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平成27年9月7日

信州大学
科学技術振興機構(JST)

カーボンナノチューブ・ポリアミドのナノ複合膜
による高性能、多機能性逆浸透(RO)膜の開発に成功
〜革新的な造水システムにより地球規模の持続可能性に貢献〜

<研究の位置付け>

21世紀は水の世紀と言われます。地球レベルでの水資源の枯渇問題に対して海水の淡水化は持続可能性を左右する重要技術であり、最近は資源産出に伴う随伴水注1)処理と環境問題、また世界共通の課題になった工業用水や都市排水の浄化等、広範な造水技術の一層の発展は、人類の持続可能性(サステナビリティ)にとって最重要課題の一つです。そのため、十分に練りつくされた現状の透水膜技術、すなわち既存の造水用膜を越える高性能で強靭(ロバスト)性を具備した新しい水分離膜への期待が高まり、国際的に活発な研究開発が進められています。

信州大学アクア・イノベーション拠点では、ナノカーボン注2)に関わるこれまでの研究蓄積をベースに高性能で強靭(ロバスト)な炭素系水分離膜の基礎科学と技術開発により、我が国の水プラント産業の発展と地球規模の持続可能性への貢献を目指しています。

この度、当拠点のコアコンピタンスの一つと期待される新たな“炭素系分離膜の創成”についての成果が、英国ネイチャー出版グループのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。本研究成果は、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」**のプロジェクト研究の一環で、信州大学を中心にプロジェクトメンバーの共創で得られた成果です。今後、本研究の成果を基に、産学連携により技術的検討を深め、応用諸技術を開発し、社会実装を目標としてプロジェクトを推進する計画です。

<研究成果>

非共有結合的に弱く表面修飾(改質)した多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と芳香族ポリアミドとで、厚さ約100nmのナノ複合膜を独自の方法で調製し、逆浸透膜(RO膜)を界面重合によって生成しました。このRO膜活性層は、よく分散させたCNT(15.5重量%)とマトリックス(母材)のポリアミドの複合で構成されています。

従来のCNTとエラストマ−注3)・樹脂類などの複合系(ナノ複合材)では、CNTの均一分散が困難だったため、CNTの特性が十分に発揮されてはいませんでした。RO膜の分野でもCNTとの複合化は多数行われ発表されていますが、同様にCNTの均一分散が困難であったために、CNTの特性を活かした開発成果は得られていません。一方、信州大学グループはCNTを均一分散するのではなく解繊(かいせん/繊維を解きほぐすこと)という独自の手法を開発し、様々な分野注4)で成功を収めてきました。

本研究では信州大学グループが有するCNT解繊技術を、従来の薄膜形成技術と融合することで新しいナノ複合膜形成技術を開発し、この技術を用いて、従来は不可能であった、高濃度のMWCNTが解繊分離したポリアミド複合膜によるRO膜の開発に成功しました。開発したMWCNT−ポリアミド複合膜は透水性能が向上するだけでなく、以下に示すように優れた耐汚染性および耐塩素性を有することが分かりました。

開発したMWCNT−ポリアミド複合膜の特徴は、フィラー(添加材)のナノチューブ表面周辺に水透過性、脱塩性の良好な特異な微細構造を持った芳香族ポリアミド層を形成したこと()、及びそのナノ構造のRO膜機能への寄与を明らかにしたことです。また、ポリアミド層へのMWCNTの添加は、処理水中に含有する鉄分の吸収を抑制する効果を有することを見出し、これがRO膜表面にファウリング層の形成を防ぐ効果をもたらすことを明らかにしました。さらに、特筆すべき本複合膜の機能としては、耐塩素水性が著しく向上する点があります。これらの特徴は、開発したナノ複合膜が塩水から塩分を排除する高い脱塩性能を示し、かつ高い透水性を有していることを示しています。また、耐ファウリング性、耐塩素性を兼備したものであり、これまで多数報告されたCNT/ポリアミド複合膜と比較して、卓越したRO膜機能注5)を有することも分かりました。これらの機能発現は解繊技術の応用という独自の複合膜調製法が寄与したもので、CNTの周辺に形成される固有のポリアミドのナノ構造がこのRO膜の高い透水性と脱塩性に寄与していることは、TEM(透過型電子顕微鏡)の画像でも裏付けられています。開発したMWCNT−ポリアミド複合膜によるRO膜では、市販のCNTを用いているため、水の世紀における新たな膜として実用的発展が期待できます。

