JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成29年1月17日

九州大学
科学技術振興機構(JST)

細胞の外側に柱状の構造体を発見、その形成機構を解明

細胞の外の環境がどのように構築されるのかについて、細胞外基質注1)が足場を作っているということ以外多くは知られていませんでした。九州大学 大学院医学研究院の佐藤 有紀 講師 (戦略的創造研究推進事業 さきがけ 研究員(兼任))は、共焦点レーザー顕微鏡を用いた高精細イメージング解析から、細胞外基質のひとつであるフィブロネクチン注2)が、血管の近傍の組織間隙に長く太い「柱」のような構造を形成することを発見しました。これまでの知見では、細胞外基質は細胞のごく近傍数µmの範囲内に蓄積するものと思われていましたが、フィブロネクチン柱は細胞から50µmも離れた場所にまで達することがわかり、この構造を作り出すメカニズムの解明に成功しました。

フィブロネクチンは力学的要因によって重合を促進されることが知られています。我々は血管が脈動することで生まれる伸縮ストレスがフィブロネクチンの「柱」を形成させる力学因子であると予想し、血管形成阻害、心拍停止、局所的血栓誘導など様々な角度から実験を行い、血管の脈動がフィブロネクチン柱の形成維持に必須であることを明らかにしました。さらに本研究から、フィブロネクチンが近傍の細胞の糸状仮足注3)とインテグリン受容体を介して相互作用し、細胞移動や分化に関わることがわかりました。本成果は、血管周囲のメカニカルストレス注4)受容機構の解明に発展することが期待されます。

本研究は、2017年1月17日(英国時間)に英国科学誌「Development」のオンライン版で掲載されます。

<研究の背景>

フィブロネクチンは、細胞の周囲に蓄積して「足場」を形成する細胞外基質のひとつです。培養細胞を用いた研究から、フィブロネクチンは細胞の直下に存在し、細胞の形態変化や移動に重要な役割を果たすことが知られていました(図1上段)。しかしながら、実際の生体内の細胞は三次元的に配置されています。そのような三次元空間内において細胞の足場となるフィブロネクチンがどのように蓄積されるのか、その詳細は不明でした。本研究は発生中の胚を詳細に観察することによって、この課題に挑みました。

<研究の内容>

本研究では、発生中の胚内に存在するフィブロネクチンと細胞膜を同時に可視化する方法を確立しました。その結果、フィブロネクチンが2つの離れた組織間を直線的に繋ぐように蓄積することが初めてわかりました。それまで知られていた平面的なフィブロネクチンの蓄積パターンと全く異なることから、この構造をフィブロネクチン「柱」と呼ぶことにしました。また同時に、細胞群からは非常に長い糸状仮足が伸びていることも発見しました。フィブロネクチン柱の形成には、糸状仮足に局在するインテグリン受容体とタリンが必要であることもわかりました(図1下段)。

先行研究から、フィブロネクチンは重合によって長く太くなることがわかっていました。何らかの力学的作用がフィブロネクチンの構造を変化させ、重合が起こることが示唆されていましたが、その「力」の発生源は不明でした。我々はフィブロネクチン柱が血管の近傍にのみ形成されることに着目し、血管の脈動で繰り返し起こる伸縮刺激が「力」として働くという仮説を立てました。胚内の血流を操作する実験を行うことで、この仮説を証明しました。本研究から、フィブロネクチン柱は、糸状仮足との相互作用と血管の伸縮刺激との2つの異なるしくみが両立することによって形成されることがわかりました。

<今後の展開>

本研究から、細胞の外にも特徴的な構造物があること、さらにその制御には血管の脈動に派生する「力」が関わることがわかりました。本研究によって、メカニカルストレスの観点から組織形態形成のしくみを理解する道が拓けました。動脈硬化現象が周辺の細胞環境に及ぼす影響等の解明に繋がることが期待されます。

<参考図>

図1 フィブロネクチンの柱とその構造を作り出すしくみ

図2

細胞の外側に形成されたフィブロネクチンの柱(緑色)。この構造は、細胞の糸状仮足との相互作用と血管の脈動に起因する空間伸縮ストレスによって形成され、2つの離れた組織同士をブリッジする役割を担っている。

<用語解説>

注1) 細胞外基質
細胞から分泌され、細胞の外側に蓄積するタンパク質群。細胞接着・移動や組織の形態維持に関わる。
注2) フィブロネクチン
細胞外基質を構成するタンパク質の一種。細胞膜上の受容体と結合することにより、細胞‐基質間の接着を担う。
注3) 糸状仮足
細胞から伸長する細長い突起。細胞内アクチン細胞骨格が伸長し束になることで仮足の構造を作る。
注4) メカニカルストレス
細胞に対して作用する機械的な力。血流によるずり応力、組織内の張力、運動による負荷などがストレス源として知られている。

<論文情報>

タイトル Basal Filopodia and Vascular Mechanical Stress Organize Fibronectin into Pillars Bridging the Mesoderm-Endoderm Gap
著者名 Yuki Sato, Kei Nagatoshi, Ayumi Hamano, Yuko Imamura, David Huss, Seiichi Uchida, and Rusty Lansford.
doi 10.1242/dev.141259

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

佐藤 有紀(サトウ ユキ)
九州大学 大学院医学研究院 講師
〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3丁目1-1
Tel:092-642-4857 Fax:092-642-6923
E-mail:

<JST事業に関すること>

川口 哲(カワグチ テツ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2064
E-mail:

<報道担当>

九州大学 広報室
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
Tel:092-802-2130 Fax:092-802-2139
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

(英文)“Architectural pillar-like distribution of extracellular matrix