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平成29年7月3日

科学技術振興機構(JST)
理化学研究所

エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見

~かんがい農地で農作物の収量増産に期待~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業の一環として、理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チームの関 原明 チームリーダー、佐古 香織 特別研究員、横浜市立大学 大学院生命ナノシステム科学研究科のフォン・マイ・グエン 大学院生らの研究グループは、エタノールが植物の耐塩性を高めることを発見しました。

世界のかんがい農地の約20%で塩害が発生しており、作物の成長や収量に大きな被害をもたらしています。こうした塩害から植物を守る技術の開発が望まれています。

本研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナとイネを用いて、エタノールが活性酸素の蓄積を抑制することによって耐塩性を強化することを明らかにしました。

本研究を発展させることによって、耐塩性を強化し作物の収量増産につながることが期待されます。

本研究は、農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門の土生 芳樹 ユニット長、理化学研究所 環境資源科学研究センター 発現調節研究ユニットのラムーソン・ファン・チャン ユニットリーダーと共同で行ったものです。

本研究成果は、2017年7月3日午前5時30分(中央ヨーロッパ時間)に植物科学誌「Frontiers in Plant Science」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」
(研究総括:磯貝 彰 奈良先端科学技術大学院大学 名誉教授)
研究課題名 「エピゲノム制御ネットワークの理解に基づく環境ストレス適応力強化および有用バイオマス産生」(グラントナンバーJPMJCR13B4)
研究代表者 関 原明(理化学研究所 環境資源科学研究センター チームリーダー)
研究期間 平成25年10月~平成31年3月

<研究の背景と経緯>

塩害は、かんがい農業による塩類集積や海沿いの地域で生じ、農作物の生産に大きな悪影響を及ぼしています。植物は高濃度の塩によるストレス(高塩ストレス)にさらされると、根からの水分の吸収の阻害や光合成の低下などが生じます。また、活性酸素注1)の蓄積が誘導され、細胞死が引き起こされます。世界の人口が増え続けている現在で持続的な食糧生産を維持するためには、塩害に強い作物や肥料の開発など早急な問題解決が求められています。

<研究の内容>

研究グループはシロイヌナズナを用いた解析から、エタノールを投与する処理によって耐塩性が強化されることを発見しました(図1)。耐塩性強化のメカニズムを明らかにするために、網羅的な遺伝子発現解析を実施した結果、高塩ストレスによって発生する活性酸素の除去に働く遺伝子群の発現が、エタノール処理によって増加することがわかりました。また、活性酸素の一種である過酸化水素を消去するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ注2)の活性も増加することを明らかにしました。実際にシロイヌナズナでエタノール処理が活性酸素の蓄積を抑制することが示されました(図2)。また、イネでもエタノール処理によって活性酸素の蓄積が抑制され、耐塩性が強化されることを見いだしました。これらの結果から、単子葉植物・双子葉植物のいずれにおいても、エタノールは活性酸素の蓄積を抑制することによって耐塩性を強化することが示されました。

<今後の展開>

今回の研究から、安価で入手が容易なエタノールが植物の耐塩性を強化することを発見しました。本成果を応用することによって、かんがい設備の設置が経済的に困難な地域などで、農作物を塩害に強くする肥料の開発や、それに伴う収量増産が期待できます。

<参考図>

図1 エタノール処理は耐塩性を高める

図1 エタノール処理は耐塩性を高める

高塩ストレスを加えるとシロイヌナズナは白く枯死した。一方、エタノールを処理した植物は塩ストレス下でも生存できた。

図2 エタノールは活性酸素の蓄積を抑制する

図2 エタノールは活性酸素の蓄積を抑制する

高塩ストレス下では活性酸素が蓄積し、茶色を呈す。一方、エタノールを処理した植物は塩ストレス下でも活性酸素の蓄積が抑制された。DAB染色は活性酵素を茶色く検出する。

<用語解説>

注1) 活性酸素
化学的に活性になった状態の酸素。生体内のエネルギー代謝や感染症の防御過程で発生するほか、高塩濃度、高温、乾燥、強光などの環境ストレスによっても発生する。さまざまな生命現象に重要な役割を果たすが、過剰な蓄積は細胞に対して毒性を持つ。
注2) アスコルビン酸ペルオキシダーゼ
アスコルビン酸を基質として過酸化水素などの過酸化物を無毒化する酵素。

<論文情報>

タイトル Ethanol Enhances High-salinity Stress Tolerance by Detoxifying Reactive Oxygen Species in Arabidopsis thaliana and Rice
著者名 Huong Mai Nguyen, Kaori Sako, Akihiro Matsui, Yuya Suzuki, Mohammad Golam Mostofa, Chien Van Ha, Maho Tanaka, Lam-Son Phan Tran, Yoshiki Habu, Motoaki Seki
掲載誌 Frontiers in Plant Science
doi 10.3389/fpls.2017.01001

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

関 原明(セキ モトアキ)
理化学研究所 環境資源科学研究センター 植物ゲノム発現研究チーム チームリーダー
〒230-0045 神奈川県横浜市鶴見区末広町1-7-22
Tel:045-503-9587 Fax: 045-503-9584
E-mail:

<JST事業に関すること>

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

(英文)“Discovery of ethanol-mediated high-salinity tolerance mechanism in plants —Ethanol - a cheap and simple way to help plants fight salinity—