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平成28年11月11日

大阪大学
東北大学
神戸大学
東京大学
東京工業大学
科学技術振興機構(JST)
内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

遠隔操作性と繊細な作業性を備えた建設ロボットを開発

~ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジによる新しい災害対応重作業ロボットの開発~

ポイント


建設ロボット実験機

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所 諭)の一環として、研究開発課題「災害対応建設ロボットの開発」(責任者:大阪大学 大学院工学研究科 吉灘 裕(ヨシナダ ヒロシ) 特任教授(常勤)、神戸大学 大学院工学研究科 横小路 泰義(ヨココウジ ヤスヨシ) 教授、東北大学 未来科学技術共同研究センター 永谷 圭司(ナガタニ ケイジ) 准教授、東北大学 大学院情報科学研究科 昆陽 雅司(コンヨウ マサシ) 准教授、東京大学 大学院工学系研究科 山下 淳(ヤマシタ アツシ) 准教授、東京工業大学 工学院システム制御系 田中 正行(タナカ マサユキ) 准教授らは、従来の建設機械と比較して、作業性・機動性を飛躍的に高めた災害対応重作業ロボット(建設ロボット)の実験機(右図)を開発しました。

このたび本研究開発で開発を進めている主な要素技術を搭載した実験機での一連の評価により、開発コンセプトに描いた建設ロボットの実現に目処が得られました。本実験機は、外観は通常の油圧ショベルですが、従来の建設機械に比較して飛躍的に良好な運動特性と、力覚と触覚の提示機能を付与して、精密で確実な作業の実現を目指しています。また有線給電ドローンによる長時間周辺監視と、任意視点の俯瞰画像生成や霧などを透過して映像を取得する極限画像処理システムを搭載することにより、ロボットの外にカメラを置かずとも、対象物や地形を、視点を変えながら見ることができ、複雑な地形でも容易で安全な移動を可能としました。

今回性能を確認した要素技術以外にも、複数の有用な要素技術の開発を行っています。今後、順次それらの要素技術の評価を進め、より高い作業性、対地適応性の実現を目的として、2重旋回機構と複腕を有する新しいロボットの開発を進めます。

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT) https://www.jst.go.jp/impact/

プログラム・マネージャー 田所 諭
研究開発プログラム タフ・ロボティクス・チャレンジ
研究開発課題 災害対応建設ロボットの開発
研究開発責任者 吉灘 裕
研究期間 平成26年度~平成30年度

本研究開発課題では、パワフルさと繊細かつ器用な作業性とを併せ持つ災害対応重作業建設ロボットの開発に取り組んでいます。

<田所 諭 プログラム・マネージャーのコメント>

PM

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創りだし、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的とし、プロジェクト研究開発を推進しています。

無人化施工など、これまでに種々の遠隔操作建設ロボットが開発され、地震災害や福島第一原発事故などで実績を上げてきました。しかしながら、作業効率、精度、行える作業種類などの点で限界があり、原発事故においてすら、作業員が搭乗して操縦しなければならない現場が数多くあったのも事実です。ImPACTで研究開発を進めている建設ロボットでは、油圧システムの精度を飛躍的に高めるとともに、搭乗建設機械を越える視覚情報を操縦者に提供して対象物3次元形状の正確な把握を可能にし、さらには、対象物に触れる際の反力や接触の感覚をあたかも触っているかのようにリアルタイムに伝えることによって、これまでの遠隔操作の問題点を非連続に解決しようとしています。これを実用化することによって、建設ロボットによる災害復旧・対応能力が飛躍的に向上すると期待されます。

<研究の背景と経緯>

土砂崩れや建物の倒壊などの災害対応作業には、多くの場合、建設機械が投入されています。中でも油圧ショベルは、クローラを用いた走行機構がもたらす走破性と、多関節の作業機が可能とする多機能な作業性により、災害現場での中心的な役割を担っています。しかし油圧ショベルは、大きな力で地面を掘削する機械のため、繊細な力のコントロールや微細な作業は得意としていません。このため被災現場の状況によっては現場への投入が困難な場合がありました。また油圧ショベルは、使用している機器の制約から、駆動システムに大きなヒステリシス注1)と0.1~0.2sec程度の無駄な時間があり、様々な制御則、とくにサーボ制御注2)の織込みは容易ではなく、自在な運動特性を実現することが難しい機械です。

災害対応では、オペレータにも危険が及ぶ状況が予想されるため、遠隔で機械を操作できることが必要です。油圧ショベルには、ラジコンの遠隔操縦装置がオプションとして準備されていますが、多くは100m以内の距離からの直視による遠隔操作であり、災害現場への対応としては十分ではありません。画像伝送を用いた長距離の遠隔操作には、雲仙普賢岳の砂防工事などに用いられた無人化施工システムがありますが、比較的定型的な作業に限定されること、作業性を高めるためには油圧ショベルの周囲に複数のカメラ車を配置する必要があることなど、使用できる状況は限定されています。また遠隔操作時は作業効率が搭乗操作時の60%程度に低下することが大きな課題となっています。

本研究グループは、ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジの共同研究開発の一つのテーマとして、これらの課題を解決した災害対応の重作業ロボットの開発を進めてきました。このたび開発中の要素技術を搭載した実験機を用いて、災害現場を模擬した評価試験フィールドにて実証試験を行い、一定の性能が確認されました。

<研究の内容>

上述の課題を解決する新たな建設ロボットを開発しました。今回開発した建設ロボットによれば、遠隔でロボットを操縦するオペレータが、まるで対象物を触っているかのような反力と触覚を感じながら、精密で確実な作業ができます。また、ロボットの外にカメラを置かなくとも、対象物や地形を、視点を変えながら見ることができ、また、霧がかかっていても見ることができるため、精密な作業や複雑な地形での移動が容易になります。具体的には下記のような要素技術を含んでいます。

