野、光デバイス分野、電子デバイス分野において、世界をリードしている。また、当グループ内には、当該分野で何名かの著名な教授陣が含まれている。プロジェクト開始前から、この研究グループにおいて研究スタッフ、研究施設、機器設備は十分に充実していたが、このグループに窒化物半導体デバイスでパイオニアの1人である中村教授が入ったことは、研究グループの推進力をさらに高めている。同時に、本ERATOプロジェクトの強い後押しにより、さらに大きな成果が生まれている。このように、窒化物半導体で世界をリードするカリフォルニア大学サンタバーバラ校が本ERATOプロジェクトの中心的な役割を果たすことは、極めて重要な意味をもっている。 |
筑波大学では、秩父助教授が窒化物半導体の光物性分野、すなわちInGaN系MQWの発光機構で先駆的な研究成果をあげている。秩父助教授が、本プロジェクトに加わり不均一結晶の光学的評価を進めることにより、光物性面の理解が格段に進んでいる。 |
東京理科大学では、大川教授は化合物半導体結晶成長技術のパイオニアであり、本プロジェクトを通してMOCVDのシミュレーション技術で有益な結果を出している。今後、本グループは反応過程の理解がなお一層進むにつれて、薄膜結晶の作製及び制御の面で大いに貢献していくであろう。
各研究機関において、研究の重複するところ、あるいは不足するところはなく、分野間でバランスが取れている。さらに、中村総括責任者の提案している不均一結晶の研究理念と強いリーダシップを背景にして、各研究機関同士で強い協力関係ができていることは、高く評価できる。
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(3)各グループの研究評価
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原著論文数、会議発表件数において、それぞれの研究グループでプロジェクトの開始後1,2年後より驚異的な研究の量と質であり、インパクトの強い成果を上げている。 |
《不均一結晶バルクグループ(UCSB)》 |
まず、HVPE法とレーザリフトオフ技術を用いて高品質なc面GaNを作製する基礎技術を確立した。その後、HVPE法によるnon-polar a面GaNの成長に成功し、さらにはLEO技術を用いてnon-polar a面GaNの低転位化及び積層欠陥の減少に世界に先駆けて成功したことは、極めて高く評価できる。また、本プロジェクトの薄膜グループ並びに評価グループへ、上記の高品質non-polar a面GaNを提供することにより、その有効性を実証したことは、プロジェクト内の強い連携喚起を示すもので高く評価できる。 |
Ammonothermal growthによるGaNバルク作製についてはまだ初期段階ではあるが、独創性が高く評価できる。AlNバルク結晶成長技術は、今日UV発光デバイスへの応用で重要な技術になってきている。これに対して、本グループでは、CVRP法、HVPE法、昇華法を用いてAlNの結晶成長に取り組んでいる。実験結果は初期的な研究段階であるが、今後の研究の進展に期待したい。 |
窒化物半導体で高品質non-polar GaNバルク基板を先駆けて実現したことは、極めて意義が大きい。また、AlNも含めたバルク作製のために独創的な結晶成長技術に果敢に挑戦している。実験を加速しブレークスルー技術を獲得することにより、今後の研究成果に大いに期待できる。これらの結晶成長技術が、世界をリードできる新しいバルク結晶成長技術となるよう努力してほしい。 |
《不均一結晶薄膜グループ(UCSB)》 |
MOCVD法でnon-polar GaNの結晶成長、AlGaN/GaN量子井戸の作製、及びa面GaNのp型伝導性制御について短期間の間に多くの成果が得られているので、極めて高く評価できる。特に、AlGaN/GaN量子井戸でnon-polar結晶の効果を実証すると同時に、non-polar結晶を用いた p-n接合及びLEDを世界に先駆けて作製したことは、大きなインパクトを与えている。これらの成果は、現中間評価における本プロジェクトの最大の成果といえる。 |
LEO法を用いたnon-polar GaNの結晶成長において、ファセット形態の成長条件依存性を詳細に明らかにしていること、並びにそれらの知見に基づきnon-polar GaNの欠陥密度の低減を実現していることは、本グループの結晶成長技術の高さ、すなわち不均一結晶の制御技術の高さを世界に示すものである。 |
MBE法でのnon-polar GaNの結晶成長も実現しており、MBE法を用いたnon-polarデバイス分野での応用が期待される。また、LED表面を凹凸状にしてμ-cone LEDを作製することで光の取り出し効率が4倍増加したことも評価できる。 |
