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平成28年1月5日

京都府立医科大学
科学技術振興機構(JST)

ヒトの『進化の記憶』を鳥の脳から解き明かす
~哺乳類大脳の進化過程の一端に迫る研究論文が掲載~

京都府立医科大学 大学院医学研究科 神経発生生物学 野村 真 准教授の研究グループは、哺乳類脳と鳥類脳で共通したメカニズムや同様の神経幹細胞が存在することを発見しました。

本研究成果は、電気穿孔法を用いた他の動物の細胞との比較検証により、哺乳類大脳皮質の進化的起源に迫る手がかりとなるもので、今後は小頭症やその他の先天性脳神経疾患などの原因究明へと進展していくことが期待されます。平成28年1月5日(火)に英国科学雑誌『Development』のオンライン速報版に掲載されます。

<研究の内容>

ヒトを含む哺乳類の大脳皮質は、脳の中でも最も主要な部分として、感情情報を統合し記憶や認知機能を司る中枢ですが、哺乳類の進化の過程でどのようにして獲得されたかは謎に包まれていました。

これまでの研究は哺乳類の脳の発生過程だけに注目し、他の動物の脳の発生過程を比較した研究はほとんど報告されていなかったため、本研究では、羊膜類の中でも哺乳類と同様に大きく発達する鳥類の大脳の発生過程を解析しました。電気穿孔法という簡便かつ多量に外来遺伝子を生体組織に導入できる方法によって神経幹細胞が産生されるメカニズムを解析した結果、哺乳類脳と鳥類脳に共通した発生プログラムや、鳥類脳独特の発生プログラムを解明しました。その結果、哺乳類、特に霊長類の大脳皮質に多く存在する神経幹細胞と同様の特徴を持つ細胞が鳥類にも存在することを発見しました。

本研究結果から、進化の過程で哺乳類と鳥類が共通したメカニズムによって大きな脳を獲得したことが推測されました。

鳥類は哺乳類と同様に社会性や高度な知性を持っていることが明らかとなっており、本研究は哺乳類の知性の基盤となる脳の進化起源に迫る手がかりとして、今後、哺乳類独特の大脳皮質の発生に伴う様々な疾患の解明にも貢献することが期待されます。

本研究は、東京都医学総合研究所、愛媛大学、東北大学、日本大学、ドレスデン再生治療センターと共同で行ったものです。

<参考図>

図1 哺乳類、爬虫類、鳥類の系統関係

これらは羊膜類と呼ばれる動物群に含まれ、共通の祖先から進化したと考えられている。羊膜類の中でも、哺乳類、鳥類は特に大きな大脳を持ち、社会性や高度な知性を発達させている。

図2 哺乳類、鳥類大脳における神経細胞の産生様式の比較

哺乳類では、脳室側の前駆細胞(A)が増殖し、基底膜側の前駆細胞(B)を産生する。基底膜側の前駆細胞の一部は Tbr2と呼ばれる転写因子を発現している。一方、鳥類にも哺乳類と同様な基底膜側の前駆細胞が存在しているが、鳥類ではTbr2を発現する細胞は分裂能力を失っている。

<論文情報>

The evolution of basal progenitors in the developing non-mammalian brain
(発生期の非哺乳類脳における基底膜側の前駆細胞の進化)
野村 真、丸山 千秋、村上 安則、若松 義雄、鈴木 久仁博、Federico Calegari、後藤 仁志、小野 勝彦
doi :10.1242/dev.127100

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

野村 真(ノムラ タダシ)
京都府立医科大学 大学院医学研究科 神経発生生物学 准教授
Tel:075-703-4941
E-mail:

<JST事業に関すること>

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川口 哲(カワグチ テツ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>

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