Scientific Reports誌

Shigeki Inukai, Rodolfo Cruz-Silva, Josue Ortiz-Medina, Aaron Morelos-Gomez, Kenji Takeuchi, Takuya Hayashi, Akihiko Tanioka, Takumi Araki, Syogo Tejima, Toru Noguchi, Mauricio Terrones, and Morinobu Endo (2015). “High-performance multi-functional reverse osmosis membranes obtained by carbon nanotube·polyamide nanocomposite”. Scientific Reports, Published online 3 September 2015, doi: 10.1038/srep13562

** センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム

科学技術振興機構(JST)による公募型研究開発プログラム。現在潜在している将来社会のニーズから導き出されるあるべき社会の姿、暮らしの在り方を見据えたビジョンに基づき、企業だけでは実現できない革新的なイノベーションを創出するため、産学連携による研究開発に取り組んでいます。

信州大学は、ビジョン3・活気あふれる持続可能な社会の構築(ビジョナリーリーダー、住川 雅晴 日立製作所 顧問)の中の「世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献するアクア・イノベーション拠点」の中核機関。

<参考図>

CNT(フィラー)とポリアミド(マトリクス)のナノ複合膜の構造モデル(茶色部分がポリアミドで、青〜緑の亀甲が多くある構造物がCNT)。CNTの周辺に形成される固有のポリアミドのナノ構造が、この逆浸透膜(RO膜)の高い透水性と脱塩性に寄与し、フィラー(添加剤)のCNTによって耐汚染性(ファウリング特性)も向上すると考えられる。

<用語解説>

注1) 随伴水
石油や天然ガスなど資源の採掘に伴い、資源と一緒に出てくる大量の水のこと。
注2) ナノカーボン
ナノメートル(nm)レベルで構造を制御されたカーボン(炭素)からなる物質群。カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、グラフェンなどが知られている。
注3) エラストマ−
弾力を表す“elastic”と、重合体を表す“polymer”を合わせた造語。ゴム状弾性を示す高分子のこと。
注4) CNT実用化分野
耐高温・高圧特性を活かし、石油探査・採掘用部材のシール材としてセンサーを保護する目的で実用化された。また、耐塩素性を活かし、水道管バルブのシール材としても期待されている。
注5) 卓越したRO膜機能
透水性、耐塩素性は、既存RO膜よりも増加。また、アルブミン(たんぱく質)の汚れによる性能低下が相対的に小さいという低ファウリング性を示唆する結果(低ファウリング性の可能性を示す)が得られた。また、脱塩性についても、0.2%、0.5%の食塩水においては、既存のRO膜に匹敵する99.8%、99.7%という性能が得られている。

<お問い合わせ先>

<プロジェクトおよび研究に関すること>

中村 牧生
信州大学 アクア・イノベーション拠点 広報コーディネーター
Tel:026-269-5761 Fax:026-269-5710
E-mail:
URL:http://www.shinshu-u.ac.jp/coi/

田中 厚志
信州大学 環境・エネルギー材料研究所 教授、学長補佐
アクア・イノベーション拠点 研究推進機構 副機構長(戦略支援統括)
Tel:026-269-5766 or 5747 Fax:026-269-5710
E-mail:

<JST事業に関すること>

松永 光正
科学技術振興機構 イノベーション拠点推進部 COIグループ
Tel:03-5214-7997
E-mail:
URL:http://www.jst.go.jp/coi/

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
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Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
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