ポイント
- 地球上に豊富に存在する元素(炭素、窒素、鉄)から成る新しい光触媒を開発。
- 太陽光をエネルギー源としてCO2を有用な炭素資源に変換。
- 貴金属や稀少金属を用いた従来の光触媒と同等の性能を実現。
東京工業大学 理学院 化学系の石谷 治 教授、前田 和彦 准教授、栗木 亮 大学院生/日本学術振興会 特別研究員らは、フランス パリ第7大学のマーク・ロバート 教授らの研究グループと共同で、JST 戦略的創造研究推進事業 CRESTの国際強化支援のもと、有機半導体材料と鉄錯体から成る光触媒注1)に可視光を照射すると、二酸化炭素(CO2)が有用な一酸化炭素(CO)注2)へ選択的に還元されることを発見した。
これまで開発されてきた高効率CO2還元光触媒は、ルテニウムやレニウムといった貴金属注3)や稀少金属を用いたものがほとんどだったが、今回開発した光触媒は、これらの金属を全く使わずに、ほぼ同等の光触媒性能を示すことがわかった。
本成果により、卑金属注4)や有機半導体材料だけを用いた光触媒でも、太陽光をエネルギー源として、地球温暖化の主因であるCO2を有用な炭素資源へと変換できることが明らかになった。
研究成果は2018年6月12日(日本時間)、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」に速報として掲載された。
この国際共同研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「新機能創出を目指した分子技術の構築」に加え、日本側での研究の一部は、科学研究費助成事業(若手研究(A)、新学術領域計画研究「複合アニオン」など)により支援されました。
<研究成果>
石谷教授らは、炭素と窒素から構成される有機半導体カーボンナイトライド注5)を鉄錯体と組み合わせて光触媒として用いることで、二酸化炭素(CO2)を一酸化炭素(CO)へと高効率に還元できることを見いだした(図)。この光触媒反応は、太陽光の波長帯でも主成分である可視光を照射することで進行する。カーボンナイトライドが可視光を吸収し、還元剤から触媒である鉄錯体への電子の移動を駆動する。その電子を用いて鉄錯体はCO2をCOへと還元する。性能の指標となるCO生成におけるターンオーバー数注6)、外部量子収率注7)、CO2還元の選択率注8)は、それぞれ155、4.2パーセント、99パーセントに達した。これらの値は、貴金属や稀少金属錯体を用いた場合とほぼ同程度であり、すでに報告されている卑金属や有機分子を用いた光触媒と比べて10倍以上高かった。
<背景>
近年、金属錯体や半導体を光触媒として用いてCO2を還元資源化する技術の開発が世界中で行われている。“人工光合成”と呼ばれるこの技術が実用化されれば、地球温暖化の主因とされ、悪者扱いされているCO2を、太陽光をエネルギー源にして有用な炭素資源へと変換できるようになる。
これまでに報告されている高い活性を示す光触媒には、ルテニウムやレニウム、タンタルなどの貴金属や稀少金属を含む錯体や無機半導体が用いられてきた。しかしながら、莫大なCO2量を考えると、地球上に多量に存在する元素だけで構成される新たな光触媒を構築する必要があった。
<研究の経緯>
石谷教授らは、JST(科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業 CREST「新機能創出を目指した分子技術の構築」における支援を得て、この課題に挑戦すべく、パリ第7大学のマーク・ロバート 教授の研究グループと共同研究を行った。その結果、有機半導体であるカーボンナイトライドを、鉄と有機物で構成される錯体とを融合して光触媒として用いることで、可視光の照射かつ常温常圧という条件でCO2を高効率に資源化することに成功した。
本成果により、卑金属や有機半導体材料だけを用いた光触媒でも、太陽光を有効に活用し、地球温暖化の主因であるCO2を有用な炭素資源へと高効率に変換できることが明らかになった。
<今後の展開>
今回の研究から、炭素、窒素、鉄といった地球上に多量に存在する材料群を用いても、太陽光をエネルギー源としたCO2還元資源化を高効率に達成できることを初めて実証した。今後は、光触媒としての機能をさらに向上させるとともに、地球上に多量に存在し安価な水を還元剤として用いることのできる酸化光触媒との融合を達成することが課題となる。
<参考図>
図 カーボンナイトライドと鉄錯体を組み合わせた光触媒によるCO2還元反応
<用語解説>
- 注1)光触媒
- 光を吸収することで、反応を触媒的に進行させる分子もしくは物質のこと。
- 注2)一酸化炭素
- 分子式はCO。フィッシャー・トロプシュー反応などにより炭化水素を合成できるため、有用な炭素資源として注目を集める。
- 注3)貴金属
- 8種の高価な金属、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)。
- 注4)卑金属
- 貴金属ではない金属のこと。
- 注5)カーボンナイトライド
- 炭素と窒素だけで構成された有機半導体。構造は図に示されている。
- 注6)ターンオーバー数
- 触媒反応の活性点が何回機能したかを表す指標。例えば活性点が100個あり生成物が10,000個得られた場合、ターンオーバー数は100となる。
- 注7)外部量子収率
- 照射した光の量に対する反応に用いることができた光の量の割合。例えば、10,000個の光子を照射して、そのうち100個の光子が反応に関与した場合、外部量子収率は1パーセントとなる。
- 注8)選択率
- 化学反応における全ての生成物量に対する目的生成物量の割合。
<論文情報>
タイトル |
“A carbon nitride/Fe quaterpyridine catalytic system for photo-stimulated CO2-to-CO conversion with visible light” |
doi |
10.1021/jacs.8b04007 |
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
石谷 治(イシタニ オサム)
東京工業大学 理学院 化学系 教授
Tel:03-5734-2240 Fax:03-5734-2284
E-mail:
<JST事業に関すること>
中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:
<報道担当>
東京工業大学 広報・社会連携本部 広報・地域連携部門
Tel:03-5734-2975 Fax:03-5734-3661
E-mail:
科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail: