JSTトッププレス一覧 > 共同発表

平成27年11月10日

信州大学 アクア・イノベーション拠点
科学技術振興機構(JST)

汎用性のあるセルロースの高強度ゲル形成プロセスの発見
~脱石油由来の水処理用部材に適用へ~

ポイント

セルロースは植物組織の構成成分の三分の一を占め、地球上に最も多く存在する有機再生可能資源で、しかも化石資源に依存せずに入手が可能です。このため、19世紀半ばに木材パルプを主原料とするレーヨンが発明されて以来、さまざまなセルロースの成形手法が開発され、人類は再生繊維などセルロース由来の製品を多く利用してきました。しかしながら、セルロースは、分子間の強固な水素結合のため溶解させるのが難しく、セルロースを多様な形態に成形するには、二硫化炭素等の環境負荷の高い溶媒を用いる、もしくは誘導体化による溶解性の付与が必要でした。2002年にSwatloskiら注1)によってセルロースが環境負荷の低いイオン性液体注2)に溶解できることが報告されて以来、セルロースを溶解できるさまざまなイオン性液体が開発されました。その中でも、東京農工大学の大野 弘幸 教授らが開発したN-ethyl-N’-methylimidazolium methylphosphonate([C2mim][(MeO)(H)PO])は、低い温度で比較的高い濃度のセルロースを溶解することができます。本研究では、市販のイオン性液体[C2mim][(MeO)(H)PO]を用いました。

実験では、木材由来パルプをイオン性液体に溶解させ、溶解した液を型に流し込みアルコール蒸気に1時間程度晒すことで、セルロース間に部分的な水素結合が生じ、溶液全体が固化(ゲル化)しました。さらに、得られたゲルを水に漬けることで溶媒が置換され、水を95%以上含むセルロースハイドロゲルを創成することに成功しました(図1)。得られたゲルは、寒天に比べ非常に高い強度を持ち、取り扱いや化学的修飾が容易で、生分解性注3)があり、マイクロメーターサイズのパターン形成が可能なことなど、高い機能性を持つことを確認しました。

さらに、アルコール蒸気を用いた湿式紡糸法注4)によって、95%の水を含むセルロースハイドロゲルを連続的に紡糸することに成功しました(図2)。得られたセルロースハイドロゲルの糸は、結ぶことができ、織りのプロセスによってセルロースハイドロゲル繊維からなる二次元状の布に成形することにも成功しました。さらに、紡糸のプロセスでハイドロゲルの繊維を引っ張る(延伸)ことで、得られる繊維の強度が大幅に向上できることを見出しました。これは、延伸によりセルロース分子の配列が一方向に整ったことによるものです。また、ストロー状の中空糸注5)への成形にも成功し、膜としての高い透水性を確認しました。これにより、本方法による再生セルロースの中空糸膜への展開が可能となりました。

本研究の成果を総括すれば、再生可能資源であるセルロースをイオン性液体に溶解させ、段階的に溶媒を置き換えることによって、用途に合わせた形に成形できることが見出されたと言えます。得られた成形体は、生分解性を保ちつつ高い強度を持ち、温度やpHなどの変化によって物性が変わらないなど高いロバスト(頑強)性を示しました。さらに、成形に用いたイオン性液体はほぼ完全に回収・再利用が可能であり、クリーンかつ省エネルギーのセルロース成形プロセスの確立が期待できます。成形手法の高度化によって再生セルロース膜内のサブナノ孔構造注6)制御も可能です。今後はナノ構造を制御したセルロース中空糸膜をモジュール化し、水処理プロセスへの応用について研究を進めていきます。

<発表の背景>

この研究成果は、科学技術振興機構(JST)が推進するセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラム**の「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の中核拠点として、「活気ある持続可能な社会を構築する」という将来ビジョンに向け、信州大学などが取り組む革新的な造水・水循環システムの構築を目指す研究の一環で得られた成果です。

プロジェクトチームが、世界的な水不足を解消するために注目したのが、海水、随伴水、かん水注7)という3つの水源で、これらはすべて塩分を含んでいます。脱塩のためにキーテクノロジーとして取り組んでいるのが、従来のポリアミドに替わるナノカーボンを使った逆浸透(RO)膜の研究開発です。

サブ研究リーダーの木村教授の研究グループは、ナノカーボンを用いるアプローチとは異なる方法ながら、マングローブなど海水淡水化やウィルス除去が可能な植物の根を再現することを目指し、「サブナノ孔形成」というアプローチで、セルロースなど生分解性を持つ材料を使った水処理膜の開発を試みてきました。

今回の方法で開発されたセルロース材料は、水を多く含んで柔らかく、高強度であらゆる加工が簡単なうえに、生分解性があるという性質を持ち、水処理材料だけにとどまらず、食品・薬品の加工などさまざまな用途に役立つことが期待されます。

Scientific Reports誌

Mutsumi Kimura, Yoshie Shinohara, Junko Takizawa, Sixiao Ren, Kento Sagisaka, Yudeng Lin, Yoshiyuki Hattori, Juan P. Hinestroza, “Versatile Molding Process for Tough Cellulose Hydrogel Materials”, Scientific Reports.
doi :10.1038/srep16266

** センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム

科学技術振興機構(JST)による公募型研究開発プログラム。現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンに基づき、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを創出するため、産学連携による研究開発に取り組んでいます。

信州大学は、ビジョン3・活気あふれる持続可能な社会の構築(ビジョナリーリーダー、住川 雅晴 日立製作所顧問)の中の「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の中核機関です。

<参考図>

図1

  • a) 花型と平板に成形したセルロースハイドロゲル(水分99%)
  • b) 乾燥したセルロースハイドロゲルの表面SEM(走査電子顕微鏡)画像
  • c) 溶媒置換による固化メカニズム

図2

  • a) セルロースハイドロゲル繊維(水分95%)
  • b) 結び目を持つセルロースハイドロゲル繊維
  • c) およびd) 延伸後の繊維の断面および表面SEM像
  • e) セルロース鎖の配向模式図

<用語解説>

注1) Swatloskiらの論文
Richard P. Swatloski, Scott K. Spear, John D. Holbrey, and Robin D. Rogers, Dissolution of Cellose with Ionic Liquids, J. Am. Chem. Soc., 124 (18), 4974–4975 (2002).
注2) イオン性液体
常温で液体の溶融塩類。反応溶媒に用いた場合、有害なガスや引火の危険性がなく、リサイクルが可能なため、環境負荷が低く、きわめてクリーンな溶媒として注目されている。
注3) 生分解性
土中や水中の微生物により分解され、環境に影響を与えない低分子化合物に変わる性質。
注4) 湿式紡糸法
原料を溶剤に溶かし、凝固浴と呼ばれる溶液中で口金から押し出して化学反応させたのち、溶剤を除去して繊維にする方法。レーヨン、アクリル、ビニロンなどの製法として知られている。
注5) 中空糸
ストロー状、マカロニ状の形態を示し、一方を閉じると膜として利用できる。中空糸膜は、単位容積中の膜面積を広くとることができるため、家庭用の浄水器や浄水場、産業用にも広く使われている。
注6) サブナノ孔構造
直径1ナノメートル(1ミリの100万分の1)未満の孔を持つ構造のこと。ナトリウムや塩化物のイオンは直径1ナノメートル以上あるため、サブナノ孔を通り抜けることができないため、脱塩に使える。
注7) かん水
湖沼や地下にある塩分を含んだ水のこと。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

木村 睦
信州大学 繊維学部 化学材料系 教授
Tel/Fax:0268-21-5499
E-mail:

<プロジェクトに関すること>

中村 牧生
信州大学 アクア・イノベーション拠点 広報コーディネーター
Tel:026-269-5761 Fax:026-269-5710
E-mail:
URL:http://www.shinshu-u.ac.jp/coi/

田中 厚志
信州大学 環境・エネルギー材料研究所 教授/学長補佐
信州大学 アクア・イノベーション拠点研究推進機構・副機構長(戦略支援統括)
Tel:026-269-5766/5747 Fax:026-269-5710
E-mail:

<JST事業に関すること>

松永 光正
科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部 COIグループ
Tel:03-5214-7997
E-mail:
URL:http://www.jst.go.jp/coi/

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail: