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平成30年12月17日

自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター
自然科学研究機構 国立天文台
東京大学 大学院理学系研究科
科学技術振興機構(JST)

第二の地球を発見するための新しい多色同時撮像カメラMuSCAT2が完成

ポイント

自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター、東京大学、科学技術振興機構、国立天文台、カナリア天体物理研究所などの研究チームは、第二の地球を発見するための新しい多色同時撮像カメラMuSCAT2を開発し、世界有数の天文観測最適地として知られるスペイン・テネリフェ島のテイデ観測所にある1.52m望遠鏡(カルロス・サンチェス望遠鏡)に設置しました。

MuSCAT2は、2018年4月に打ち上げられたNASAのトランジット注1)惑星探索衛星TESS注2)で発見された惑星候補が、本物の惑星かどうかを確認することを主目的とした観測装置です。研究チームはこの装置の性能を評価するため、実際に既知の惑星のトランジットを観測し、最新の統計手法を取り入れた解析を行いました。その結果、MuSCAT2が世界最高レベルの測光精度(明るさの変化を調べる精度)を4色同時に達成できることを実証しました。この測光精度は、TESSで発見された太陽系近傍の赤色矮星注3)を公転する第二の地球たち(生命居住可能惑星)の発見確認を行うことも可能な精度です。

さらに、アストロバイオロジーセンターとカナリア天体物理研究所の間で締結された協定により、2022年まで年間162夜以上のMuSCAT2の観測時間が確保されました。テイデ観測所の晴天率は7割程度であり、これは年間100個以上の惑星の発見確認観測が実施できることに相当します。これから始まるTESSの時代に、MuSCAT2によって科学的に面白い惑星たちが数多く発見されることにご期待ください。

本研究成果は、2018年12月17日に米国科学雑誌「Journal of Astronomical Telescopes, Instruments, and Systems」で公開される予定です。

本研究は、JSPS 科研費JP18H01265、JP17H04574、JP16K13791、JP15H02063の助成と、JST さきがけJPMJPR1775の支援を受けたものです。

<研究の背景>

2018年までに、約4,000個もの系外惑星が太陽以外の恒星に発見されています。特に2009年に打ち上げられたNASAのトランジット惑星探索衛星ケプラーは、2018年11月に運用が終了するまでに、惑星が主星の前を通り過ぎる「トランジット」という現象を用いて、約3,000個もの系外惑星を発見してきました。

ケプラーの活躍により、宇宙には地球に近いサイズの惑星たちが豊富に存在することが分かり、主星からの距離がちょうどよく表面に液体の水が保持されるような生命居住可能領域にある惑星も発見されてきました。しかし、ケプラーが主に発見したのは太陽系から数百光年以上離れた惑星系たちで、惑星が存在することや全体としての統計的な性質は分かっても、個々の惑星の性質を詳しく調べるのは困難でした。

そこで、より太陽系に距離が近い惑星系たちを発見するために、新たなトランジット惑星探索衛星TESSが2018年4月に打ち上げられました。TESSは24°×24°という非常に視野の広いカメラを4台搭載した衛星で、今後2年間で全天の80%以上の領域を観測し、太陽系に近い惑星系を数千個発見すると見込まれています。その中には地球型惑星と考えられる惑星が数百個含まれ、生命居住可能領域にある惑星も数十個あると期待されています。

しかし、トランジット法で発見される惑星候補には本物の惑星だけではなく、恒星が別の恒星の前を通過する食連星という偽物が混じっています。そのため、これからTESSによって数千個という惑星候補が発見される中で、本物の惑星と偽物の食連星を効率的に見分けること(発見確認観測という)が研究上の課題となっていました。

<研究の内容>

自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター、東京大学、科学技術振興機構、国立天文台、カナリア天体物理研究所などの研究チームは、可視光から近赤外光にかけての4色で同時に天体の明るさの変化を観測することができる多色撮像カメラMuSCAT2を開発し、世界有数の天文観測最適地として知られるスペイン・テネリフェ島のテイデ観測所にある1.52m望遠鏡(カルロス・サンチェス望遠鏡)に設置しました(図1図2)。

MuSCAT2は、2018年4月に打ち上げられたNASAのトランジット惑星探索衛星TESSで発見された惑星候補が、本物の惑星かどうかを確認する(発見確認する)ことを主目的とした観測装置です。研究チームはこの装置の性能を評価するため、実際に既知の惑星のトランジットを観測し、最新の統計手法を取り入れた解析を行いました。その結果、MuSCAT2が世界最高レベルの測光精度(明るさの変化を調べる精度)を4色同時に達成できることを実証しました(図3)。この測光精度は、TESSで発見された太陽系近傍の赤色矮星を公転する第二の地球たち(生命居住可能惑星)の発見確認を行うことも可能な精度です。

さらに、アストロバイオロジーセンターとカナリア天体物理研究所の間で締結された協定により、2022年まで年間162夜以上の望遠鏡時間がMuSCAT2のために確保されました。テイデ観測所の晴天率は7割程度であり、これは年間100個以上の惑星の発見確認観測が実施できることに相当します。これにより、これから始まるTESSの時代に、MuSCAT2によって第二の地球たちを始めとする科学的に面白い惑星たちが数多く発見されることに期待が持てます。

<研究の意義>

TESSは2018年現在南天の観測を実施していますが、2019年夏頃からは北天の観測を開始します。MuSCAT2の完成により、本研究チームはTESSの北天の観測で発見される惑星候補の発見確認観測で世界をリードすることが可能となりました。