本グループは、窒化物半導体の結晶成長からデバイス作製に至るまで、幅広く精力的にこなしている。なかでも、non-polar結晶の効果を実証したことは、世界の窒化物半導体の光デバイス研究分野に大きなインパクトを与えるものである。今後、さらにnon-polar結晶を用いた高性能のLED及びLDが実現されると、薄膜グループだけでなく、バルクグループの研究意義も高まるものと期待される。 |
《不均一結晶薄膜グループ(東京理科大学)》 |
GaNのMOCVD成長における複雑な反応プロセスについて、従来の研究よりも格段に多くの化学種及び化学反応をシミュレーションで考慮した結果、GaN結晶に至る明快な反応プロセスが明らかになっている。このことは、これまであいまいであったGaNのMOCVD成長に重要な指針を与えるものである。今後は、上記のシミュレーション結果を実験結果と比較評価を行うことにより、計算精度を上げるべきである。 |
さらに、Alを含む系では反応プロセスがかなり異なることが予測されるので、AlGaN及びAlNの成長におけるシミュレーション結果に、今後に期待したい。また、本シミュレーション結果を、GaN系の結果をも含めて薄膜グループにフィードバックすることが望まれる。 |
InGaN/GaN MQWの熱的安定性についての実験も行われている。MQWにSiをドープすると、MQWの熱的安定性がよくなるという興味深い結果が出ている。 |
GaNのMOCVD成長における反応プロセスについて一定の知見が得られたことは、窒化物半導体のMOCVD成長にインパクトを与えるものとして評価できる。今後は、Alを含む系のシミュレーションを加速すると同時に、これらのシミュレーション結果を実際のMOCVD成長にフィードバックすることが望まれる。 |
《不均一結晶評価グループ(筑波大学)》 |
Non-polarのa-AlGaN/GaN量子井戸とpolarのc- AlGaN/GaN量子井戸と比較することにより、polar量子井戸に比べnon-polar量子井戸の再結合寿命が、井戸幅によらないこと、並びに、室温においてpolar量子井戸に比べnon-polar量子井戸の内部量子効率が3-4倍になることを実験的に明らかにしたことは、すぐれた研究成果であり極めて高く評価できる。さらには、LEOを用いて結晶品質を向上させたnon-polar量子井戸では、室温での内部量子効率が3倍にも増加することを見出している。このことはnon-polar結晶においても結晶欠陥を低減することが重要であることを示しており、この成果の意義は大きい。 |
cubic InGaN/GaN MQWがnon-polar量子井戸であり、内部電界の影響を受けないことを光学的に明らかにしている点も、評価できる。 |
AlGaN/GaN MQW光学的特性評価を行い、これらの結果を従来得られたInGaN/GaN MQWにおける結果と比較することにより、AlGaN/GaN MQWにおいて励起子の局在化が起こりにくく、そのために非発光センターの影響を受けやすいことを明らかにしている。この事実に基づきAlGaN系デバイスにおいては、InGaN系デバイスと比べて、転位、積層欠陥、及び点欠陥の低減がより一層不可欠であることを明らかにしたが、この功績は大きい。 |
発光機構と点欠陥の関係についても興味あるデータが得られている。この問題はAlGaNベースの窒化物半導体光デバイスにおいてますます重要になるので、継続して検討すべきである。GaNと近い光学物性を有するZnO薄膜の光学評価についても興味ある結果を得ており、ZnO分野への成果の波及効果が今後期待できる。 |
また、本グループは、本研究プロジェクトのバルクグループ及び薄膜グループで作製される結晶の光学評価と光物性解明を担っており、プロジェクト内での共同研究も良く機能していると認められる。 |
AlGaN/GaN MQWにおいて励起子の局在化が起こりにくいこと、さらには、LEOを用いたnon-polarのa-AlGaN/GaN量子井戸で内部量子効率が格段に向上すること等を、明らかにしたことは、窒化物半導体の光デバイス分野に強いインパクトを与えた。これらの成果が、短波長半導体レーザや発光ダイオードの高性能化のために重要な指針を与えている。non-polar GaNを利用したLEDが、実際に発光効率をあげ従来のpolar GaN LEDを駆逐するようになれば、本評価グループの意義も高まるであろう。結晶作製グループと評価グループとの連携を一層強め、成果をあげてほしい。 |
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