九州大学 安達 千波矢 主幹教授(最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)・センター長)が内閣府 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)において開発に成功した第三世代有機EL発光材料(TADF注1)材料)の実用化を担うスタートアップ企業(株)Kyulux(代表取締役 佐保井 久理須)を平成27年3月に設立しました。この度、(株)Kyuluxは総額15億円の資金を調達(2月末予定)し、実用化に伴う技術の特許に関して権利者である九州大学らと実施許諾等を締結、本技術を世界中で実用化できる体制を構築しました。
また、福岡県、福岡市が推進するグリーンアジア国際戦略総合特区事業の認定を受けたことにより、特区の支援も活用しながら九州大学を中心に地域の産学官連携体制を構築してTADFの実用化を推進していきます。
<意義>
九州大学 安達 千波矢 主幹教授が内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)において、2012年12月に第三世代の有機EL発光材料であるTADF(熱活性化遅延蛍光)材料の開発に成功しました※1。TADF材料は、レアメタルを使わずに、発光の励起子発生メカニズムにかかわる一重項と三重項励起状態のエネルギーギャップを小さくする分子設計により、電子を光へほぼ100%の効率で変換できる新しい有機発光材料です。低コスト・高効率発光を可能とし、また、無限の分子設計の自由度を最大限生かせる夢の発光材料の創出と位置付けることができます。また、蛍光材料を発光材料とする有機EL素子の発光層中に、TADF材料をアシストドーパント注2)としてドーピングすることにより、蛍光分子からのEL発光効率を究極の100%まで向上させることに成功しました※2。これにより、高効率、低コストに加え、高純度の発色を実現する究極の発光技術Hyperfluorescenceが実現可能となりました。このHyperfluorescenceは次世代の有機ELディスプレイを実現する画期的な技術として、世界のディスプレイメーカーから注目されています。
また、九州大学では、我が国の科学技術振興戦略である「科学技術イノベーション総合戦略」等において大学発ベンチャーの活性化が重要視されていること等を踏まえ、本学の研究シーズを社会へ還元し経済成長のひとつとなるよう九州大学発のベンチャー企業を支援する取り組みを進めています。
このような観点から、九州大学が誇る世界的に注目されている上記の研究成果のベンチャー企業への移転ともいえる本取り組みは、我が国発の技術が世界に拡がっていく第一歩の取り組みと考えており、重要かつ意義深いものと考えています。
※1 2012年12月13日プレスリリース「第3世代有機EL発光材料の開発に成功—Hyperfluorescenceの誕生−」(Nature, 492 234-238, 2012)
※2 2014年5月27日プレスリリース「蛍光分子から100%のEL発光効率を実現する新発光機構による有機EL素子の開発に成功」(Nat. Commun., 5, 4016, 2014)
<内容>
《(株)Kyulux設立 》
2015年3月にTADFおよびHyperfluorescenceを実用化するため、安達 千波矢、佐保井 久理須、安達 淳治、水口 啓の4名によって設立された技術開発型ベンチャーです。現在、福岡市産学連携交流センター(FiaS)を拠点に、九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター(OPERA)でTADFの材料開発に従事した研究者、企業において有機EL開発に携わった技術者を中心に材料開発を進めています。なお、安達 千波矢 主幹教授は、技術アドバイザーとして参画しています。
《 技術移転 》
(株)Kyuluxは2015年4月に九州大学らとTADF材料およびHyperfluorescenceの基本特許について実施許諾契約を締結し、その実用化を進めてきました。この度、基本特許以外の特許についても、契約を締結するに至りました。その結果、FIRSTの成果であるTADF材料に関する技術が(株)Kyuluxに集約され、2018年に予定している製品化に向けた活動の加速が期待されます。
なお、九州大学はTADF関連特許の外国出願および権利化において、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)から、重要知財集約活用「知財FS型」(外国特許出願支援)による支援を受けました。
《 資金調達 》
九州大学の特定関連会社である産学連携機構九州(九大TLO)、西日本シティ銀行等が出資し設立したQBキャピタル(QBC)をはじめ、ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル他のベンチャーキャピタル(VC)、事業会社等に加え、JSTが推進する「出資型新事業創出支援プログラム:SUCCESS」からの出資を含む総額15億円の資金を調達(2月末予定)しました。また、特許に関する契約の対価として九州大学は(株)Kyuluxの株式を取得し、資本参加いたします。
《 経営参加 》
(株)Kyulux社外取締役としては、QBC代表パートナー 坂本 剛が就任を予定しており、前職である九大TLOの代表として培った大学発ベンチャー支援、技術移転、産学連携の実績を経営に活かすとともに、QBCが運用するQB第一号ファンドへの出資者(有限責任組合員:西日本シティ銀行等)からの支援が期待されます。
《 グリーンアジア国際戦略総合特区事業の認定 》
(株)Kyuluxは2016年1月14日に福岡県が推進するグリーンアジア国際戦略総合特区の指定法人として指定されました。また、同じく2016年1月14日福岡市における指定法人となりました。この指定により法人税の軽減、福岡市から固定資産税・都市計画税の課税免除の支援措置を受けることができます。
なお、この特区の支援措置とは別に、福岡市からは立地交付金の適用を受けています。
《 産学官連携 》
TADFの開発および実用化には以下に示す公的支援をこれまで受け、一部現在も推進中です。(株)Kyuluxを核とし、九州大学OPERA、公益財団法人福岡県産業・科学技術振興財団(ふくおかIST)、有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA)、公益財団法人九州先端科学技術研究所(ISIT)、福岡市産学連携交流センター(FiaS)は、有機光エレクトロニクス産業化に向けた産学官連携拠点として、先端材料におけるわが国の国際競争力強化に寄与していきます。
<効果>
