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平成29年8月28日

株式会社メガオプト
科学技術振興機構(JST)
内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

超小型波長可変パルスレーザーの開発に成功

ポイント

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」(プログラム・マネージャー:八木 隆行)の一環として、株式会社メガオプトの研究開発グループは、媒質にチタンサファイアを用いた、超小型の波長可変パルスレーザーの開発に成功しました。

光超音波イメージング法注1)を用いて、血液における酸素飽和度注2)のリアルタイム3D画像を得るためには、波長可変レーザー注3)として、血液中の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンが吸収する2つの波長を出力できること、さらに光が生体の深いとこまで届くように大出力パルスエネルギー(~100mJ/パルス)であること、体が動いても酸素飽和度の画像が得られるように2つの波長を高速で切替え(20Hz以上)できること、が必要です。

1台のパルスレーザーで大出力パルスエネルギー(~100mJ/パルス)、かつパルスごとに異なる波長を高速で出力することは、実験室レベルの大型レーザーでは可能でしたが、選択した波長を取り出すために必要なプリズムや回折格子などの波長フィルター注4)を使用しており、かつ高出力による損傷に耐えられるように大型で複雑な光学系となるため、小型化が困難でした。このため、既存の波長可変レーザーで20Hz以上の高速で波長を切替えるには、2台の波長可変パルスレーザーが必要でした。

今回開発に成功した超小型波長可変パルスレーザーは、特定波長のみを発振させるレーザー共振器注5)を波長ごとに並べることにより、小型化に成功しました。この共振器は、長さわずか数cmであり、まったく新しいレーザー共振器の構造となります。複雑な光学系は必要なく、励起レーザー注6)の光路を切替え、それぞれ波長の共振器に入射するだけでよく、2波長を高速で発振することが可能となりました。

本成果は、2017年8月31日より東京ビッグサイトで開催される「JSTフェア2017」のImPACTブースで展示する予定です。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
URL:http://www.jst.go.jp/impact/

プログラム・マネージャー 八木 隆行
研究開発プログラム イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出
研究開発課題 波長可変レーザーの小型化技術の開発及び実用化技術の開発
研究開発機関 株式会社メガオプト
研究期間 平成27年5月~平成31年3月

本研究開発課題では、可視化対象物の特性にあった波長を発生する高出力波長可変レーザーの開発に取り組んでいます。

<八木 隆行 プログラム・マネージャーのコメント>

八木 隆行 プログラム・マネージャー

本プログラムでは、レーザー照射により発生する超音波を検出する光超音波法を高度化し、非侵襲で生体の血管網と血液状態(酸素飽和度)をリアルタイムに3Dイメージングする技術を開発し、早期診断や美容・健康に関わる身体機能モニタリングの実現を目指しています。さらに、工業材料中の劣化や亀裂などを可視化し、非破壊計測への展開を進めています。

今回、株式会社メガオプトは、高速に2波長を交互に照射できる、世界最小サイズの大出力波長可変レーザーの開発に成功しました。

光超音波イメージング法により、生体内の深部の血管から超音波を発生するには高出力で、かつ2波長のレーザー光を交互に照射するレーザーが必要です。これまで酸素飽和度をイメージングするには、高出力の大型レーザーを2台準備する必要がありました。

株式会社メガオプトは、1台で2つの波長を高速に出力する小型波長可変レーザーを開発しました。これにより、光超音波の特徴の一つである酸素飽和度イメージングの研究から、実用化への道を拓くことができました。

<研究の背景と経緯>

ImPACT 八木 隆行 プログラム・マネージャーの研究開発プログラムでは、光超音波技術をベースにした人体の血管網と血液状態(酸素飽和度)の可視化を行う高解像度リアルタイム三次元可視化システムおよびその応用に関する研究開発を行っています。

このシステムに供するレーザーとして、血管網と酸素飽和度をリアルタイム計測するために、2波長の短パルスレーザーを交互に出力する必要があります。さらに、このような装置の実用化のためには、レーザー装置そのものの小型化と低コスト化が必須です。

<研究の内容>

株式会社メガオプトは、上述の課題を解決するため、超小型波長可変レーザー、および超小型波長可変レーザーの特長を活かした励起レーザーの技術開発を行ってきました。

【波長可変レーザー技術】

波長可変レーザーは、生体組織や物質の光吸収帯に合致した波長を出力することができます。今回のイメージング対象は、血管網と血液酸素飽和度です。この波長域を発生可能なレーザー媒質に、チタンサファイアレーザー注7)があります。本開発では、波長可変パルスレーザーのレーザー共振器の媒質にチタンサファイアを用いて、血管網と血液酸素飽和度の光吸収帯に合った2つの波長を発生する波長可変レーザーの小型化の開発を行いました。

従来の波長可変レーザーのレーザー共振器では、共振器内の波長フィルターの波長幅が数十nm(ナノメートル)と広く、広帯域の利得から高純度な波長を得るためにシングルモード発振注8)が常識でした。このため、共振器内の光路を数十cm程度に十分長くする必要がありました。また、シングルモード発振の場合、共振器で出力エネルギーが制限され、高出力化するには共振器を複数設け増幅することも必要でした。

今回の目的のように、あらかじめ必要な波長がわかっている場合、そのレーザー共振器は、必要な波長だけで共振できれば良いことは自明です。そこで、最新の光学技術を用いて、単一波長だけを広帯域利得にフィードバックする共振器を考案しました。このレーザー共振器はマルチモード発振によっても不要な波長をフィードバックすることがありません。マルチモード発振は短共振器および大口径出力で得られるので、わずか数cm程度の長さの高出力のレーザー共振器が実現できました。

今回のように、2つの波長出力が要求される場合には、小型のレーザー共振器2台を並列し、1台の励起レーザー光を切り替えて導光することで、2波長交互に出力する小型のレーザー共振器となります。新原理検証として図1に示す756nm、797nmの2波長を出力する波長可変レーザーを試作し、その励起レーザー光には市販のフラッシュランプ励起ネオジムヤグレーザー注9)を使用して、表1に示すレーザー出力特性が得られることを確認できました。開発したレーザー共振器では、図2の波長スペクトルに示すように狭帯域となります。共振器のフィードバックする波長は、700nmから950nmで設定できます。

こうした方法により波長可変レーザーのサイズは、従来のレーザーの7分の1以下に小型化することができました。

表1 出力特性

項目 特徴
波長 756nm、797nm
パルスエネルギー 100mJ
繰り返し周波数 2波長交互照射:20Hz
パルス幅 <20ns
動作モード 外部制御で波長切替

【励起レーザー技術】

高出力短パルスのチタンサファイアレーザー出力を得るためには、高出力短パルスの励起パルスが必要になります。このような励起パルスは、ネオジムヤグレーザー出力の波長変換注10)により得られます。

ネオジムヤグレーザーの主流は、レーザーダイオードを励起源とする全固体レーザーです。しかし、製品供給時の低価格化、小型化およびメンテナンス間隔を総合的に検討し、フラッシュランプ励起レーザーを採用しました。

波長可変レーザーでは、励起レーザーから照射されるレーザー光の空間的な分布(出力プロファイル)に局所的に高い出力があると、光学部品やレーザー媒質にレーザーが集中し損傷する原因になります。励起レーザー技術では、波長可変レーザーの狭帯域の特徴を生かした、図3に示す平坦な出力プロファイルを持つフラッシュランプ励起レーザーを開発しました。これにより、波長可変レーザーの安定性と信頼性を上げることが可能になりました。

今後、実用化に向けて、開発したフラッシュランプ励起レーザーと2波長可変の超小型波長可変レーザーが一体になった、励起レーザー一体型の超小型波長可変パルスレーザー装置(図4)を開発します。

