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平成28年7月14日

東北大学 多元物質科学研究所
科学技術振興機構(JST)

導電性・耐食性に優れた
大表面積スポンジ状グラフェンの開発に成功

~ナノ細孔が柔軟に変形~

ポイント

東北大学 多元物質科学研究所の西原 洋知 准教授および京谷 隆 教授、アリカンテ大学(スペイン)のベレンガー・ラウル 博士らの研究グループは、細孔壁注1)が主に単層グラフェン注2)から成るメソ多孔体注3)「グラフェンメソスポンジ」を開発しました。活性炭のような高い比表面積注4)を有しながら、黒鉛のような導電性と耐食性に優れる、約5.8nmの微小な穴(細孔)をもつスポンジ状の材料です。高い電圧をかけても劣化しないため、この材料を用いた電気二重層キャパシタ注5)において、従来の2倍以上のエネルギー密度を達成しました。この材料は、燃料電池など多孔性と耐食性の両立が求められるさまざまな場面での応用が期待できます。さらに、柔軟かつ強靭なグラフェンの性質から、この材料は柔軟性に優れ、細孔の大きさを0.7nm以下まで可逆的に変形できます。まるでスポンジのように、ナノサイズの細孔内部に取り入れる物質の量を外力によって調節することができるため、新しい原理に基づくエネルギー変換デバイスの構築に繋がると期待されます。

本成果は、平成28年7月14日(ドイツ時間)にAdvanced Functional Materials誌にてオンライン公開されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「超空間制御と革新的機能創成」研究領域(研究総括:黒田 一幸 早稲田大学 理工学術院 教授)における研究課題「応力で自在に変形する超空間をもつグラフェン系柔軟多孔性材料の調製と機能開拓」(研究者:西原 洋知 東北大学 多元物質科学研究所 准教授)、文部科学省 科学研究費補助金(基盤研究A「ゼオライト鋳型炭素のリチウムイオン二次電池用正極材料への応用」(代表者:京谷 隆))の一環として行ったものです。

<研究の背景と経緯>

2010年にノーベル物理学賞を受賞したことで知られる「グラフェン」は2次元のシート状物質であるため、その応用先は主に薄膜や電子デバイスなど2次元的な用途に限定されていましたが、近年、グラフェンを3次元的な骨格をもつ多孔体にすることで、吸着や触媒、電池等エネルギー関連の各分野に応用する検討が活発に行われています。大雑把に例えると、1枚の紙(2次元のシート状物質)をくしゃくしゃに丸めてボール状(3次元的な骨格をもつ多孔体)にする、という発想です。

現在、炭素系多孔体として広く利用されているのは、直径数nm以下の微小な孔(細孔)をもつ活性炭です。活性炭も基本的にはグラフェンから構成されていますが、その構造は小さい断片状であるため導電率が低く、またグラフェンに端の部分(エッジ)が大量に存在するため腐食しやすいという欠点がありました。そこで近年、世界中の研究者が積層やエッジの無い高品質なグラフェンから成る多孔体の合成に取り組んでいます。高品質なグラフェンを作るには、600~1000℃程度の高温で金属触媒上に直接グラフェンを成長させるか、もしくは低結晶性のグラフェンをおよそ1800℃以上の超高温で熱処理する必要があります。

しかし、ナノサイズの金属は600℃以下で溶融してしまうため、金属を用いた方法では目的とする物質は得られません。また低結晶性のグラフェンから成る多孔体を1800℃で熱処理すると、激しく構造が収縮して多孔性が著しく低下してしまうため、従来の方法では10nm以下の微小な細孔をもつ材料の合成は不可能でした。

<研究の内容>

今回の研究では図1に示すように、アルミナナノ粒子を鋳型とした比較的結晶性の高い炭素多孔体(CMS)を合成し、熱処理を行いました。1800℃の高温でも多孔体構造の収縮が全く生じず、高品質な単層グラフェンを主成分とする炭素多孔体に転換できることを見出しました。メソ孔と呼ばれる微小な細孔をもつ発泡体のような構造であることから、我々はこの材料をグラフェンメソスポンジ(GMS)と名付けました。

従来の代表的な炭素材料である黒鉛、カーボンブラック、活性炭と、GMSの特徴を分かりやすく比較したものが図2になります。黒鉛は広大なグラフェンが規則正しく積層した構造体であり、グラフェンの端の部分はごく僅かであるため導電性と耐食性に優れますが、比表面積はほぼ0です。活性炭は断片状のグラフェンが凝集した構造体で微小な細孔が大量に存在するため、比表面積は最大で2600m/g程度と大きいのですが、グラフェンの端も大量に存在するため導電性と耐食性は低い材料です。また、カーボンブラックは球状の炭素ナノ粒子が数珠状に連結した構造体であり、導電性、耐食性、比表面積はいずれも黒鉛と活性炭の中間的な値をとります。3つの代表的な材料以外にも、これまで多くの炭素材料が開発されてきましたが、ほとんどの場合で導電性・耐食性と比表面積はトレードオフの関係にあり、これらを両立する材料の実現は困難でした。