TADFおよびHyperfluorescenceが実用化されることで、有機EL材料は新たな開発ステージを迎えます。無限の分子設計を可能とするTADFは、高効率、低コストのみならず、高純度の発色と高強度のEL発光を実現できます。その結果、日中屋外でも視認性の良い鮮やかな映像を楽しむことができ、モバイルディスプレイの性能向上だけでなく、屋外での新しい用途の開発につながります。また、省エネ効果が上がり、携帯機器の長時間使用を可能にします。
<今後の展開>
九州大学からの基本特許の実施許諾等によって、(株)KyuluxはTADFの製造・販売を独占的に行うことが可能となります。今後は、九州大学が論文等で公表している材料を中心に、大学等の研究機関へのTADF材料の販売を予定しています。また、第二世代のリン光材料で実用化できていない青色のTADF、Hyperfluorescenceの実用化を進めます。
新聞報道によりますとApple社は2018年に有機ELディスプレイの採用を計画しており、この報道の後、世界のパネルメーカーが量産能力の拡大や量産技術開発を行うことを表明しています。この動きに対応し、今回調達した資金を活用し開発体制を強化し、新たなデバイス作製装置、材料合成・精製装置等の導入により、青色TADF、Hyperfluorescenceの開発を加速させ、(株)Kyuluxは2018年の商品化を目指します。また、緑色、赤色TADFの開発も同時に進め、将来はRGBすべての色を実用化し、日本発のTADF、Hyperfluorescenceが有機EL発光材料の世界標準となることで、わが国の先端材料分野の国際競争力の強化を図ります。最後に、九州大学OPERAにおいては、JST-ERATO安達分子エキシトン工学PJ、JST センターオブイノベーション(COI)プログラム 共進化社会システム創成拠点、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)等の研究プログラムを通じて、更なる有機分子の無限の可能性にチャレンジし、未来の有機半導体の学理の開拓に取り組んで参ります。
<研究支援/事業化支援関係>
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内閣府/独立行政法人日本学術振興会(JSPS) 最先端研究開発支援プログラム(FIRST)「スーパー有機ELデバイスとその革新的材料への挑戦」(中心研究者 安達 千波矢:2009年〜2013年補助事業、事業規模32.4億円)
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国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「超高速・超省電力高性能ナノデバイス・システムの創製」
平成14年度採択研究代表者「有機半導体レーザーの構築とデバイス物理の解明」安達 千波矢(九州大学 未来化学創造センター 教授:2002年〜2007年)においての研究期間において、本研究成果の着想を得ています。
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経済産業省 イノベーション拠点立地支援事業「技術の橋渡し拠点」整備事業:(2010年補助事業、事業規模9億円)ふくおかISTが有機光エレクトロニクス実用化開発センター(i3-OPERA)を設立し、福岡県、福岡市の運営支援を受け、実用化開発拠点として活動しています。
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経済産業省 「先端技術実証・評価設備整備費等補助金」:2012年補助事業、九州大学/平田機工株式会社「第三世代有機EL発光材料TADF実証装置開発」(事業規模1.9億円)により、TADF材料評価を効率的に行うためのコンビナトリアル有機ELデバイス製造装置を開発しました。現在、九州大学との共同研究において使用し、実用化開発を進めています。
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国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 重要知財集約活用「知財FS型」(外国特許出願支援)を活用し、九州大学OPERAによる外国特許の取得に向けての出願等、費用支援と特許主任調査員による目利きにより、総合的な支援を受けています。
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国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 出資型新事業創出支援プログラム:SUCCESSを活用し、(株)Kyuluxへの出資を受け、九州大学OPERAの研究開発成果の実用化に向けた支援を受けています。
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国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 「中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業」:2015年助成事業、(株)Kyuluxが「ディスプレイ・照明向け青色発光新規TADF材料の実用化事業」(事業規模9,200万円)の助成を受け、橋渡し研究機関である九州大学と青色TADFの研究開発に取り組んでいます。また、i3-OPERAと連携し、有機ELデバイスの試作・評価を進めています。
<参考図>
図1 有機EL発光の基本原理
図2 有機ELが拓く未来イメージ 提供:九州大学
<用語解説>
- 注1) TADF(Thermally Activated Delayed Fluorescence)
- 励起三重項状態から励起一重項状態への逆エネルギー移動を熱活性化によって生じさせ、蛍光発光に至る現象を示します。三重項経由で発光が生じるために一般に寿命の長い発光が生じることから遅延蛍光と呼ばれます。
- 注2) アシストドーパント
- 通常、有機ELの発光層はホストと発光ドーパントから形成され、発光ドーパントからのEL発光が得られます。TADF材料を発光層中に添加することで、電気励起により生成された全ての励起子を発光ドーパントへ移動することが可能となり、高効率なEL発光を発現することができます。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
九州大学 最先端有機光エレクトロニクス研究センター センター長
安達 千波矢
Tel:092-802-6920 Fax:092-802-6921
E-mail:
株式会社Kyulux 代表取締役CTO
安達 淳治
Tel:092-834-9518 Fax:092-834-9618
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<報道担当>
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