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平成29年2月22日

科学技術振興機構(JST)
東京大学
静岡ガス株式会社

初期費用ゼロで省エネ冷蔵庫に買い替え

~節約した毎月の電気代で、約7年で購入費を完済~

ポイント

JST(理事長 濵口 道成)低炭素社会戦略センター(LCS)注1)と東京大学(総長 五神 真)は、平成26年度より「電気代そのまま払い」の枠組みを提案し、社会への普及が進展しています。

「電気代そのまま払い」は、家庭が冷蔵庫などの省エネ機器を導入する際に、必要な初期費用を金融機関などが立て替えし、省エネ機器の導入によって節約した電気代相当額を月々の実際の電気代と一緒に支払うことで、機器代を返済していく枠組みです。LCSと東京大学は「電力使用量見える化実験」により収集した実際の家庭の冷蔵庫消費電力データに基づき、月々に節約される電気代を簡易的に推計するツールを開発しました。

この研究成果を背景に、平成27年4月より、LCSと東京大学、および静岡ガス株式会社(代表取締役社長 戸野谷 宏)によって、静岡県三島市を中心に「電気代そのまま払い」の社会実装注2)を行い、冷蔵庫の買い替えが実現しました。実際に冷蔵庫を買い替えた家庭では、60%以上の省エネ効果(電気代にして1,500円/月以上の節電効果)が確認されました。今後も社会実装を通して、想定した節約額と実測値の差異を検証するとともに、利用者の声を参考にして枠組みの改善に取り組みます。

今回の買い替えの実現は、「電気代そのまま払い」の社会普及の第一歩です。LCSと東京大学は、既に三島市以外の複数自治体にて枠組みの普及に向けた活動を行っています。各地で冷蔵庫の買い替え事例を増やすことで、統計的な信頼を得たいと考えています。また、将来的には、この枠組みは冷蔵庫以外の家電や照明など広範囲の機器を対象とすることで、家庭部門での省エネ量を大きくできる可能性があります。

共に活動している自治体や金融機関等の協力を得て、この枠組みを推進するファンド設立や自立した事業の創出等も行い、全国への普及を目指します。

<事業の背景>

パリ協定の採択後、日本の温室効果ガス排出の削減対策として、家庭での省エネの重要性が増しています。日本は2030年に2013年比で温室効果ガス排出水準を26%削減するとの「日本の約束草案」を国連に提出しました。これと合わせて決定された「長期エネルギー需給見通し注3)」では目標達成のために対策を行わなかった場合の2030年の電力需要に対して17%を省エネによって削減することとされています。そのうち、家庭部門は省エネ量の31%を担うとされています。

一方で、多額の初期費用や新たなローンを背負うことを敬遠する傾向があり、家庭での低炭素技術(省エネ家電など)の導入促進のハードルとなり、対策を遅らせているという現状があります。

LCSは、平成25年度に開始した23自治体との共同研究「電力使用量見える化実験」で、協力を得た家庭の消費電力量を計測し、その中で冷蔵庫の消費電力データについて分析を進めてきました。その結果、冷蔵庫の消費電力は製造年が新しいほど小さい傾向があることがわかっています(図1)。ここで分析の際に対象とした約180世帯のうち、約3割が2005年以前に製造された冷蔵庫を使用し、年間600kWh以上の電力を消費していました。これは省エネ型冷蔵庫(年間消費電力量が200kWh)と比べると、3倍以上の消費電力量になります。

家庭への低炭素技術の導入、および家庭の省エネを進めるため、LCSと東京大学 大学院工学系研究科 松橋 隆治 教授らの研究グループは、平成26年度から「電気代そのまま払い」の枠組みを提案してきました(平成26年11月19日プレス発表、https://www.jst.go.jp/pr/announce/20141119/index.html)。

<事業実施の内容>

LCSと東京大学 松橋研究室、および静岡ガスの3者は、平成27年4月から静岡県内の一般家庭20世帯の協力を得て、冷蔵庫の消費電力量を計測しました。このデータの分析結果を元に、これまでに5世帯に対して「電気代そのまま払い」を提案し、2世帯で冷蔵庫の買い替えが実現しました。

この2世帯では、買い替え前(2015年)の冷蔵庫の消費電力量は年間1,100kWhを超え、家庭全体の電気代(月平均でそれぞれ約6,600円と約8,200円)のうち冷蔵庫が3割以上を占めていました(図2)。製品カタログ上の消費電力量から、同程度の容量の省エネ型冷蔵庫に買い替えると月々2,000円以上の節約が見込まれ、Aさんは平成28年7月、Bさんは平成28年12月に「電気代そのまま払い」の枠組みで冷蔵庫を買い替えました。

Aさんの家庭では、買い替え前は1995年製造の冷蔵庫を使用しており、実測した冷蔵庫の年間消費電力量は、電気代にすると月平均で約2,600円でした。新しい冷蔵庫(購入価格18万円)のカタログ上の消費電力量(170kWh/年)から計算すると、節約額は月々2,250円となります。その額と同等の料金を新しい冷蔵庫の代金の月々の返済額として設定すると、代金は約7年で返済できることになります(図3)。買い替え後の5ヶ月間の消費電力量の実測値は、前年同時期の27%になりました。

Bさんの家庭では、2003年製造の冷蔵庫から約25万円の冷蔵庫に買い替え、カタログ上の値から節約額を試算すると月々2,050円となります。冷蔵庫の代金は約10年で完済予定です。買い替え後、1ヶ月が経過し、消費電力量は前年同時期の35%となりました。

今後も電力計測を続け、省エネ効率や消費電力量の季節変化を確認し、カタログ上の値から想定した節約額と実測値との差異を検証するとともに、利用者の声を参考にして枠組みの改善に取り組みます。「電気代そのまま払い」は、冷蔵庫等の買い替えに際して「一度に大きな出費を避けたい」という家庭に向けた枠組みであり、月々の返済であることから、年金を受給されている高齢者の省エネ機器買い替えのきっかけとしても活用しやすい、といった意見もありました。

また同時に、「これまで冷蔵庫の買い替えを考えるきっかけが無かった」というAさんにとって、実測データや推定結果に基づいた説明を受けたことで省エネメリットを理解するまたとない機会となり、買い替えが実現しました。

<今後の展開>

「電気代そのまま払い」は、家庭部門における省エネ家電や高効率照明など広範囲の機器を対象として買い替えを促進する枠組みであり、家庭での省エネが促進され、省エネ削減量を大きくできる可能性があります。

静岡県での実験では、上記2世帯の消費電力量の計測を続け、冷蔵庫の省エネ効率の変化を検証しながら、静岡ガスを通じて得られたご家庭の意見を参考にして枠組みの改善に取り組みます。

また、静岡県以外に、東京大学 松橋研究室とLCSが「電気代そのまま払い」の取り組みを行っている北海道下川町と、「電力使用量見える化実験」を行っている東京都足立区をモデル地域とし、互いの地域での成果を両地域にあてはめてみる活動が平成28年10月よりJST 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)「研究開発成果実装支援プログラム」注4)の一環として進められています。

今後、共に活動している自治体のほか、金融機関や損保会社等の協力を得て、本枠組みを推進するファンド設立や自立した事業の創出なども行い、全国への普及を目指します。

<参考情報>

これらの研究成果の一部は、JSTが推進するセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラム注5)の九州大学を中核機関とする「共進化社会システム創成拠点」のサテライト(COI―S)として、東京大学 松橋研究室などが取り組む研究の一環で得られた成果です。

静岡ガスは、「電気代そのまま払い」をご家庭の生活費を圧迫することなく、省エネ機器への買い替え促進ができる枠組みとして進めています。静岡ガスが今回の実証で整備した枠組みでは、省エネコンサルティング、買い替え提案、家電の手配、販売までのすべてを同社がワンストップで行う体制(図4)になっており、同社が省エネコンサルを実施したのち、協力機関である家電販売事業者から家電を調達、販売します。「電気代そのまま払い」を活用する場合は、関連会社である静岡ガスクレジット株式会社が家電を買い取り、機器買い替え後の省エネ額相当でリース契約を行います。リース期間終了後は、家庭へ冷蔵庫を譲渡する契約です。

<参考図>

図1

「電力使用量見える化実験」の協力家庭が保有する冷蔵庫の製造年・容量別消費電力量(分析対象世帯数:183)

図2

「電気代そのまま払い」を利用して冷蔵庫を買い替えた家庭の2015年度(冷蔵庫買い替え前)の電気代

「電気代そのまま払い」を利用して冷蔵庫を買い替えた家庭の、2015年度における冷蔵庫の消費電力量と電気代、および、買い替え後の冷蔵庫代金、カタログ値に基づく消費電力量・電気代・節約額の試算値、冷蔵庫代金の返済期間(電力料金は、27円/kWhと想定した)

図3

「電気代そのまま払い」を利用して冷蔵庫を買い替えた、Aさんの冷蔵庫購入費用の返済方法

図4

静岡県内で実施している「電気代そのまま払い」の提案方法

<用語解説>

注1) 低炭素社会戦略センター(LCS)
明るく豊かな低炭素社会を実現するために、これからの日本がどのようなシナリオをとるべきか、そのために必要となる戦略は何かを研究し、政策立案のための提案を行っています。
注2) 社会実装
得られた研究成果を社会問題解決のために応用、展開すること。
注3) 長期エネルギー需給見通し
平成27年7月、経済産業省が決定した、政策の基本的な方向性に基づいて施策を講じたときに実現されるであろう将来のエネルギー需給構造の見通しであり、あるべき姿を示すものです。(http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf pdf
注4) 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)「研究開発成果実装支援プログラム」
科学技術振興機構(JST)による公募型研究開発プログラムのひとつ。社会の問題解決に資する研究開発成果の社会実装活動を支援しています。
同プログラムにて、LCSの共同研究者である東京大学 新領域創成科学研究科 吉田 好邦 教授によるプロジェクト「低エネルギー消費型製品の導入・利用ならびに市民の省エネ型行動を促進するシステムの実装」が昨年10月に採択されました。
注5) センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム
科学技術振興機構(JST)による公募型研究開発プログラムのひとつ。現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンに基づき、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを創出するため、産学連携による研究開発に取り組んでいます。

<お問い合わせ先>

<LCSの活動に関すること>

科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 企画運営室
古旗 憲一(フルハタ ケンイチ)、中島 章光(ナカジマ アキミツ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-6272-9270 Fax:03-6272-9273
E-mail:

<COI-Sの研究に関すること>

東京大学 大学院工学系研究科 松橋研究室(COI-S)
高瀬 香絵(タカセ カエ)
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
E-mail: 電話でのご連絡は、上記 科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター 企画運営室にお願いいたします。

<報道に関すること>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

東京大学 大学院工学系研究科 広報室
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-1790 Fax:03-5841-0529

(英文)“Replacement of old refrigerator by an energy saving one without initial cost: Repayment plan uses monthly electricity savings to pay off cost in about 7 years