別紙2


田中固体融合プロジェクト事後評価報告書

1.研究の内容

 本プロジェクトの研究内容の独自性・水準、課題の選択、手法・装置の独自性について、各評価委員は例外なく高い評価を下している。
 セラミックスと金属など異種材料を接合して複合的に用いることは実用上極めて重要であるが、従来の研究では、界面現象の理解に基づいて接合状態を制御するまでには至っていなかった。この問題に対して、本プロジェクトは、固体融合現象の解明と界面制御手法の探索を目的として、固体―液体、固体―固体界面の原子スケールのその場観察を中心に動的な界面現象を解明したものであり、その内容は適切でかつ重要度の高いものであると評価された。
 本プロジェクトにおいてさらに特徴的なのは、先進的な実験方法や評価装置を駆使し、さらにこれに独自の改良を加えて高度化することにより、ミクロからナノレベルまでの動的な界面観察、キャラクタリゼーションおよび評価技術の開発を行った点にある。その結果、本プロジェクトは世界トップレベルの水準の高い独自性に富む研究内容を有するに至っている。
 
 (1)SiC やSi3N4 とTiろう剤との融合過程の動的その場観察
 従来、どの研究グループもなしえなかったSiC とSi3N4の反応の違いやSiCでの界面形成の詳細、および濡れの原子レベルでの探索に成功した。
 
 (2)BEEM法による界面のナノレベル観察
 本法を使って、界面のポテンシャル障壁のナノレベル観察に成功している。
 
 (3)異種物質界面の歪み
 本研究のなかで、歪みに起因するEELS ピークのシフトを発見したが、その詳細な機構の解明が今後の課題であろう。
 

2.研究成果の状況

 本研究プロジェクトの成果は、すでに80編を越える国内外の主要学術論文誌に掲載され、また50回にのぼる国際会議で発表されて、国内外で高い評価を得ている。特に、SiC/ロウ材反応の電顕観察やBEEM、Si/シリサイド界面のEELS観察などの論文は、特に価値の高い論文であると評価されている。今後さらに論文等での公表が引き続き予定されており、その評価は今後さらに高まるものと予想される。
 また、53件もの特許が国内外へ出願されており、そのいくつかは新素材やデバイスの開発においてブレークスルーを誘発するものと期待されている。
各評価委員から、特にインパクトの高い成果が得られたと評価された項目は以下の通りである。

 (1)ロウ材によるセラミックスの濡れ性に関する新しい知見
 濡れの進行に伴い先行層の形成が確認された。固―液界面における界面エネルギーに対する従来の考えに根本的な変更を迫るものと思われる。

 (2)BEEM法による界面ポテンシャル障壁観察の手法と結果
 本技術は、今後界面電子特性の検討に重要な手法を提供することが期待される。

 (3)異種材料界面近傍の局所応力・ひずみ分布の実測の手法と結果
 1%以下の圧縮歪みが、界面における電子構造に影響を及ぼすという知見は驚くべきことであり、半導体デバイス産業への寄与は大きい。

 (4)電子線照射による金属ナノ粒子の創製とマニピュレーション技術開発
 本成果は、今後、新しい学問分野を開拓する可能性もある。
 

3.研究成果の科学技術への貢献

 本研究プロジェクトで明らかにされた濡れのメカニズムや界面のナノ構造、界面の動的制御方法は、単にその対象が技術的に新規であり有用であること以上に、固体融合という従来にない新しい科学技術概念の確立を意味している。それは、今後、新しい科学分野の創出につながるであろうことは、各評価委員の共通の期待であり予測である。
 また、民間出身の評価委員からは、本研究プロジェクトの成果が、接合の信頼性の向上など、多くの産業界において重要な位置を占めている材料やプロセス開発において即効的な刺激・効果があることが指摘されている。

 (1)SiC とTiろう剤の反応の電子顕微鏡による動的解析
 本成果は、それが世界ではじめてであるだけでなく、今後の濡れや界面反応のより詳細な理解への途を拓くものと思われる。
 
 (2)BEEMによる界面電子ポテンシャル障壁
 本成果は、界面の具体的な構造とポテンシャル障壁の1対1の対応性を明らかにする途を拓いたものといえる。ショットキー障壁高を決める機構の解明に役立つだけでなく、設計や制御法の確立にも、今後貢献する可能性が見られる。

 (3)Si/シリサイド界面におけるEELSピークのシフト現象
 歪みと電子構造の相関は、従来は主に理論主導の研究分野であったが、本成果を一つのきっかけとして実験面での進歩が期待される。
 

4.その他の波及効果

 本研究プロジェクトに参加した研究者は、民間からの10名、海外からの4名を含め19名に上る。これらの研究者はプロジェクト終了後も各地で活躍しており、本研究プロジェクトの推進が若手研究者の育成や研究者人材の流動に関しても多くの寄与をしたことは特筆すべき点である。
 21世紀の材料科学においては、界面物性の理解と設計がますます重要な研究分野となることが予想される。本分野において、世界をリードする興味深い成果が数多く得られたことは、我が国の科学技術の進展に大きく貢献すると考える。
 

5.その他の特記事項

 本プロジェクトの成果には、あと数年後に非常に大きな成果となりうるものが幾つか見受けられた。創造科学の理念の一つに流動性が謳われているが、研究期間に関しては、流動的でなく固定的である。今回の評価の導入を一つのきっかけとして、プロジェクトの研究の仕組みの中に、評価をうけて研究期間の数年間の延長制を導入することは、我が国の科学技術の発展に意義あることと思われるので、この機会に提言したい。あるいは、単なる延長ではなく、5年間の活動の成果の中から特に絞り込んだ課題について、特に延長制度を適用するのも、合理的かと思われる。


This page updated on December 8, 1999

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