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平成27年9月18日

京都大学
科学技術振興機構(JST)

カイメン体内で微細な建築資材(ガラス質の骨片)を
細胞が運び、立て、組み上げる全く新しい骨格形成機構を発見

京都大学の船山 典子 准教授の研究グループは、基礎生物学研究所の藤森 俊彦 教授及び名古屋工業大学の松本 健郎 教授との共同研究により、カイメン動物注1)の骨格を構成する微細な骨片(ガラス質の針)を蛍光で可視化し、生きたカイメン中での骨片骨格形成過程のイメージング(タイムラプス動画撮影注2))に成功しました。このイメージング法を用いた詳細な観察の結果、骨片がカイメン体内において時には体の反対側にまでダイナミックに運ばれ、運ばれた先で先端が持ち上げられ、基底側端が固定されて柱の様に立てられ、さらに立った骨片の先に新たな骨片が繋げられるという、まるで建物の柱と梁を1本1本組み上げてゆくような動物の新規の骨格形成機構を発見しました。

また、骨片をダイナミックに運ぶ細胞(「骨片運搬細胞」と命名)が存在することを発見しました。さらに運ばれた骨片がどのように立てられ、繋げられるかの過程を詳細に解析した結果、カイメン骨片骨格は、骨片形成細胞(建材屋)骨片運搬細胞(大工)骨片を固定する基底上皮細胞(基礎屋)が、「Aという場合にBをする」という様なシンプルでローカルなルールに従って働くことで形成されることを解明しました。「運ぶ−上皮組織に刺す−一端を持ち上げる−固定する」という一連のステップで骨片が1本1本骨格に加わり、骨片骨格が組み上げられるという自己組織化による骨格形成プロセスを解明しました。このような自己組織化による骨格形成という、全く新しい動物の骨格形成機構が存在すること、さらにはカイメンの骨格が形成されることで体が成長し、その体の成長によってさらに骨格が形成されるという骨格形成と体の成長が相互にリンクした、新規の3次元的な形づくりの機構を発見しました。

本研究の結果、「骨格を作るパターンに添って、細胞が集まり(軟骨などの)骨格パーツを作る」というすでに知られていた脊椎動物や昆虫の骨格形成機構とは根本的に異なる「骨格パーツ(骨片)を作る場によらず、自在に運んで骨格を次第に組み上げる」というカイメンのダイナミックで柔軟な骨格形成機構が解明されました。そればかりでなく、これは「ローカルな一連の細胞の働きの繰り返しによる自己組織化による骨格形成機構」という、全く新しい動物の体の形作りの原理の発見でもあり、これまで見逃されていた同様の機構がカイメン以外の生物でも用いられている可能性があります。

本研究の成果は以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

<背景>

動物の体の形は骨格の形で決まるため、骨格形成機構を解明することは、動物の形作りの原理を知る為に重要です。進化的に最も古い多細胞動物カイメンの骨格は、微細なガラス質の骨片が立てられ繋げられた基本的には柱と梁構造であることは知られていたものの、この様な構造をどの様な細胞がどの様な機構で形成するのかについては全く未知のままでした。

<研究手法・成果>

船山准教授らの研究グループは、淡水性のカワカイメンの無性生殖注3)系である「芽球注4)」からの個体形成即ち、直径約0.5ミリの芽球の殻の中に入っていた数千個の全能性幹細胞が、芽球の殻の外に出てきて殻の周りに直径2ミリ足らずの幼弱カイメンを約1週間で形成するという個体形成過程において、骨格が次第に形成される過程に着目しました(図1)。船山准教授らの研究以前に骨片骨格形成について知られていたことは非常に少なく、i)骨片は骨片形成細胞の細胞内で形成される(完成した骨片はその後細胞内からリリースされると考えられている)。ii)体内に立てられた骨片はその基底側の先が体から少し出ており、カイメンの体とカイメンが固着している基質との間に基底上皮細胞が分泌したコラーゲンマトリクスに埋められて骨片が基質に固定されている。iii)骨片がコラーゲンによりコートされ結合されて骨格を形成している(図1参照)ということだけでした。

