「土居バイオアシンメトリプロジェクト」終了報告

・総括責任者(終了時) 土居 洋文(セレスタ・レキシコ・サイエンシズ(株) 代表取締役社長)
・研究実施期間 平成7年10月 ~ 平成12年9月

Ⅰ.研究の概要

 自然界の現象はランダムに起こるのではなくノンランダムであり、ノンランダム性が意味をもつ。ノンランダム性は広義に考えれば非対称性である。本プロジェクトでは、三つの非対称性をプロジェクトのメインコンセプトに据えた。すなわち、染色体DNAの持つ非対称性・中心体の非対称性・DNA配列や蛋白質アミノ酸配列のもつノンランダム性である。当プロジェクトの目的は、「非対称分裂の遺伝子レベルからの研究」に加え、これら三つの非対称性の生命における役割と遺伝子について探ることである。三つの非対称性は生物の物質的情報的な基本原理を非常に大きな観点から捉えるため、簡単に「突然変異体から出発してその変異に関与する遺伝子の研究」をする、というスタイルをとれない。まずは、正常な現象、物質、情報を捉えるところから出発しなければならない。
 本プロジェクトでは、「生命における非対称性の役割」という大きなテーマだけではなく、コンピュータによる解析グループと実験グループとの混在という従来にはない新しいスタイルの生物学を進めて来た。ゲノム情報を駆使したバイオインフォマティクスによる「ポスト・ゲノム」時代の生物学だけではない。私の20数年来の「予言する理論生物学」の経験がコンピュータによる解析と生物実験に上乗せされ、これまでに類例のない研究スタイルが展開された。また、本プロジェクトで行ってきた仕事を基盤にすえ、新しいベンチャー会社を設立した。

Ⅱ.研究体制と参加研究者

◆研究体制
理論構築グループ(千葉県千葉市/WBGマリブイースト内)
【非対称性のゲノム・プロテオーム情報工学】
研究員数:金井 昭夫、他5名
非対称変異体グループ(茨城県つくば市/筑波研究コンソーシアム内)
【古細菌・酵母・線虫をもちいた非対称性の分子生物学】
研究員数:稲田 喜信、他3名
ゲノム非対称性グループ(茨城県つくば市/筑波研究コンソーシアム内)
【マウス初期胚のEST解析】
研究員数:小宮 透、他4名

◆参加研究者(グループリーダー、研究員) 数字は研究期間での通算人数
企業 大学・国研等 外国人 個人参加 総計
12 15

Ⅲ.研究成果の概要

◆特許出願件数
国内 海外
◆外部発表件数(論文・口頭発表)
  国内 海外
論文
総説・書籍
口頭発表 32 20 52
37 23 60

【発表主要論文誌】
  Development/ Proc. Natl. Acad. Sci. USA/ Genes & Development

主な研究成果

1) マウス初期発生段階特異的に発現する遺伝子の同定
 マウスの初期発生で発現している約25000個のcDNAの塩基配列(部分)を決定し、胚の体軸形成に関与すると考えられる遺伝子や多数の新規遺伝子を見い出した。これら大量の配列を分類、解析するソフトウエアを開発した。
2) 出芽酵母の老化関連遺伝子のDNAアレイを用いた解析
 非対称分裂をする出芽酵母を用いて分裂回数の異なる細胞間で変動するmRNAをDNAマイクロアレイ法を用いて同定した。同方法を解析するソフトウエアを開発した。
3) ゲノム情報のノンランダム性の解析
 ゲノムの塩基配列やアミノ酸配列をオリゴヌクレオチドやオリゴペプチドの集合として捉え、頻度解析することにより、遺伝子の複製開始点や蛋白質の活性に関わる領域、さらには蛋白質-蛋白質相互作用を予測するプログラムを開発した。その一部は実験的に検証した。
4) 線虫の非対称性分裂と卵形成に関わる遺伝子の解析
 細胞分裂の分裂中心である中心体の新規な構成蛋白質を同定した。また、RNA干渉法を用いて線虫の卵形成に関わる一群のC3H遺伝子を見い出した。
5) 分裂酵母の有性生殖過程に関与する遺伝子群の解析
 分裂酵母の挿入突然変異法を確立し、有性生殖過程がうまく遂行されない変異体を得た。その中には胞子形成時の核の分配などに非対称性を示す株があり、原因遺伝子を同定した。
6) DNA/RNA結合蛋白質の非対称な核酸認識機構の解析
 超好熱性古細菌のDNA複製酵素やヘリカーゼを用いて核酸との非対称な結合様式を解析した。古細菌、線虫でアミノ酸組成に偏りのある新規のRNA結合蛋白質を見い出した。

This page updated on August 6, 2001

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