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平成29年12月14日

科学技術振興機構(JST)
TANAKAホールディングス株式会社

銀ナノインク印刷技術により曲がるタッチパネルを実現

(産学共同実用化開発事業(NexTEP)の成果)

ポイント

JST(理事長 濵口 道成)は、産学共同実用化開発事業(NexTEP)の開発課題「金属細線を用いたタッチパネル用センサフィルム注1)」の開発結果を成功と認定しました。

この開発課題は、産業技術総合研究所フレキシブルエレクトロニクス研究センター 長谷川 達生 総括研究主幹らの研究成果をもとに、平成26年4月から平成29年9月にかけて田中貴金属工業株式会社(代表取締役社長執行役員 田苗 明、本社住所 東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルディング、資本金5億円)に委託して、同社新事業カンパニーにて企業化開発を進めていたものです。

現在主流の静電容量方式タッチパネル注2)では、センサにITO(インジウム-スズ酸化物)が使用されています。しかしこれは電気抵抗値が高く、曲げに弱いため、大型化や曲面化ができない問題がありました。メタルメッシュ注3)(MM)はこれらの問題をクリアしますが、4μm以下の細線化は難しく、またこれを印刷で製造する技術はありませんでした。

特殊な銀インクと活性化されたフッ素樹脂表面との吸着反応により配線形成する新技術(SuPR-NaP法注4))を、実用的な製造速度に適応させるため、反応機構の解明、製造装置の開発、各工程の条件検討を行いました。その結果、全工程ロールtoロール方式注5)でMMフィルム(線幅2~4μm)を製造するシステムが完成しました。このMMフィルムは20万回(半径2mm)の折り曲げ試験において抵抗値の変化はほとんど無く、一般的な信頼性試験もクリアしております。

世界で初めて微細配線フィルムを全工程ロールtoロール方式により製造可能にした本成果は、フレキシブル電子デバイス市場に向けた、プリンテッドエレクトロニクスの重要な技術革新と言えます。また、樹脂フィルム上に金属パターンが必要なアプリケーション(抗菌・触媒・遮熱等の機能フィルム)においても応用、利用が期待されます。

<背景>

社会の情報化の進展と共に、様々な場所、時間、状況において情報へのアクセスが必要になっており、ディスプレイと一体になったタッチパネルは、スマートフォンから大型ディスプレイまで多く利用されています。

また、ディスプレイは平面形状だけではなく、3次元曲面や曲がるディスプレイが発表されており、これらに対応できるタッチセンサが求められています。現在のタッチセンサはITO(インジウム―スズ酸化物)を使った透明電極が主として使われていますが、これは曲げに弱く、抵抗値が高いといった物性的問題から、フレキシブル化、大画面化への対応は限界があるとされています。この問題を解決する材料として、金属細線を電極にするメタルメッシュ(MM)が注目されております。しかし、現状のMMの配線幅は太いため、近距離で使用するスマートフォンの場合、配線見えの問題があります。そのため、大型ディスプレイ用途でしか普及には至っていません。

<開発内容>

今回の新印刷技術では、撥液性のフッ素樹脂が塗布されたフィルムに、フォトマスクを介してパターン露光し、そこに金属インクを挿引することで、配線を形成します。これは光により活性化されたフッ素樹脂表面に金属ナノ粒子が化学吸着されることで、一定膜厚の金属配線が形成される技術です。

スマートフォンでも使用可能な微細配線を有するMMフィルムを低コストで製造可能にするために下記の開発を進め、従来方式に無いロールtoロール生産システムを構築しました。

<期待される効果>

本成果により、3次元曲面のディスプレイや屈曲可能なディスプレイ等にも利用可能な高機能タッチパネル用センサフィルムを低コストで製造することができます。

微細配線フィルムを全工程ロールtoロール方式により製造可能にした本成果は世界初であり、フレキシブル電子デバイス市場に向けた、プリンテッドエレクトロニクスの重要な技術革新と言えます。OLED注6)ディスプレイやIoTデバイスの配線や電極などのエレクトロニクス分野はもちろんのこと、それ以外の抗菌フィルム・触媒用途・遮熱フィルム等の機能フィルム製造においても応用、利用が期待されます。

<参考図>

図1 新技術(SuPR-NaP法)による製造工程および印刷の反応機構

図1 新技術(SuPR-NaP法)による製造工程および印刷の反応機構

  • 1) フッ素樹脂塗工:銀インクを弾くことが可能なフッ素樹脂を基材(PETフィルム)にコートする。
  • 2) 露光:フッ素樹脂表面にVUV注7)光を照射するとカルボキシ基が形成する。この特性を利用して、フォトマスクのパターン通りにカルボキシ基をフィルム上に形成する。
  • 3) 銀ナノ粒子の印刷:露光後のフィルムに銀インクをコートすると、銀ナノ粒子はカルボキシ基のみに化学吸着する。余剰の銀インクはコーター(滴下した液体をブレードで塗り広げ余剰液を掻き落とす装置)で除去される。銀インク中で銀ナノ粒子の凝集を抑制していたアルキルアミンは熱処理により銀表面から完全に脱離し、銀ナノ粒子同士が融着する。これにより一定の厚みを持った銀配線が形成される。
図2 メタルメッシュによる静電容量型タッチパネルの構造

図2 メタルメッシュによる静電容量型タッチパネルの構造

指をタッチパネルに近づけたとき、縦方向、横方向のセンサ配線と指の間に形成される静電容量を検出して、指の位置座標を特定する。複数点の同時検出も可能。本技術では、このセンサ配線にメタルメッシュが使用される。通常はITOが使用される。

表1 試作したタッチセンサフィルムの仕様

ディスプレイサイズ 8インチ
メッシュ部分の(線幅/間隔) 2/300μm
額縁部分の(線幅/間隔) 50/100μm
図3 8インチのディスプレイに対応したセンサフィルムの外観とメッシュ配線の顕微鏡写真

図3 8インチのディスプレイに対応したセンサフィルムの外観とメッシュ配線の顕微鏡写真

メッシュ配線幅は2~3μmとなっており、肉眼では確認することが困難。

図4 タッチセンサモジュールの外観

図4 タッチセンサモジュールの外観

RxフィルムとTxフィルムそれぞれにFPC注8)ケーブルを取り付けた後、これらを透明接着シートで貼り合わせて作製したもの。

図5 タッチパネルの動作確認

図5 タッチパネルの動作確認

指でタッチパネルを操作し、図に示す通り、線が途切れ無いことを確認した。

図6 5点同時タッチの様子

図6 5点同時タッチの様子

図7 ロールtoロール方式で連続製造されたセンサフィルム(7インチパターン)

図7 ロールtoロール方式で連続製造されたセンサフィルム(7インチパターン)

<用語解説>

注1) タッチパネル用センサフィルム
図2に示すようにメッシュ配線を短冊状に形成したフィルム。短冊状の各メッシュ配線は外周部の額縁配線とそれぞれ繋がっており、図4に示すように額縁配線はFPCケーブルが繋げられる。
注2) 静電容量方式タッチパネル
静電容量方式のタッチパネルは、図2に示すように、2枚のセンサフィルムと透明接着シートが重ねて貼り合わせられた層状の構造になっている。2つのセンサには電圧がかけられているため、センサフィルム間に存在する透明接着層が誘電体として静電容量を持つ。タッチ位置のセンシングは、指の接近や接触によって生じる微小な静電容量の変化を座標として検出することで行われる。複数点の同時検出も可能となっている。原理は単純だが、意図せぬタッチや、ノイズ、温度ドリフト等を排除するために、配線パターン形状やコントローラICの検出アルゴリズムが工夫されている。
注3) メタルメッシュ
センサ配線をITO膜ではなく、銀や銅の配線で構成する方式。μmレベルの配線の形成においてフォトリソグラフィー技術を使用するため低価格化が困難と言われていた。
注4) SuPR-NaP法
撥液性のフッ素樹脂を塗布した基板において、深紫外光で改質された部分に対して特殊な銀ナノインクが反応して銀ナノ粒子が化学吸着され、さらに銀粒子同士が融着して配線を形成する技術。
注5) 全工程ロールtoロール方式
製造プロセスを全てロールtoロール化(ロール状に巻いたフィルム基板に、回路を印刷形成し、ロールに巻き取るようにしながら生産すること。電子デバイスを効率的に生産できる)すること。
注6) OLED(Organic Light Emitting Diode)
有機ELダイオード。ある種の有機化合物に電圧をかけると発光する現象を利用したデバイス。照明やディスプレイでの利用が拡大している。
注7) VUV(Vacuum Ultra Violet)
真空紫外光のことで波長の短い10-200nm付近の領域の光を真空雰囲気で使用したもの。 200nm以下の波長をもつ光は空気中の酸素等に吸収される為、使用する際は光路を真空にする必要がある。
注8) FPC(Flexible Printed Circuit)
一般的にポリイミドフィルム等の薄い絶縁材料を基材にした配線ケーブル。

<お問い合わせ先>

<開発内容に関すること>

田中貴金属工業株式会社 新事業カンパニー 技術開発統括部 化学材料開発部 部長
〒300-4247 茨城県つくば市和台22
榎本 貴男(エノモト タカオ)
Tel:029-864-8175
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

科学技術振興機構 産学共同開発部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
大竹 利也(オオタケ トシヤ)、関谷 亮英(セキヤ アキヒデ)
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-0017
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

TANAKAホールディングス株式会社 広報・広告部
〒100-6422 東京都千代田区丸の内2-7-3東京ビルディング22F
Tel:03-6311-5590
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