<今後の展開>

今回性能を確認した要素技術以外にも、複数の有用な要素技術の開発を行っています。今後、順次それらの要素技術の評価を進めていきます。また、より高い作業性、対地適応性の実現を目的として、2重旋回機構注13)と複腕を有する新しいロボットの開発を進めており、このロボットに開発した要素技術を統合して搭載する計画です(図9)。

<参考図>

図1 新しい油圧制御システム・制御手法による応答性の例

図2 力覚のフィードバックシステム

図3 神戸大の実験機での鉛直押付け実験の様子

図4 押付け力の推定結果   

図5 振動情報を用いた接触情報の伝達システムの例

図6 有線給電ドローン

図7 リアルタイムでの任意視点からの俯瞰映像提示例

図8 霧の有無における通常の可視光カメラ画像と遠赤外線カメラ画像の例

図9 建設ロボット最終コンセプト

<用語解説>

注1) ヒステリシス
量Aの変化に伴って量Bが変化する際に、Aが増加する時と減少する時で、同じAの値に対するBの値が異なる現象。
注2) サーボ制御
物体の位置、速度、力などを、任意の目標の変化に追従するように制御する制御法。
注3) 慣性質量
物体に力を加えると物体は加速運動をするが、加速度の大きさは物体の質量によって異なる。この質量を慣性質量と呼ぶ。
注4) 慣性/トルク比
ロボットアームなどを制御する際に、アームが持つ慣性質量とそれを駆動するアクチュエータの最大トルクの比。一般にこの値が大きくなるほど制御は困難になる。
注5) オーバーシュート
位置、速度、力などを制御する際に、それらが目標値を超えて行き過ぎること。
注6) 発振
位置、速度、力などを制御する際に、それらが制御目標値に収束せずに振動してしまう状態。
注7) 油圧コンポーネント
ポンプ、バルブなどの油圧システムを構成する機器のこと。
注8) コンプライアンス制御
ロボットのアームにおいて、アームの位置と力の両方を組み合わせて制御することにより、バネのようなしなやかさを実現する制御法。
注9) 力覚フィードバック
遠隔地のロボットを操縦したり、バーチャル空間内の物体を操作したりするときに、接触等によって発生した力を操縦者に提示する技術。力覚フィードバックにより、あたかも実物体に触れたかのような感覚を得ることができるので、直感的な操縦(操作)が可能となる。
注10) ハプティックデバイス
バーチャルリアリティや遠隔操縦において、ユーザー(操縦者)に力覚や触覚を提示する装置の総称。“ハプティック”は、ギリシャ語を語源とする「触覚に関する」という意味を持つ英語の形容詞“haptic”からくる。
注11) バイラテラル制御
遠隔操縦における制御手法の一種であり、操縦側(マスタ)から遠隔地のロボット(スレーブ)に運動指令を送るだけでなく、遠隔地のロボットから逆に操縦側に力覚情報などを指令値として送り返す双方向(バイラテラル)の制御となっているもの。操縦側から遠隔地のロボット(スレーブ)に運動指令を一方的に送るだけの制御手法をユニラテラル制御と呼ぶ。
注12) 時空間データ
時刻と場所の情報を付加したデータのこと。ここでは、魚眼カメラを用いて撮影した映像に関して、どの時刻に・どの場所で・どのカメラから撮影した映像であるかを整理してデータ化した動画像のことを指す。
注13) 2重旋回機構
通常の油圧ショベルは一つの旋回機構しか持たないが、この旋回機構の上にもう一段旋回機構を重ねた構造。今回のプロジェクトのために開発されたものである。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

吉灘 裕(ヨシナダ ヒロシ)
大阪大学 大学院工学研究科 特任教授(常勤)
〒565-0826 大阪府吹田市山田丘2-8 テクノアライアンス棟 A-904号室
Tel:06-6875-7220
E-mail:

横小路 泰義(ヨココウジ ヤスヨシ)
神戸大学 大学院工学研究科 教授
〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1
Tel:078-803-6341
E-mail:

永谷 圭司(ナガタニ ケイジ)
東北大学 未来科学技術共同研究センター 准教授
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-10
Tel:022-795-4317
E-mail:

昆陽 雅司(コンヨウ マサシ)
東北大学 大学院情報科学研究科 准教授
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-01
Tel:022-795-7025
E-mail:

山下 淳(ヤマシタ アツシ)
東京大学 大学院工学系研究科 准教授
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-6457
E-mail:

田中 正行(タナカ マサユキ)
東京工業大学 工学院システム制御系 准教授
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1 S5-18
Tel:03-5734-3270
E-mail:

<ImPACT事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
Tel:03-6257-1339

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-6380-9012 Fax:03-6380-8263
E-mail:

<報道担当>

大阪大学 工学研究科 総務課 評価・広報係
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-1
Tel:06-6879-7231 Fax:06-6879-7210
E-mail:

東北大学 大学院情報科学研究科 総務係
〒980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3-9
Tel:022-795-5813 Fax:022-795-5815
E-mail:

神戸大学 総務部 広報課
〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1
Tel:078-803-6696 Fax:078-803-5088
E-mail:

東京大学 工学部・大学院工学系研究科 広報室
〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-1790 Fax:03-5841-0529
E-mail:

東京工業大学 広報センター
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1
Tel:03-5734-2975 Fax:03-5734-3661
E-mail:

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

(英文)“A remote-controlled construction robot capable of fine manipulation developed”