<参考図>

図1 波長可変レーザー部

図1 波長可変レーザー部

図2 出力波長スペクトル

図2 出力波長スペクトル

図3 励起レーザーの出力プロファイル

図3 励起レーザーの出力プロファイル

図4 ランプ励起2波長可変レーザー装置

図4 ランプ励起2波長可変レーザー装置

<用語解説>

注1) 光超音波イメージング法
レーザー光を照射し、吸収体が光を吸収し、吸収体が熱膨張して発生する音波(光音響効果)を検出し、イメージングする手法です。
図 光超音波イメージング法
注2) 酸素飽和度
酸素飽和度は、血中の総ヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンが占めている割合(%)です。光超音波イメージングでは、2つの波長で得た音圧から、酸化ヘモグロビン濃度と還元ヘモグロビン濃度を計算し、酸素飽和度を算出します。
注3) 波長可変レーザー
レーザー発振波長を可変できるレーザー。固体レーザーでは、蛍光幅が広いイオンと結晶場により利得幅(発振波長域)が決まります。レーザー共振器内に、波長フィルターを挿入して発振波長と波長幅(スペクトル)を制御します。
注4) 波長フィルター
光を波長ごとに分ける機能を持つ素子を波長フィルターと呼びます。代表的な波長フィルターとしてはプリズムや回折格子があります。プリズムでは入射光をプリズムの屈折率を利用し、回折格子では入射光を回折させて分散させます。
注5) レーザー共振器
固体レーザーのレーザー光を取り出す主要部品であり、一般的には対抗して配置した反射面鏡(ミラー)の間にチタンサファイアなどのレーザー媒質が配置されています。出力側の反射面鏡がわずかに光を通すことでレーザー光を取り出します。レーザー光は光共振器内に配置されたレーザー媒質から誘導放出され、共振器内を往復させ、エネルギーを高めます。
注6) 励起レーザー
光励起により反転分布を生じさせるレーザーでは、吸収波長に合致した発振波長をもつレーザーで励起することができます。レーザー光を励起光にすることで、レーザー媒体に対して不必要な加熱を避けることができ、励起光の制御が容易になります。
注7) チタンサファイアレーザー
チタン3価イオンを活性イオンとし、サファイアをホスト結晶とする固体レーザー。おもにレーザー励起により発振させます。発振波長は700nmから1000nmまで選択することができます。励起レーザーとしては、後述のネオジムヤグレーザーの波長変換光(波長532nm)や、アルゴンレーザー(波長515nm、488nm)が主に用いられます。必要な出力形態により励起レーザーを使い分けます。
注8) シングルモード発振
レーザー共振器内には、共振器構成により生じた共振器内光路により、種々の共振モードが存在します。レーザー共振器内のもっとも低次なモードだけでレーザー発振させることをシングルモード発振と言います。
注9) ネオジムヤグレーザー
ネオジム3価イオンを活性イオンとし、イットリウムアルミニウムガーネット(ヤグ)をホスト結晶とする固体レーザー。最も出力の高い発振は発生波長1064nmで得られます。安定な出力が得られるので最も広く普及している固体レーザーです。フラッシュランプ励起やレーザーダイオード励起で発振させます。
注10) 波長変換
2つの光子を1つの光子に変換できる場合、エネルギー保存則が成立し、短波長の光子が生成します。特に、角運動量保存則が成り立つ場合には、この変換効率は最大になります。この原理で特定の結晶に特定の方位から波長1064nm光を入射すると、高効率で波長532nmの光を発生できます。今回は、この532nm光をチタンサファイアレーザーの励起光にしています。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

高田 弘之(タカダ ヒロユキ)
株式会社メガオプト
〒351-0104 埼玉県和光市南2-3-13
Tel:048-469-3377 Fax:048-469-3332
E-mail:

<ImPACTの事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
Tel:03-6257-1339

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-6380-9012 Fax:03-6380-8263
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<報道担当>

今村 元規(イマムラ モトキ)
株式会社メガオプト 管理部
〒351-0104 埼玉県和光市南2-3-13
Tel:048-469-3377 Fax:048-469-3332
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科学技術振興機構 広報課
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