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別添

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
プログラム・マネージャー 山川 義徳

2016年度Brain Healthcareチャレンジ入選アイデアの発表

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現」(プログラム・マネージャー:山川 義徳)は、2016年度の「Brain Healthcareチャレンジ」において、5件を入選アイデアとして採択しました。

Brain Healthcareチャレンジは、脳の健康促進の観点から、非医療分野の製品やサービスに関する革新的なアイデアを幅広く募集する取り組みです。2016年度のコンテストでは、16件の応募があり、有識者による審査の結果、抹茶の摂取(株式会社伊藤園)、手書き習慣(コクヨ株式会社)、コラーゲンペプチドの摂取(新田ゼラチン株式会社)、ラベンダーハンドマッサージ(公益社団法人日本アロマ環境協会)、ユーグレナの摂取(株式会社ユーグレナ)といった5件の取り組みが入選アイデアとして選ばれました。

採択された入選アイデアは、理化学研究所、京都大学、東京大学、東京工業大学の施設で実際に脳の状態を計測する実証トライアルを行い、その提案内容が脳の健康に与える影響について、当プログラムが国際標準規格として提案している手法で開発された脳の健康指標(BHQ)を用いて評価します。実証トライアルの結果については、来年2月に開催するシンポジウムで公開する予定です。

■ Brain Healthcareチャレンジ(2016年度)入選提案

審査有識者により、アイデアの革新性や実績、実証トライアルの実現可能性などの点で審査を行い、5件を入選アイデアとして採択しました(以下、法人名順で記載)。

(審査有識者一覧)

審査委員長 渡辺 恭良(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長)
審査委員 根本 清貴(筑波大学 医学医療系臨床医学域 准教授)
朴 啓彰(高知工科大学 地域交通医学・社会脳研究室 室長)
佐藤 正樹(株式会社ジャフコ 投資部 ライフサイエンス投資グループ プリンシパル)
向林 隆(株式会社アイティーファーム 執行役員)
長谷川 宏之(三菱UFJキャピタル株式会社 理事・ライフサイエンス室長)

■ Brain Healthcareチャレンジ(2016年度)入選アイデアの紹介

以下、審査コメントと共に以下に各入選アイデアを紹介いたします。

抹茶摂取による認知機能改善効果 (株式会社伊藤園)

(審査員コメント)

  • すでに、エピガロカテキンやテアニンの神経系への効果に関して研究報告がされており、認知機能への効果は期待できる。(渡辺)
  • 抹茶の効果は複数の論文で指摘されており、効果がある可能性は高い。一方、どの程度の期間が必要かという検証や脳情報以外の検証については、抹茶の効果を適切に評価する上での今後の課題となってくると考えられる。(根本)
  • 抹茶成分のカテキンやテアニンの認知機能維持や向上に役立つことが判明すれば、日常嗜好品であるため、その市場効果は大きい。(朴)
  • これまでに抹茶による認知症改善効果を示唆する臨床試験データが得られており、抹茶が脳機能画像にどのような影響を及ぼすのか、結果が楽しみです。抹茶の効果が認められれば、商品展開は国内のみならず、海外も期待できると思います。(佐藤)
  • 民間伝承としての緑茶の効能を客観的に証明することにより新しい製品の開発と輸出に繋がる。(向林)
  • お茶自体の効用については様々知られているが、抹茶を毎日気軽に飲用できる製品(粉末製品+fuludakeボトル)の商品性を高める上での良いデータ取得となる。(長谷川)
手書き習慣が脳に与える影響を知る (コクヨ株式会社)

(審査員コメント)

  • 手書きという、今は失われつつある動作が脳機能に及ぼす影響は大きいと考えられる。もちろん、字を思い出し、きちんとスペースを埋めていくこと、文章を構成することは次に重要であるが、どこまでの段階をこの”手書き”に入れるかが課題設定の妙味でもある。(渡辺)
  • 手で書くという日常動作の脳に及ぼす影響を評価するということは興味深い。教育現場に対する影響も大きいと考える。(根本)
  • 手書き動作の脳機能に及ぼす影響の中長期的効果についての報告は乏しい。よって、本研究成果は、脳ビジネスのみならず教育現場での波及効果も期待できる。(朴)
  • 手書き習慣が脳機能に良い影響を与える可能性があると思いますが、科学的な検証は行われておりません。本提案で脳機能画像に変化が認められれば、その結果を基に新たな製品やサービスの創出に繋がる可能性があると思います。(佐藤)
  • 世の中が紙と鉛筆の時代に逆戻りすることはないであろうが、鉛筆のメリットを証明することは最適なUIの開発に繋がる有意義な実験である。キーボード、毛筆なども含め、文字入力のフィーリングの本質に迫る解析をしていただきたい。(向林)
  • 手書き習慣は手軽で、トレーニング文具開発に繋がり興味がある。一方で、市場として大きい学生や会社員・OLだけでなく高齢者、障碍者向け文具開発に繋がるようなデータ取得に挑戦して欲しい。(長谷川)
コラーゲンペプチドの摂取による脳機能改善効果の検証 (新田ゼラチン株式会社)

(審査員コメント)

