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平成27年9月29日

東京大学
科学技術振興機構(JST)

はしご型炭化水素分子で有機固体レーザーの高効率・長寿命化を達成

ポイント

東京大学 大学院理学系研究科化学専攻の辻 勇人 准教授、中村 栄一 教授らと、スペイン・アリカンテ大学のDíaz−García 教授らの国際共同研究グループは、COPVと名付けた独自開発の剛直なはしご型炭化水素化合物を発光色素として用いることで、有機固体レーザーの高効率化・長寿命化に成功した。COPVとマトリックス(ポリスチレン)の混合溶液を用いて溶液プロセスで作製した薄膜で分布帰還型(DFB)とよばれる仕組みのレーザーを作製した。分子の長さに応じて、青色から橙色までの可視光の幅広い範囲に亘って発光色を変えることが可能であり、それぞれで狭い発光帯幅の単一モード発光を達成した。特に、橙色発光を示すCOPV6という材料を用いた場合には、低い閾値、高い利得係数、空気中での長寿命を実現し、既存の色素を凌駕する高いトータル性能を達成した。閾値のさらなる低下と、あらゆる発光色における長寿命化が今後の課題であり、これらが実現できれば汎用性の高い小型で安価なレーザーシステムが構築でき、通信、測量、加工など多方面への波及効果が期待される。

本研究は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「新物質科学と元素戦略」研究領域(研究総括:細野 秀雄 東京工業大学 フロンティア研究機構/応用セラミックス研究所 教授)」における研究課題「有機エレクトロニクスの革新に資するユビキタス有機材料の開発(研究者名:辻 勇人、研究期間:2011年10月〜2015年3月)」の一環として行われた。

<発表内容>

レーザーは、研究、通信、測量、加工、照明、センシング、治療など非常に幅広い用途に使われており、現代社会には欠かせない技術である。小型で安価なデバイスはレーザーの応用の可能性をさらに広げるものと期待されており、その材料としては有機色素が最有力候補である。実用的には、波長可変性、発光帯幅、レーザー発振の閾値、利得、寿命、低温・溶液プロセス性など全ての要件を満たすことが必要であるが、既存の有機色素ではいずれかの要件は満たすものの、全てを満足するものはこれまでに報告されていない。

辻 勇人 准教授、中村 栄一 教授らとDíaz−García 教授らの国際共同研究グループは、特徴的な剛直はしご型分子構造を持つ炭化水素化合物である「炭素架橋オリゴフェニレンビニレン」(略して「COPV」、図a)を発光色素として用いることで、有機固体レーザーの高効率・長寿命化に成功した。なお、東大グループは化合物の合成、スペインのグループはレーザー素子の作製と評価を担当した。レーザー発振には光ポンピング注1)を用いた。

COPVとマトリックス(ポリスチレン)の混合溶液から溶液プロセスで作製した薄膜を用いて、分布帰還型(DFB注2)とよばれる仕組みのレーザーを作製した(図b、c)。分子のサイズに応じて可視光の幅広い範囲(408〜591nm、青色から橙色に相当)に亘って発光色を変えることができ、それぞれの発光色において線幅の狭い単色性を示した(図d)。COPV3からCOPV6という比較的長い分子を用いた場合には、良好な効率と寿命を示した。特に、橙色領域に発光を示すCOPV6を用いると、低いレーザー発振閾値(0.7kW/cm=70 nJ/pulse)、狭い発光帯幅(0.13nm)、空気中での長い寿命(10万回以上の発振が可能)と、既存の色素を凌駕する高いトータル性能を達成した。一方で、COPV1やCOPV2という短い分子を用いた場合は青色(短波長)領域に発光を示すが、閾値や寿命に問題が残っており、今後これらの課題を解決する必要がある。

今回、高効率化を実現した要因としては、COPVの極めて高い発光効率注3)(ほぼ100%)が挙げられる。また、デバイスの長寿命化を実現した要因としては、炭素のみから成る剛直な分子骨格、分子軌道の広がり、さらには側鎖の立体保護効果が寄与しているものと考えられる。これらの要因は、どちらもCOPVの分子構造に起因するものであり、本研究から得られた分子構造とデバイス性能・安定性の関係についての知見は、今後のレーザー色素開発のための設計指針となると期待される。デバイス構造や分子構造の最適化などによって、発光ダイオードなどの弱い光を用いたポンピングでも発振が可能になると、小型で安価なレーザーシステムが構築できるようになり、多方面への波及効果が期待される。

<参考図>

図 はしご型炭化水素分子COPVを用いた有機レーザー

<用語解説>

注1) 光ポンピング
外部から光を照射することで、エネルギーの高い不安定な状態(励起状態という)の原子や分子を多数生成させること。
注2) 分布帰還型(distributed feedback:DFB)レーザー
波状の構造をもつ回折格子を共振器として組み込むことで、特定の波長成分のみを強めて単一モード発振ができるようにしたレーザー。
注3) 発光効率(発光量子収率)
原子や分子は光(光子)を吸収して、エネルギーが高い励起状態となる。励起状態からもとの安定な状態(基底状態という)に戻る際、余分なエネルギーは熱や光として放出される。放出された光子の数を吸収された光子の数で割った値を発光量子収率という。

<発表雑誌>

誌名:「Nature Communications」(9月29日オンライン公開)
論文タイトル:Carbon-bridged oligo(p-phenylenevinylene) for photostable and broadly tunable, solution-processable thin film organic lasers
著者:Marta Morales-Vidal, Pedro G. Boj, José M. Villalvilla, José A. Quintana, Qifan Yan, Nai-Ti Lin, Xiaozhang Zhu, Nopporn Ruangsupapichat, Juan Casado, Hayato Tsuji*, Eiichi Nakamura*, María A. Diaz-García*
DOI番号:10.1038/NCOMMS9458
アブストラクトURL:http://www.nature.com/naturecommunications

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 准教授 辻 勇人
Tel:03-5841-4367
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<報道に関すること>

東京大学 大学院理学系研究科・理学部
武田 加奈子 特任専門職員、横山 広美 准教授・広報室副室長
Tel:03-5841-8856
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科学技術振興機構 広報課
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