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平成29年4月21日

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所
科学技術振興機構(JST)
日本医療研究開発機構(AMED)

DNAは細胞のバネとしても働いている

~「DNAの新たな役割」を提唱~

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の島本 勇太 准教授と前島 一博 教授らのグループは、細胞の核の「強さ」が生み出される仕組みを、物理の先端技術と生化学の研究手法を用いて明らかにしました。

私たちの体を形成する細胞の核のなかには生命の設計図であるDNAが収められています。細胞および核は押されたり引っ張られたりして、絶えず物理的な力にさらされています。この力によりDNAが切れたりすると、細胞にさまざまな問題が生じます(図1)。これまで、細胞の核はその硬い殻の構造によって内部のDNAを守っていると考えられてきました。

本研究では、直径が髪の毛の百分の一ほど(〜1ミクロン)の細いガラス針を使ってヒト細胞の核を直接触り(図2A)、力を掛けたときの核のゆがみを観察することで、核の「強さ」を計測しました(図2B)。その結果、核は力に対抗するための「硬さ」と「弾性」を合わせ持っていることがわかりました。さらに、この弾性力は、これまで考えられてきた核の殻の構造だけでなく、収納されたDNA自体によっても生み出されていることがわかりました(図3)。これまで遺伝情報のメモリデバイスとみなされてきたDNAが、核の弾性を支えるバネの役割を演じているのです。

力が加わることによって核に生じるゆがみとそれに伴うDNAの損傷は、細胞に「死」や「がん化」など、さまざまな異常をもたらすと考えられています。今回の発見は、このような細胞の異常が起こるしくみの解明につながることが期待されます。

本研究成果は、平成29年4月20日正午(米国東部時間)に米国細胞生物学会誌「Molecular Biology of the Cell」にハイライトとして掲載されます。

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・島本 勇太 准教授、田村 佐知子 テクニカルスタッフ、前島 一博 教授と、長崎大学・増本 博司 講師との共同研究です。本研究の遂行にあたり、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 革新的先端研究開発支援事業(PRIME)「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」研究開発領域(研究開発総括:名古屋大学 大学院 曽我部 正博 特任教授)(課題名「細胞核のマイクロメカニクスと機械受容メカニズムの解明」、研究代表者:島本 勇太)、科学技術振興機構(JST)  戦略的創造研究推進事業(CREST) 「統合1細胞解析のための革新的技術基盤」(研究総括:東京大学 大学院 菅野 純夫 教授)(研究課題名「超解像3次元ライブイメージングによるゲノムDNAの構造、エピゲノム状態、転写因子動態の経時的計測と操作」(JPMJCR15G2)、研究代表者:岡田 康志)、JST テニュアトラック普及・定着事業、および科研費(15K14515、16H04746)の支援を受けました。

<研究の背景>

私たちの体を構成する細胞は、自ら力を生み出したり外からさまざまな力のストレスを受けたりしながら細胞の機能を果たしています。例えば、体のほとんどの細胞は、その体重を支えるため、強い力がかかっています。心臓や骨格の筋肉をつくっている細胞は、強い力で繰り返し収縮します。また体のなかを動き回る細胞でさえも、組織の間を通るときに大きな圧力を受けます。これらの力はDNAの収納場所である細胞の核にも伝わり、核をゆがめ、DNAの機能を阻害すると考えられています。このDNAの機能への影響は、細胞死や細胞のがん化などと関連するため、とても大きなものです。しかしながら、核の硬さや弾性などの性質を直接測ることは難しかったために、この力のストレスに応答する核のメカニズムはほとんどわかっていませんでした。

<本研究の成果>

これまで、細胞核の硬さは核ラミナ注1)と呼ばれる殻の構造によって支えられているという考えが主流でしたが、本研究では、細胞核の硬さとバネ弾性が核内のDNAによって生み出されていることを明らかにしました。さらにDNAのバネ弾性がDNAのどのような構造によって生み出されているのか調べたところ、ヌクレオソーム注2)構造をとったDNAが伸びたり(図3中央)、短く切れたり(図3右)するとバネ弾性が弱くなることを発見しました。このことから、DNAが不規則に凝縮し、塊をつくることで核のバネになることを突き止めました(図3左)。

この成果は、島本研究室(定量メカノバイオロジー研究室)で以前開発したガラス針を用いた力計測顕微鏡注3)図2)と、前島研究室で確立された細胞核とDNAの折り畳みの研究手法とを組み合わせることによって達成されたものです。2つの技術を融合することによって、核のDNAの状態を変化させ(図3)、その状態が核の硬さ・バネ弾性にどのように影響するかを定量的に計測することに成功しました。

<今後の期待>

力によって細胞の核に生じるゆがみや構造の破壊は、DNAの情報の発現異常や、DNAへの損傷による細胞死やがん化などさまざまな異常につながると考えられています。例えば細胞の核の殻の異常は、ある種の筋ジストロフィー症を引き起こすことが知られています。本研究で得られた成果によって、このような細胞機能の破綻が起こるしくみの理解が進むことが期待されます。また、これまでDNAは遺伝情報を収めるためのメモリデバイスであると考えられてきましたが、本成果は、DNAが核のバネとして働くことで核の硬さを制御するという「DNAの新たな役割」を提唱するものです。

<参考図>

図1

細胞には絶えず力がかかっており、バネ弾性がないとつぶれてしまい(右)、細胞の機能が損なわれて異常が起きてしまう。

図2

  • (A) 核に2本の細いガラス針を刺し、引っ張る。
  • (B) 核の変形とガラス針のたわみを顕微鏡で同時に観察して弾性を測定できる。

図3

DNAが凝縮し塊をつくることによって、バネ弾性が産み出される(左)。DNAが引き延ばされたり(中央)、切れたりすると(右)、バネが弱くなる。核の中ではDNAは糸巻きであるヒストンたんぱく質に巻かれて、ヌクレオソームと呼ばれる構造をつくっている。

<用語解説>

注1) 核ラミナ
核膜の裏打ち構造で、核を支えていると考えられてきた。ラミンという線維状のたんぱく質がメッシュ構造をつくっている。
注2) ヌクレオソーム
正の電荷を持った4種類のヒストンたんぱく質からできた糸巻きのような構造体。負の電荷を持ったDNAが約2周巻きついて、数珠のように連なっている(図3下)。
注3) 力計測顕微鏡
細胞やタンパク質が出す微小な力を測ることができる装置。測りたいものに応じて、光や磁気の力を使ったり、ガラス針などを使ったりする。

<論文情報>

タイトル “Nucleosome−nucleosome interactions via histone tails and linker DNA regulate nuclear rigidity”
(リンカーDNAとヒストンテールを介したヌクレオソームの相互作用が細胞核の「硬さ」を制御する)
著者名 Yuta Shimamoto, Sachiko Tamura, Hiroshi Masumoto, and Kazuhiro Maeshima
掲載誌 Molecular Biology of the Cell

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

島本 勇太(シマモト ユウタ)
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 定量メカノバイオロジー研究室 准教授
Tel: 055-981-6784
E-mail:

前島 一博(マエシマ カズヒロ)
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 生体高分子研究室 教授
Tel: 055-981-6864
E-mail:

<JST事業に関すること>

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
Tel: 03-3512-3524
E-mail:

<AMED事業に関すること>

日本医療研究開発機構(AMED) 基盤研究事業部 研究企画課
Tel:03-6870-2224
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<報道担当>

清野 浩明(セイノ ヒロアキ)
情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 リサーチ・アドミニストレーター室
Tel:055-981-6745/(広報)5873
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科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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