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平成29年4月18日

物質・材料研究機構(NIMS)
東京大学
科学技術振興機構(JST)

機械学習により熱流を制御するナノ構造物質の最適設計に成功

東京大学 大学院 工学系研究科の塩見 淳一郎 准教授(物質・材料研究機構(NIMS) 情報統合型物質・材料研究拠点兼任)、ジュ シェンホン 特任研究員、志賀 拓麿 助教、フウ ライ 博士課程学生、東京大学 大学院 新領域創成科学研究科の津田 宏治 教授(NIMS 情報統合型物質・材料研究拠点兼任)、NIMSのホウ ジョウフェン 研究員からなる研究チームは、熱抵抗を最大または最小にする最適なナノ構造を、従来の数パーセントの計算量で特定する計算手法を開発し、非直感的な新規ナノ構造を設計することに成功しました。

近年、熱マネージメントなどの応用を念頭に、材料の内部にナノスケールの構造を作製して、熱輸送を制御する技術が注目されています。ナノスケールではフォノン注1)弾道的注2)に振舞うため、超格子構造注3)ナノ多結晶体注4)のようにナノスケールの間隔で界面を設けることによって熱抵抗を大幅に増大できるなど、熱輸送の制御性が向上しています。これらの進展には熱輸送の計算科学の発展が大きく寄与してきましたが、最適な構造を設計するような試みはこれまでありませんでした。

今回、ナノ構造の熱輸送を計算する手法とベイズ最適化手法注5)を組み合わせることによって、ナノ構造を最適化する新しい手法を開発しました。本手法では、2元系の結晶材料を対象に、ナノ構造内のそれぞれの原子の組成そのものを記述子注6)として、候補となる多くの構造の中から最適なものを同定します。シリコンとゲルマニウムから構成される材料に適用したところ、全候補数の数%の数の構造を計算するだけで最適構造を同定できることを示しました。得られた構造の中でも、熱抵抗が最大になる最適構造は、これまで考えられてきた周期的な超格子構造ではなく、非周期的な層構造であることが明らかになり、さらにその機構がフォノンの粒子性と波動性の組み合わせによって理解できることがわかりました。

今回の成果は、材料科学と機械学習を融合したマテリアルズ・インフォマティクスが熱機能ナノ材料の開発に有用であることを示すものです。さまざまな新しいナノ構造の作製が可能になる中で、このように熱抵抗を最大・最小化する構造を同定できる技術は、今後、材料設計を通じて、光や電子デバイスなどの放熱、熱遮蔽による機器保護、熱電変換素子の効率向上に寄与することが期待されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)「メカノ・サーマル機能化による 多機能汎用熱電デバイスの開発」、科学研究費補助金・基盤研究B「フォノンスペクトル・エンジニアリングによる高度な熱輸送制御」の支援を受けて行われました。

本研究成果は、Physical Review X誌にて近日中にオンライン掲載されます。

<研究の背景>

近年、材料の内部にナノスケールの構造を作製して、熱輸送を制御する技術が急速に発展しています。局所構造や界面構造によって熱輸送を制御することは、放熱による光や電子デバイスなどの熱マネージメント、熱遮蔽による機器の保護、熱電変換素子の効率向上などさまざまな応用において重要です。絶縁体や半導体では格子振動を量子化したフォノンが熱輸送を担います。巨視的な視点から見ると、フォノンは拡散的に輸送されるために熱輸送の制御性は小さかったのですが、ナノスケールではフォノンが弾道的に振舞うため、超格子構造やナノ多結晶体のようにナノスケールの間隔で界面を設けることによって、単結晶と比較して熱抵抗を大幅に増大できるなど、熱輸送の制御性が向上しています。これらの進展には熱輸送の計算科学の発展が大きく寄与してきましたが、これまでは周期構造などの直感的な構造をベースにして周期などのパラメータへの依存性を検証することが殆どで、最適な構造を同定するような試みはありませんでした。

<研究の内容と成果>

今回、ナノ構造の熱輸送を計算する手法とベイズ最適化手法を組み合わせることによって、ナノ構造を最適化する新しい手法を開発しました。本手法では、2元系(今回はシリコンとゲルマニウム)の結晶材料を対象として、ナノ構造内のそれぞれの原子の組成そのものを記述子とすることで、多くの候補構造の中から最適な構造を同定します。最初に20個の候補をランダムに選択して熱抵抗を計算し、その結果をもとにベイズ最適化により良い性能が見込める20個の候補を決定してそれらの熱抵抗を計算します。これを繰り返してデータを20個ずつ増やしていきます。その結果、全候補数の数パーセントの数の構造を計算するだけで最適構造を同定できるようになりました。この手法を用いて、熱抵抗が最大になる構造を求めたところ、従来の周期的な超格子ではなく、非周期的な層構造が得られました。これは従来の熱輸送の知見から考えられるものとは異なる非直感的な構造であり、新たな種類の構造が見出されたことになります。正解を知った上でその機構を検証したところ、フォノンを粒子として見た場合と、波として見た場合で熱抵抗の構造パラメータ(各層の厚さなど)への依存性が異なるため、これらを両立することができる非周期的な層構造が最適となることがわかりました。

<今後の展開>

今回の研究成果は、材料科学と機械学習のマテリアルズ・インフォマティクスが熱機能ナノ材料の開発に有用であることを示すものです。熱抵抗を最大または最小にするナノ構造の最適組成を設計することができるようになったことで、熱機能材料の設計性が向上することが見込まれます。ナノテクノロジーの発展にともないさまざまな構造の作製が可能になる中で、本技術は、今後、光や電子デバイスなどの放熱、熱遮蔽による機器の保護、熱電変換素子の効率向上に大きく寄与することが期待されます。また、輸送物性の計算と最適化計算を交互に行いながら、効率的に最適構造を同定する手法は、熱機能に留まらず、電気や光の輸送にも適用でき、さらに広い分野の材料設計に寄与することも期待できます。

<参考図>

図 熱抵抗が最大または最小になるナノ構造を同定する計算手法の概略

<用語解説>

注1) フォノン
格子振動を量子化した準粒子。
注2) 弾道的
準粒子が散乱されずに輸送される様。
注3) 超格子構造
複数の種類の結晶層が交互に重ね合わさった周期構造。
注4) ナノ多結晶体
結晶粒から構成される材料である多結晶体のうち、粒径がナノスケールであるもの。
注5) ベイズ最適化手法
ベイズ確率の考え方を用いた推論にもとづき、形状のわからない関数を最適化する手法。
注6) 記述子
最適化問題におけるパラメータ。

<論文情報>

タイトル Designing Nanostructures for Phonon Transport via Bayesian Optimization
著者名 Shenghong Ju, Takuma Shiga, Lei Feng, Zhufeng Hou, Koji Tsuda, Junichiro Shiomi
掲載誌 Physical Review X(オンライン公開:英国時間2017年4月18日頃予定)

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

東京大学 大学院工学系研究科 機械工学専攻
准教授 塩見 淳一郎(シオミ ジュンイチロウ)
TEL: 03-5841-6283
E-mail:

<JST事業に関すること>

科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部 イノベーションハブグループ
〒102-8666 東京都千代田区五番町7番地K’s五番町
TEL: 03-6267-4752 FAX: 03-5214-8496
E-mail:

<報道担当>

物質・材料研究機構 経営企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
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東京大学 大学院 工学系研究科 広報室
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科学技術振興機構 広報課
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