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平成31年1月11日

東京大学
科学技術振興機構(JST)
内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

世界で最も精巧な頭部3次元CGデータを開発

~脳神経外科医の解剖学的知識を可視化~

ポイント

東京大学 医学部附属病院 脳神経外科の齊藤 延人 教授と金 太一 助教らの研究グループは、最先端のコンピューターグラフィックス技術を用い、ヒトの頭部の解剖学的構造を精巧に再現した3次元コンピューターグラフィックス(3DCG注1))モデルを開発し(図1)、このたびその無償提供を開始しました。

本3DCGモデルは、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」(プログラム・マネージャー:原田 香奈子)の研究の一環として開発されたもので、バイオニックヒューマノイド注2)の基礎設計図となっています。

人体の高精細な3DCG作成には、高度なCG技術と医学的知識、そして高い開発費を要するため、その開発は困難でした。本研究グループは、最先端のコンピューターグラフィックス技術と脳神経外科医の知見を集約し、医療の現場に必要な解剖情報を3DCGとして作製しました。

今回開発した頭部3DCGモデルは1,000パーツ以上に及び、世界で最も精巧なものです。このたび専用のホームページ(https://brain-3dcg.org)(図2)を開設し、全てのパーツを無償で提供しています。

ダウンロードした3DCGモデルは、非商用で、かつ研究もしくは教育用途であれば自由に使用できます。本3DCGパーツは、いくつもの研究機関で開発に利用されるなど、その拡張性は高く、さまざまな分野で活躍することが見込まれます。世界最高レベルの精巧な頭部3DCGを普及させることによって、医療や教育、研究開発など広い分野への貢献が期待されます。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

齊藤 延人 教授

金 太一 助教

プログラム・マネージャー 原田 香奈子
研究開発プログラム バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命
研究開発課題 バイオニックヒューマノイド頭部モデルを対象とした評価システムの開発
研究開発責任者 齊藤 延人
研究期間 平成27年度~平成30年度

本研究開発課題では、臨床データをもとに、脳神経外科領域における手術戦略や手技を構造化し、要素間の関係を整理してプログラム全体の研究開発へフィードバックします。そのための補助ツールとして、仮想空間上における脳の超高精細医用シミュレーターの開発に取り組んでいます。

<原田 香奈子 プログラム・マネージャーのコメント>

PM

本プログラムでは、センサーを内蔵した精巧な人体モデル「バイオニックヒューマノイド」を使って感覚的な表現を定量的に理解し、試行錯誤をなくすことで、技術シーズを早く社会に届けることを提案しています。今回の成果は、特に脳神経外科手術用バイオニックヒューマノイドに必要な頭部の解剖構造の3Dデータ化に成功したものです。世界で最も高精細なこの頭部解剖構造を無償提供することにより、医療現場だけでなくさまざまな教育・研究開発分野への大きな貢献が期待されます。

<研究の背景>

本研究は、ImPACTプログラム「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」の一環として実施されました。同プログラムでは、高感度センサーを内蔵した精巧な人体モデル「バイオニックヒューマノイド」を開発し、ヒトや実験動物の代替とすることで革新的技術の定量的な評価、ひいては同技術の早期社会実装の実現を目指しています。今回の成果物である「東京大学脳神経外科頭部3DCGモデル」は「バイオニックヒューマノイド」の“設計図”としての役割を担っています。

「バイオニックヒューマノイド」の実現には、人体の形状情報を3次元のデータとして再現することが重要な要素の1つとして挙げられます。正確かつ精密な形状データの実現には、高度なグラフィック技術と深い解剖学的知識はもちろん、臨床医療の観点からみた正確性と有用性を見据える必要があります。しかしながら、現在市場に流通している人体の形状データは、特に頭部においてその正確性および精密性に課題がありました。また、精巧な3DCGモデルはコストの面からも開発もしくは入手することが困難であり、教育や研究の分野では比較的単純なモデルを使用することが多いため、研究の発展、事業化、医療および教育への応用などの面で課題となっています。このため、「バイオニックヒューマノイド」の研究開発のみでなく、医学教育や脳神経外科手術の医療現場においても、複雑な脳の微細組織を3次元的かつ高精細に視覚化する必要がありました。

<開発内容>

本研究は、東京大学 医学部附属病院 脳神経外科の齊藤 延人 教授と金 太一 助教らの研究グループにより実施されました。今回の成果物である「東京大学脳神経外科頭部3DCGモデル」は、市場に流通する人体形状データや医用画像には描写されないような微細な組織を中心に、最先端のコンピューターグラフィックス技術を用いて開発しました(図3)。例えば、三叉神経は顔面の感覚をつかさどる重要な脳神経の1つですが、図3左のように通常の医用画像ではその一部しか確認できません。これに対し本研究で開発した3DCGモデルでは、図3右のように三叉神経末梢部の詳細な構造のみでなく、多くの複雑な微細な血管組織まで再現しています。このような正確な情報を医師が認識することにより、安全に手術を行うことができます。

またこのたび、開発した3DCGモデルの無償提供を開始しました。

本3DCGモデルには、以下のような特徴があります。

<社会的意義>

質の良いデータは現代社会において最も重要な資源の1つです。今回のような精巧な3DCGモデルは、高度なコンピューターグラフィックス技術と医学的知識、および高い開発費を要するため、容易に開発もしくは入手できるものではありませんでした。開発した3DCGモデルを社会へ広く還元することによって、医学的知識の普及、医学教育や研究開発の促進、ひいては医療の質向上が見込まれます。

<その他>

本3DCGモデルは、「東京大学脳神経外科頭部3DCGデータベース」ホームページ(https://brain-3dcg.org)へアクセスし、利用規約に同意すれば全ての3DCGモデルを無償でダウンロードすることができます。非商用で、かつ研究もしくは教育用途であればそのまま使用していただくことはもちろん、編集・加工も自由です。医学講義や解剖学実習での活用、研究開発での活用、論文や著書などへの添付、スナップショットをウェブに公開するなど、当ホームページに記載されている規約を守っていただく限り自由に使用することができます。商用使用を目的とする場合や判断に迷われた場合には、お問い合わせください。

<参考図>

図1

図1 「東京大学脳神経外科頭部3DCGデータベース」からダウンロード可能な3DCGの例

図2

図2 「東京大学脳神経外科頭部3DCGデータベース」のホームページ
https://brain-3dcg.org

規約を守り会員登録すれば、全ての3DCGがダウンロードできる。

図3

図3 医用画像と今回開発した3DCGとの比較

上の2つの画像は脳幹の前面で、部位と向きは同じ。三叉神経の末梢部(矢印)、界面静脈洞や脳底静脈叢(青色の血管)を始め、多くの組織は医用画像では確認できない。

<用語解説>

注1)3DCG
3次元コンピューターグラフィックスの略。コンピューター内の3次元空間で表示される仮想モデルのこと。
注2)バイオニックヒューマノイド
ヒトや実験動物の代わりとなる、センサー付きの精巧な人体モデルのこと。内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」(プログラム・マネージャー:原田 香奈子)で開発している。
注3)STLフォーマット
3DCGモデルの代表的なフォーマットの1種。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

金 太一(キン タイチ)
東京大学 医学部附属病院 脳神経外科 助教
Tel:03-5800-8853
E-mail:

<ImPACTの事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
Tel:03-6257-1339

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
Tel:03-6380-9012 Fax:03-6380-8263
E-mail:

<報道担当>

東京大学 医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター
担当:渡部、小岩井
Tel:03-5800-9188
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail: