別紙2

橋本相分離構造プロジェクト事後評価報告書

1.研究の内容

(1)目的と意義
 ・本プロジェクトは、高分子や、コロイドなどの複雑液体系の相転移における自発的相構造形成過程、すなわち相分離過程、秩序構造形成過程の機構を分子レベルで普遍的に解明することを目的とし、さらにその成果に基づき、平衡・非平衡構造の制御、ナノ材料としての利用の可能性を示した。これまで難解とされて、ほとんど研究のメスが入っていなかったメソスケールの凝集系の科学に挑戦して大きな成果を挙げた。
 
 ・研究プロジェクトの内容は、物質の状態変化を取り扱うという意味では化学、状態変化の普遍的な法則を導こうとした点では物理学の領域に関連の深いものであり、研究はそれぞれの分野の研究者と絶えず議論を交わしながら、学際的に進められた。

(2)研究チームの構成と研究の展開
 ・研究対象として取り上げられることの多かった高分子は、一般に実用材料としても極めて重要なものである。このため研究グループには一貫して産業界からの参加があり、基礎的な知見の工学的応用を見落とすことのないようにとの配慮がなされていた。
 
 ・研究グループには、イギリス、ドイツ、アメリカなどからの参加もあり、また海外の研究グループとの共同研究、海外での研究発表会など、研究は恒常的に国際的な広がりの中で展開された。

2.研究成果の状況

 (1)高分子混合系が示す相分離・秩序構造形成過程の三次元解析: 相分離・秩序構造の共焦点レーザー顕微鏡観察から三次元像の構築に至るプログラムを開発、計算機シミュレーションの結果も含めて、相分離におけるスポンジ状構造の普遍性を実証した。

 (2)ブロック共重合体孤立鎖の空間的形態の直接観察: 原子間力顕微鏡による高分子孤立鎖の直接観察に成功した。

 (3)ブロック共重合体の秩序−無秩序転移の解明: 相分離・秩序構造形成過程が非等方的な核形成・成長過程によることを明らかにした。Brazovskii型相転移の見事な実例を提示するなど、理論家にも大きな刺激を与えた。

 (4)コロイド系の相図の作成、および相分離・秩序構造形成過程の解析: 液体・結晶相転移に伴う秩序化過程には、引力的相互作用が介在する可能性を示唆した。

 (5)高分子ゲルのミクロ構造の三次元解析: 高分子ゲルの内部構造が、共連続構造からなり、高濃度網目鎖ドメインは数百ナノメーターのミクロゲルよりなる階層構造であることを示した。

 (6)高分子と金属微粒子とのナノプロセッシングによるハイブリッド化: 相分離・秩序形成過程の制御により得た高分子のナノ構造を利用して、異種材料とのハイブリッドが可能であることを実例をもって示した。機能材料への応用の可能性を示した点、特筆に値する。

 (7)分子間相互作用の制御による相分離・秩序構造形成の規制: 2種類のブロック共重合体の混合系を用いて、高分子系に特有の分子内、分子間相互作用のバランスにより、多様なミクロ・マクロ複合相分離が起こること、さらに自己秩序化の解析、制御が可能であることを示した。

3.研究成果の科学技術への貢献

 (1)新規実験手法の開発
  共焦点レーザー顕微鏡法、顕微レオオプティックス装置、超小角X線散乱装置など。

 (2)実用化への道を開く努力
  基礎的な物理化学概念を実用化のプロセスに適用しようとした努力を評価する。

 (3)ナノプロセッシング法の開発
 微細なナノ構造体の制御とこれを利用した他材料とのナノメータ・スケールでの複合化。例えば、スーパーラメラ構造、金属微粒子とのナノハイブリッド、共連続ジャイロイド構造、共連続ナノチャンネル膜など。

 (4)物理学、計算機科学への問題提起
 ・相転移に関する新しい発見:共連続相の存在、熱揺動誘起相転移、ミクロ・マクロ相分離の競合など。
 ・コンピュータ技術:顕微鏡情報の3次元表示、曲率分布解析ソフトの開発。

4.その他の波及効果

 (1)各種シミュレーション手法の開発:ソフトマターの結晶学とも云うべき新しい研究分野を開いた。
 
 (2)その他一般学術への貢献:橋本らは本研究を通じて、複雑系の物理に興味を持つ研究者に、研究対象として高分子系物質は比較的扱い易く、しかも十分複雑で、動的性質の時間スケールも観察に手頃なサンプルであることを示した。

5.その他の特記事項

 本プロジェクトの事後評価は、化学、物理、理論、産業分野から選ばれた4人の委員によって独立に行われた。それぞれの専門によってやや視点は異なっているが、いずれも高い評価を与えている。個々の評価を上にまとめて述べたが,以下に各評価者の個別の感想を記す。

 (1)本プロジェクト研究はソフトマターを材料にした実験的研究に新たな局面を開いた。未解決問題の多いガラス状態の研究との関連を示唆するなど、凝縮系物理学へのインパクトが非常に大きい(評価者A)。

 (2)本プロジェクト研究の進捗状況は、口頭発表、学術誌を通して報告され、その都度世界に大きなインパクトを与えてきた(評価者B)

 (3)本プロジェクト研究で見い出された技術の目を実用化に結び付けるべく、新たなプロジェクトを起こすことを期待する(評価者C)。

 (4)21世紀には生物機能の分子論的研究が大きく進むと考えられるが、生体系で高分子の果たしている役割は極めて多様であり、この関わりにおいても、本プロジェクトの目標であった複雑液体系の相転移に関する理解はさらに深められなければならない。より幅の広い共同研究の展開が望まれる(評価者D)。

 (5)いろいろな形で本プロジェクトに参加した若手研究者が、研究終了後、その結果、経験を踏まえて新しい任地に散って行くことは、研究のフロンティアを広げることにもなり、大きな波及効果の一つとなろう(評価者全員)。


This page updated on December 8, 1999

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