本研究チームは、以前にも国立天文台が岡山県に所有する1.88m望遠鏡向けに3色同時撮像カメラMuSCATを開発してきました(http://www.oao.nao.ac.jp/2015/01/05/muscat/)。岡山とテネリフェ島は時差が9時間あり、このように時差がある場所に観測装置を設置することで、お互いが観測できない時間帯に起こるトランジットを相補的に観測することが可能になります。また、トランジットが長時間にわたって1ヵ所では観測できない場合にも、岡山とテネリフェ島で連続的に観測をすることで長時間のトランジットをカバーすることが可能となります。

このように世界に複数の多色撮像カメラを持つ研究チームは他にないため、大量の発見確認観測が必要となるTESSの時代にMuSCATとMuSCAT2の存在は大きなアドバンテージになると期待されます。

<今後の展開>

本研究チームは、2019年夏頃までに24時間常に多色撮像観測ができる体制を確立することを目指して、アメリカの望遠鏡向けにMuSCAT3の開発に着手しています。MuSCAT3が完成すれば、どんな周期の惑星であっても3台の観測装置の連携で発見確認観測を実施できるようになります。

これにより2019年夏頃から始まるTESSの北天の観測で世界をリードし、特に第二の地球候補の発見確認観測を一手に担うことを目指しています。TESS時代のMuSCATシリーズの大きな活躍にご期待ください。

<参考図>

図1 カナリア天体物理研究所のテイデ観測所

図1 カナリア天体物理研究所のテイデ観測所

スペイン、カナリア諸島テネリフェ島にある1.52mカルロス・サンチェス望遠鏡のドーム。右奥に見えるのはスペインの最高峰テイデ山。

図2 MuSCAT2のファーストライト(初めて観測装置に天体の光を通すこと)の写真

図2 MuSCAT2のファーストライト(初めて観測装置に天体の光を通すこと)の写真

この観測装置は日本とスペインの研究者の国際共同研究によって完成しました。

図3 既知のトランジット惑星であるWASP-12bのトランジットをMuSCAT2で観測したデータ

図3 既知のトランジット惑星であるWASP-12bのトランジットをMuSCAT2で観測したデータ

各パネルは左上(青)、右上(緑)、左下(橙)、右下(赤)の順に400-550nm(天文学の呼び方でgバンド)、550-700nm(rバンド)、700-820nm(iバンド)、820-920nm(zバンド)で観測した主星WASP-12の明るさの変化。横軸は天文学で使われるユリウス日(具体的には2018年1月25日の夜)での時刻。横軸の目盛りの0.43から0.55にかけて明るさが減っている(減光している)のが惑星のトランジットです。各バンドの黒線は、ガウス過程という統計手法を取り入れて推定した惑星のトランジットと系統的変動(天体の高度や検出器上での位置の変化に起因する変動)のモデル。見やすさのためモデルはデータから0.02だけ下にずらして表示しています。その下にプロットされているのはデータとモデルの残差。各パネルの右上部に、1分あたりの残差の二乗平均平方根(達成できた1分あたりの測光精度に相当する)を記載しています。

<用語解説>

注1)トランジット
惑星が恒星の前を通ることで、恒星の明るさが周期的に暗くなる現象。明るさの変化を長期的に観測することで惑星を見つける方法をトランジット法、トランジットをする惑星をトランジット惑星と呼びます。
注2)TESS
2018年4月18日に打ち上げられたNASAのトランジット惑星探索衛星。2009年に打ち上げられた同様の衛星ケプラーに比べて口径は小さいものの、より広い観測視野を持ち、ケプラーより太陽系に近いところにあるトランジット惑星を発見するのに適しています。一方で、ケプラーより広い視野を持つために偽物である食連星の混入も多くなると見込まれ、発見確認観測が欠かせません。
注3)赤色矮星
絶対温度がおよそ3,800K以下の恒星の総称。約5,800Kである太陽と比べて表面温度が低く、私たちの目に見える可視光では暗いものの、近赤外線になると明るくなるという特徴があります。太陽系の近傍にある恒星も含めて、宇宙にある恒星の7-8割は赤色矮星であり、今後の太陽系近傍の生命居住可能惑星探索の主要なターゲットとなっています。

<論文情報>

タイトル MuSCAT2: 4-color Simultaneous Camera for the 1.52m Telescopio Carlos Sanchez
著者名 Norio Narita, Akihiko Fukui, Nobuhiko Kusakabe, Noriharu Watanabe, Enric Palle, Hannu Parviainen, Pilar Montanes-Rodriguez, Felipe Murgas, Matteo Monelli, Marta Aguiar, Jorge Andres Perez Prieto, Alex Oscoz, Jerome de Leon, Mayuko Mori, Motohide Tamura, Tomoyasu Yamamuro, Victor J. S. Bejar, Nicolas Crouzet, Diego Hidalgo, Peter Klagyivik, Rafael Luque, Taku Nishiumi

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

成田 憲保(ナリタ ノリオ)
東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻 助教
科学技術振興機構 さきがけ研究者(兼任)
Tel:03-5841-1032
E-mail:

福井 暁彦(フクイ アキヒコ)
東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 特任助教
E-mail:

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
Tel:03-3512-3525
E-mail:

<報道担当>

日下部 展彦(クサカベ ノブヒコ)
自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター
Tel:0422-34-4066(アストロバイオロジーセンター)
E-mail:

東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室
Tel:03-5841-0654
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404
E-mail:

(英文)“MuSCAT2 to find Earth-like habitable planets in the TESS era”(外部サイト)