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平成29年7月6日

京都大学
科学技術振興機構(JST)

芳香族ニトロ化合物のクロスカップリング反応

~芳香族化合物の川上原料を直接用いる医農薬、有機材料の合成~

京都大学 大学院工学研究科の中尾 佳亮 教授、ヤダフ・ラム 博士、長岡 正宏 博士、柏原 美勇斗 博士前期課程学生、京都大学 福井謙一記念研究センターの榊 茂好 教授、ゾン・ロンリン 博士、および東ソー株式会社の宮崎 高則 主任研究員は、芳香族ニトロ化合物と有機ホウ素化合物をカップリングさせる画期的な新反応の開発に成功しました。今回開発したこの手法によって、これまで鈴木ー宮浦クロスカップリング反応で用いられていた芳香族ハロゲン化物の代わりに、工業的にもより手に入り易い芳香族ニトロ化合物を用いることが初めて可能になりました。医薬、農薬、液晶、有機EL材料の効率的かつ安価な製造プロセスに応用されることが期待されます。

本研究成果は、2017年7月5日アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に公開されました。

図 芳香族ニトロ化合物のクロスカップリング

本研究は文部科学省 科学研究費助成事業「新学術創成研究」(JP15H05799)、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 (CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」(JPMJCR14L3)の支援を受けました。

<研究の背景>

鈴木ー宮浦カップリング反応は、有機ホウ素化合物と有機ハロゲン化物を連結させて、新しい炭素ー炭素結合を構築するための反応です。特に、ベンゼン環同士を連結させてビアリール化合物を合成する方法として極めて有用で、信頼性の高い反応として知られ、さまざまな医薬、農薬、液晶、有機EL材料の工業的生産に用いられています。この反応の功績により、鈴木 章 北海道大学 名誉教授が2010年のノーベル化学賞を受賞されたことは記憶に新しいところです。この鈴木ー宮浦クロスカップリングの改良が世界中で研究されています。カップリング剤として用いる芳香族ハロゲン化物から腐食性や毒性を持つ廃棄物を生じることがあるため、その代替カップリング剤の開発が特に注目されています。さまざまな代替候補のなかでも芳香族ニトロ化合物は、芳香族ハロゲン化物を含むさまざまな芳香族化合物の工業的製造プロセスにおける川上原料であるため、これを直接鈴木ー宮浦クロスカップリングさせることができれば、従来の化学プロセスを格段に短工程化できるものと期待されていますが(図1)、これまで実現できませんでした。芳香族ニトロ化合物を鈴木ー宮浦カップリングさせるうえでの鍵は、芳香族炭素ーニトロ基結合をいかに切断するかという点です。しかし、ニトロ基は、クロスカップリング反応に用いられるような金属触媒を酸化して失活させてしまう性質もあるため、この切断反応に適切な触媒を見つけることは極めて困難でした。

<研究手法・成果>

今回中尾教授らは、この切断反応の逆反応、すなわち芳香族炭素ーニトロ基結合の形成に有効であると以前に報告されたパラジウム触媒に注目し、この触媒のリン原子上の置換基を改変することによって芳香族ーニトロ基結合の切断を達成し(図2)、芳香族ニトロ化合物の鈴木ー宮浦カップリングの開発に成功しました(図3)。

先述のように芳香族ニトロ化合物は、さまざまな芳香族化合物の出発原料であるため、極めて豊富なバリエーションが市販品として入手できます。また、芳香族ニトロ化合物は、ニトロ基を保持したまま、芳香環上に置換基を導入する反応が行えるため、そのような反応と今回開発した反応を連続して行い、多置換芳香環を極めて効率よく合成するような有機合成プロセスの構築が可能になります(図4)。

<波及効果、今後の予定>

今回開発した芳香族ニトロ化合物の鈴木ー宮浦クロスカップリング反応は、従来有機ハロゲン化物を用いて行われている化学プロセスに取って代わって、さまざまな医薬、農薬、液晶、有機EL材料の工業的製造プロセスに応用できる可能性があります。また、今回開発した炭素ー炭素結合形成だけでなく、鍵となる芳香族炭素ーニトロ基結合の切断反応を利用して、炭素ー窒素、炭素ー水素、炭素ーフッ素結合形成などの新反応への展開も期待できるため、多置換芳香族化合物の合成プロセスを刷新できる可能性も秘めています。

<参考図>

図1 芳香族ニトロ化合物を出発原料とするビアリール合成プロセス

図1 芳香族ニトロ化合物を出発原料とするビアリール合成プロセス

図2 芳香族炭素ーニトロ基結合の切断と形成

図2 芳香族炭素ーニトロ基結合の切断と形成

図3 今回開発した芳香族ニトロ化合物の鈴木ー宮浦クロスカップリング反応

図3 今回開発した芳香族ニトロ化合物の鈴木ー宮浦クロスカップリング反応

図4 ニトロベンゼンの既知反応と今回開発した反応を利用した二置換ベンゼンの効率的合成

図4 ニトロベンゼンの既知反応と今回開発した反応を利用した二置換ベンゼンの効率的合成

<論文情報>

タイトル The Suzuki–Miyaura Coupling of Nitroarenes
(芳香族ニトロ化合物の鈴木ー宮浦カップリング)
著者名 M. Ramu Yadav, Masahiro Nagaoka, Myuto Kashihara, Rong-Lin Zhong, Takanori Miyazaki, Shigeyoshi Sakaki, Yoshiaki Nakao
掲載誌 Journal of the American Chemical Society

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

中尾 佳亮(ナカオ ヨシアキ)
京都大学 大学院工学研究科 教授
Tel: 090-4270-4603 Fax: 075-383-2445
E-mail:

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
E-mail:

<報道担当>

京都大学 総務部 広報課
Tel:075-753-5727 Fax:075-753-2094
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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