今回合成したGMSは腐食の原因となるグラフェンの端がほとんど無い構造であるため、活性炭(1000~2600m/g)のように高い比表面積(1940m/g)をもちながらも、カーボンブラックに勝る導電性と耐食性を有しています。このため、吸着剤、触媒担体、電極材料、導電助剤などの用途において、従来利用されてきた活性炭やカーボンブラックの性能を大幅に上回る新材料として期待できます。

図3に、GMSを電気二重層キャパシタ(EDLC)の電極材料として利用した場合の利点を説明します。EDLCは充放電デバイスの一種ですが、貯められるエネルギーの量(エネルギー密度)はリチウム電池の約1/10であるため、さらなる向上が求められています。EDLCのエネルギー密度は以下の式で決まります。

=(1/2)CV

は静電容量、はEDLCの作動電圧です。図3に示すように、EDLCの電極には活性炭が使用されています。これは、比表面積が大きい材料を使うと静電容量を大きくできるからです。ところが活性炭はグラフェンの端を大量に含んでおり劣化が生じやすいため、作動電圧を約2.8V以上にすることはできません。GMSは活性炭のように高い比表面積を有していますがグラフェンの端が無いため、静電容量は大きいままで、作動電圧を4V程度まで増加させることができます。したがって従来の約2倍のエネルギー密度を達成できます。

GMSはまた、固体高分子形燃料電池のPt担体として、従来の材料であるカーボンブラックより長寿命が期待できます。ほかにも、リチウムイオン電池などにおける導電助剤やその他各種充電池の素材として、さまざまな応用が期待できます。

グラフェンは柔軟性と強靭な引張強度を兼ね備えていますが、GMSもこの特性を引き継いでおり、まるでスポンジのように柔軟に弾性変形します(図4)。応力印加により、その細孔サイズは約5.8nmから0.7nm以下まで可逆的に変形させることができます。近年、有機金属構造体など有機系多孔体の分野で、ナノ細孔の弾性変形が注目されていますが、無機系・有機系を問わず、このように大きく弾性変形する材料はこれまでに例がありません。まるでスポンジのように、ナノサイズの細孔内部に取り入れる物質の量を外力によって調節することができるため、新しい原理に基づくエネルギー変換デバイスの構築に繋がると期待されます。

<参考図>

図1 グラフェンメソスポンジ(GMS)の合成スキーム

図2 従来の炭素材料とGMSの比較

図3 従来の活性炭を使用したEDLCの概略と、GMSの利点

図4 GMSの柔軟性

<用語解説>

注1) 細孔壁
「細孔」とは材料の内部に存在する微小な穴(孔)のこと。細孔壁とは、細孔を取り囲む固体部分の名称。
注2) 単層グラフェン
グラフェンは元来1枚のシート状物質のことを差すが、近年ではグラフェンが数枚積層したものも「グラフェン」と表現する場合が多い。「単層グラフェン」は、積層が無い1枚のグラフェンのこと差す。
注3) メソ多孔体
細孔はその大きさによって、ミクロ孔(2nm以下)、メソ孔(2~50nm)、マクロ孔(50nm以上)に分類される。メソ孔を大量に含有する多孔体のことをメソ多孔体と呼ぶ。
注4) 比表面積
材料がもつ表面積(m)を、その重量(g)で割った値。比表面積(m/g)が大きい程、分子やイオンを吸着する能力が高くなる。
注5) 電気二重層キャパシタ
電気二重層キャパシタは、アルミ電解コンデンサとリチウムイオン電池の中間的な性能をもつ蓄電デバイスである。英語名はElectric double-layer capacitorで、頭文字を取ってEDLCと略記される。リチウムイオン電池は電極材料の酸化還元反応によって充放電するが、電気二重層キャパシタは電解液と電極材料との界面に形成される電気二重層によって充放電する。電極材料には比表面積が大きく導電性をもつ活性炭が使用されている。リチウムイオン電池に比べ、充放電速度が約10倍程度大きい利点があるが、貯められるエネルギーの量(エネルギー密度)は約1/10程度であるため、エネルギー密度の向上が課題とされている。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

京谷 隆(キョウタニ タカシ)
東北大学 多元物質科学研究所 教授
Tel:022-217-5625
E-mail:

西原 洋知(ニシハラ トモヒロ)
東北大学 多元物質科学研究所 准教授
Tel:022-217-5627
E-mail:

<JST事業に関すること>

鈴木 ソフィア沙織(スズキ ソフィアサオリ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3525 Fax:03-3222-2066
E-mail:

<報道担当>

東北大学 多元物質科学研究所 総務課総務係
Tel:022-217-5204
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科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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