船山准教授らはまず、淡水性のカワカイメンの骨片形成過程において、ケイ酸とともに蛍光物質を沈着させることによって骨片を蛍光で可視化する手法を工夫し、生きたカイメン中で骨片骨格が形成される過程を長時間タイムラプス撮影することに成功した。イメージングの結果、両端がとがった針状のガラス質の骨片がカイメン体内をダイナミックに移動し、移動した先で先端が持ち上がり立てられることを発見した(図2)。この骨片の移動のメカニズムとして、例えば、幼弱個体において全ての細胞が活発に移動しているためそれらの細胞に押されて骨片が受動的に動く、又は骨片を細胞内で形成している骨片形成細胞が、細胞内に形成が完了した骨片を保ったまま移動している等様々な可能性が考えられました。そこで明視野のタイムラプス撮影による解析を行ったところ、移動している骨片には、骨片の中央付近という骨片を運ぶ際の舵取りに適していると考えられる位置に細胞が結合していること、一方で細胞が結合していない骨片は移動しないことが明らかとなり、骨片は結合している細胞によって能動的に運ばれていることが示唆されました。その後、別の研究目的で解析を始めたEflSoxB1 という転写因子の遺伝子が、この骨片の中央付近に結合している細胞で特異的に発現していることを発見しました。遺伝子導入法が確立できていないカイメンにおいて、タイムラプス撮影直後にカイメンを固定してEflSoxB1 遺伝子の発現を解析するという工夫により、2時間の間に移動した骨片にはEflSoxB1発現細胞が結合しており、移動しなかった骨片には結合していない、即ちEflSoxB1 発現細胞が骨片を運搬していることを明らかにし、「Transport cell,骨片運搬細胞」と名付けました(図3)。

次に、運ばれた骨片が立てられるまでの過程にはどのようなステップがあり、どの細胞種が働いているかを解明しました。立った骨片は体の外側の上皮と体内空間を被う上皮(この論文ではENCMと仮称)を、テントのポールのように内側から支えていることから、当初は、人間がテントのポールを立てる時と同様に、骨片の基底側となる端をまず固定して他端を持ち上げているのではないかと考えました。しかし高解像度の顕微鏡を用いた明視野タイムラプス撮影により、驚くべきことに運ばれた骨片は上皮組織に刺さり、骨片の中央付近まで(時にはそれ以上)が体の外側につき出し、それと同時に刺さった骨片の先端(外側端)がゆっくりと持ち上がり始めていることを見いだしました。次にカワカイメンの近縁種で骨片の基底側端の周囲で発現するという報告があった短鎖型コラーゲンに着目、骨片のタイムラプス撮影とそれに引き続くEflColS1 の発現解析により、刺さった骨片の先端が持ち上がる以前にはEflColS1 の発現は観察されないが、一端が持ち上がった骨片の基底側端の周囲の基底上皮細胞で数時間かけてEflColS1 が次第に発現し、骨片の基底側端が固定されることを明らかにしました。即ち、骨片が立てられる過程は「運ぶ−上皮組織に刺す−一端を持ち上げる−固定する」という連続するステップであることを解明しました。

最後に骨片が組み上がる仕組み、即ち、どの様にして立った骨片の先端付近にさらに骨片が運ばれ繋げられるのかについて、独自に確立したカイメンの側面からの詳細なタイムラプス撮影法によって調べました。骨片は基底上皮組織の上だけでなく体内空間を被うENCM(図1参照)の上にも運ばれており、これによって新たな骨片が骨格を形成している骨片の先端付近に運ばれ、上皮組織に刺さり、刺さった骨片の先端が持ち上がり、基底側端が、骨格を形成している骨片に結合する(繋げられる)という、骨片が立つ過程と基本的に同様の「運ぶ−上皮組織に刺す−一端を持ち上げる−固定する」という一連の細胞作用の繰り返しによって骨片骨格が組み上げられることを解明しました(図4)。

以上、本研究により、カイメン骨片骨格は、骨片形成細胞(建材屋)骨片運搬細胞(大工)、骨片を固定する基底上皮細胞(基礎屋)が、「Aという場合にBをする」という様なシンプルでローカルなルールに従い作用することによって形成されることを解明しました。加えて、「運ぶ−上皮組織に刺す−一端を持ち上げる−固定する」という一連の過程で1本の骨片が骨格に加えられ、この過程の繰り返しにより骨格が形成されるという機構を解明しました。即ちカイメン骨片骨格形成は、細胞作用の重ね合わせによる自己組織化により骨格が形成される、全く新しい骨格形成機構であることを明らかにしました。さらに、「刺す」ステップを用いている事が非常に重要で、これによりカイメンの体の成長と骨格形成機構がリンクされ、体の成長に従って骨片が体の外側に次々と立てられ、立てられた骨片により体が成長、成長によってさらに骨格が形成されるという骨格形成と体の成長が相互にリンクした、新規の3次元的な形づくりの機構であることを発見しました(図4)。

<波及効果>

本研究で解明された「一連の物理的な細胞作用の繰り返し」で、自己組織化としての骨格がその時その時の個体に合わせて構築できるという機構は、既知の3次元的な動物の形づくりの機構と根本的に異なり、動物の形態形成機構に全く新しい知見を加えるものです。細胞の基本的な反応の組み合わせによる機構であるため、これまで見逃されていた同様の機構がカイメン以外の生物でも用いられている可能性があります。

<今後の予定>

植物などと同様に固着性生物であるカイメンは微小環境に合わせて成長するため、種特異的な形態は持ちながらも個体ごとのバリエーションの大きい生物です。カイメンは微小環境の物理的な力(水流や基質の堅さ)に合わせて骨片骨格形成微調整しているのか、微調整があるとしたらどの様な機構で微小環境の物理的な力を感知し、それに合わせた骨格を形成するのかを解明したいと考えています。

また、本研究で解明した骨格形成機構を発展させれば、カイメンの種ごとの非常に多様な形態が決まる機構が解明出来るのではないかと考え、解析を進めています。

<参考図>

図1 淡水性カワカイメン無性生殖「芽球の殻に入っていた数千個の
幹細胞集団からの個体形成」において次第に骨片骨格が形成される

淡水性カワカイメンの芽球からの個体形成では、芽球の中に入っていた数千個の全能性幹細胞が次第に芽球の殻の外に出てきて袋状の上皮を形成、その中にさらに全能性幹細胞が移動、分裂・分化して芽球の殻の周りに個体が形成される。この個体形成の過程で、体内で骨片骨格が形成されカイメンの体を支え3次元的に体が成長する。

図2 カイメン体内で骨片はダイナミックに移動しその後立てられる

カイメンの下から撮影した骨片のタイムラプス動画を解析、24時間の撮影時間内に立てられた骨片が移動した軌跡を線で示した。骨片がダイナミックに移動し立てられていることが分かる。

図3 骨片の中央付近に複数結合し、骨片を運ぶ骨片運搬細胞を発見

転写因子EflSoxB1 を単離、カワカイメンにおけるmRNA発現を解析したところ、以前の私達の研究から骨片形成が終了したと考えられる長さの骨片の中央付近に結合している細胞集団が特異的にEflSoxB1 を発現していた。

図4 本研究で明らかになったカイメン骨片骨格形成機構のモデル図

「運ぶ−上皮組織に刺す−一端を持ち上げる−固定する」という一連の細胞作用により1本の骨片が骨格に加えられる。骨片をカイメンの外側の上皮に刺すという仕組みにより、骨格形成と個体の成長がリンクされている。

<用語解説>

注1) カイメン動物
現存する多細胞動物の中で最も進化的に古い動物門。非常に多くの種類があり、多種多様な種特異的な形態を持つ。カイメン動物の種は4つの綱に分けられており、90%以上の種が含まれる「ふつうカイメン」と「ガラスカイメン」がガラス質の骨片が繋げられた骨片骨格を持つ。
注2) タイムラプス動画撮影
設定した一定の間隔で連続して画像を撮影すること。撮影した画像を用いて動画として編集することで、対象物の時間的な変化を解析することが出来る。
注3) 無性生殖
受精を介さず個体が増える仕組み。
注4) 芽球
淡水性のカイメンと一部の海産カイメンの種が無性生殖のために成体カイメンの組織内で形成される。コラーゲンの殻の中に数千個の全能性幹細胞のみが入っている。

<論文タイトルと著者>

“Dynamic Transport and Cementation of Skeletal Elements Build Up the Pole-and-Beam Structured Skeleton of Sponges”
Sohei Nakayama, Kazushi Arima, Kotoe Kawai, Kurato Mohri, Chihiro Inui, Wakana Sugano, Hibiki Koba, Kentaro Tamada, Yudai J. Nakata, Kouji Kishimoto, Miyuki Arai-Shindo, Chiaki Kojima, Takeo Matsumoto, Toshihiko Fujimori, Kiyokazu Agata, and Noriko Funayama
Current Biology 25, 1–6, October 5, 2015
doi :10.1016/j.cub.2015.08.023

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

船山 典子(フナヤマ ノリコ)
京都大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 准教授
Tel:075-753-3649 Fax:075-753-4203
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<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)、川口 哲(カワグチ テツ)、山岸 裕司(ヤマギシ ユウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
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<報道担当>

京都大学 企画・情報部 広報課
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科学技術振興機構 広報課
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