  • 摂取する用量、タイミング、食事との関係など、条件を検証するスタディが重要と考えられる。(渡辺)
  • どの程度のコラーゲンが脳に影響をおよぼすかの検証も行った方が良い取り組みになると考えられる。(根本)
  • 高齢者では生活活動量の個人差が著しい。高齢者を対象にする場合は、生活活動量の差で、脳容積が変動したり、脳機能が変化したりするため、実施期間中の生活レベルを調整したペアマッチスタディが必要であると思われる。(朴)
  • 最近、ペプチドは医薬品としても注目されつつありますが、本提案のコラーゲンペプチドは認知症動物モデルにおいて有効性を示唆する成績が得られており、ヒトでの有効性を検討する臨床試験の評価項目として脳機能画像への影響を観察することは意義があると思います。(佐藤)
  • 有意な効果が得られればサプリメントとしての事業化が可能。知的財産としてのプロテクションは考慮されているのか?好きな飲み物に溶かして摂取させた場合ペプチドの効果と分離できるのか?(向林)
  • コラーゲンペプチド製品の商品性を高める上での良いデータ取得となる。(長谷川)
ラベンダーハンドマッサージのストレス軽減により脳の健康度アップ (公益社団法人日本アロマ環境協会)

(審査員コメント)

  • この課題においては、自律神経系計測を含めた評価も重要と考えられる。(渡辺)
  • 産後は気分も不安定になりやすいため、何らかの介入方法があることは重要である。本提案は、精油やマッサージだけでなく、夫婦の時間を確保するきっかけになるため、有用と考える。介入中に実際にマッサージをきちんとしていることを担保することが正しい結果を得るために重要ではないか。(根本)
  • ラベンダとハンドマッサージが持つ個々の効果・効能に、2つを同時に施行することで相加相乗効果が期待できる。言葉を介さずに、夫婦間のコミュニケーションが改善できるところが魅力でもある。(朴)
  • 新しい事業につなげるためには、アロマとマッサージの効果について、分けて検証することも重要と考えられる。(向林)
  • 女性の社会活躍を広げるには夫婦間コミュニケーション改善が必要と考える興味あるテーマ。本実験に参加する被験女性のパートナーについても脳の変化はあるのではないか。また、マッサージをしている間の被験女性とパートナー間での会話の程度も重要なファクターと考える。(長谷川)
脳科学的アプローチによるユーグレナ摂取の効果検証及び潜在的な機能性の予測 (株式会社ユーグレナ)

(審査員コメント)

  • ユーグレナの多数の成分のうち、主なものが働くのか、相乗的にいくつかの成分が働くのか、そこが知りたいところである。また、腸内環境変化が脳機能に及ぼす影響も最近かなりの知見が出てきているので、ガセリ菌などのストレス軽減効果のメカニズムと比較することも重要である。(渡辺)
  • ユーグレナによって腸内環境および睡眠が改善されるとしたら、確かに脳によい効果がもたらされている可能性がある。しかし、ユーグレナの効果の評価に向けてはもう少し明確な仮説があった方が良い取り組みになると考えられる。(根本)
  • 世界に先駆けて成し遂げられた大量培養のユーグレナに、脳機能向上効果が認められたなら、機能性食品業界におけるインパクトは絶大である。ユーグレナ摂取による腸内環境の変化がもたらす二次的な機能性効果も魅力ある仮説である。(朴)
  • 腸内環境と脳機能の関係に着目したユニークな提案であり、脳機能画像の検討で期待どおりの結果が得られれば、ユーグレナの新たな商品展開が可能になると思われる。(佐藤)
  • ユーグレナ粉末に含まれるビタミンなどの既知の機能性成分だけでなく、検討しきれていない成分により腸内細菌を通じて脳への作用がありうるのではないか興味がある。(長谷川)

■ 実証トライアルに向けた取り組み

入選アイデアは、現在、実証トライアルを進めています。その結果については、2月23日に開催する本プログラムの公開シンポジウム及びプレスリリースにて発表を予定しています。

実証トライアルは、提案企業の責任で各提案を実施すると共に、その前後に理化学研究所、京都大学、東京大学、東京工業大学の協力を得て、MRIによる脳計測を行います。このデータを使い、当プログラムが国際標準規格として提案している手法で開発された脳の健康指標(BHQ)を用いて評価を行います。これは、標準的なMRI計測・解析手法である、脳の構造から容積値などを可視化するVBM(Voxel-based morphometry)、脳の神経線維の太さを定量化する拡散MRI、安静時の脳活動をパターン化する安静時機能的MRIなどを用いた脳情報の多面的な評価指標です。指標化に際しては、脳全体(全脳)の健康度を指標化するとともに、下位項目として、これまでの脳科学の知見を基に、認知制御・社会性・モニタリングといった機能に関連する領域に注目した指標化も行っています。これらの指標は、全体的には年齢が高いほど低下する傾向が見られており、年齢による脳の衰えを反映していると考えています。本プログラムでは、この「脳の健康指標」を様々な製品やサービスを評価する統一的な評価指標として開発と実証を進めています。この指標を使い、1ヵ月の実証活動の前後で指標の低下が抑えられたものは、脳の健康に良い影響を与える製品・サービスとして開発できる可能性があると考えています。

<本件に関する問い合わせ先>

内閣府ImPACT山川プログラム
「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現」
PM補佐 福田 紘己
Tel:03-6380-9012
E-mail: