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平成27年8月22日

理化学研究所
科学技術振興機構(JST)

炭素のサッカーボールが集まるとなぜ高温超伝導体になるか
〜最先端計算シミュレーションにより長年の謎を解明〜

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター 計算物質科学研究チームの酒井 志朗 研究員、有田 亮太郎 チームリーダーと、東京大学 大学院工学系研究科 野村 悠祐 大学院生(研究当時)、イタリア国際高等研究所 マッシモ・カポネ 教授の国際共同研究グループは、分子性固体として最高の超伝導転移温度を持つフラーレン固体の超伝導発現メカニズムを解明しました。

炭素は宝石(ダイヤモンド)になったり、鉛筆の芯(黒鉛)になったりと、さまざまな形態をとるユニークな元素ですが、60個集まるとサッカーボール状のフラーレン分子になることが知られています。この分子がさらに集まって結晶を作り、隙間にアルカリ原子が挿入されると絶対温度にして約40ケルビン(K)の転移温度を持つ高温超伝導体注1)となりますが、その超伝導発現のメカニズムについては、以下のような未解明の問題があり、なぜフラーレン固体が高温超伝導体になるか、は長く謎に包まれていました。

一般に、超伝導体中の電子はクーパー対注2)と呼ばれるペアをつくって運動します。これまでの実験的研究からフラーレン固体中でもクーパー対が形成されていることが明らかにされていました。その一方で、フラーレン分子の中で電子の間には強いクーロン斥力注3)が働くことが知られています。実際、フラーレン同士の距離を少し広げると、そのクーロン斥力が原因で、超伝導状態からモット絶縁体注4)という絶縁状態に転移してしまいます。単純に考えると、同じ符号の電荷を持つ電子は、クーロン斥力によりクーパー対の形成が強く阻害されるため、高温超伝導の実現は難しくなると考えられます。このように、なぜ強いクーロン斥力が働くフラーレン固体中にクーパー対が形成されるのかは長らく未解決のままでした。

国際共同研究グループは、フラーレン固体の結晶構造以外の実験情報を使わずに(非経験的)に超伝導状態を解析する方法論を開発し、スーパーコンピュータを使った大規模数値計算を行いました。100,000Kのエネルギースケールの電子状態計算からはじめ、どの状態が超伝導に関わるのかに焦点をあわせて、最終的に何度で超伝導転移が起こるかを誤差10K未満という驚くべき精度で再現することに成功しました。また、超伝導状態の詳細な解析の結果、フラーレン固体では原子の振動(格子振動)とクーロン斥力が特異的に助け合って高温超伝導を実現していることが明らかになりました。このメカニズムは、格子振動とクーロン斥力が競合しあう従来型の超伝導機構とは本質的に違うものです。

超伝導発現に電子相関が絡む非従来型と呼ばれる超伝導体について、本研究レベルの精度で実験相図を再現した例はなく、方法論開発の面からも新超伝導体の物質設計の可能性を開く成果と言えます。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「磯部縮退π集積プロジェクト」(研究総括:磯部 寛之)の一環として行われたもので、米国の科学雑誌『Science Advances 』(8月21日付け:日本時間8月22日)に掲載されます。

国際共同研究グループ

理化学研究所 創発物性科学研究センター 強相関物理部門 計算物質科学研究チーム
研究員 酒井 志朗(サカイ シロウ)
チームリーダー 有田 亮太郎(アリタ リョウタロウ)
東京大学 大学院工学系研究科
大学院生 野村 悠祐(ノムラ ユウスケ)(現:エコールポリテクニーク 博士研究員)
イタリア国際高等研究所
教授 マッシモ・カポネ(Massimo Capone)

<背景>

炭素は宝石(ダイヤモンド)になったり、鉛筆の芯(黒鉛)になったりと、さまざまな形態をとるユニークな元素ですが、60個集まるとサッカーボール状のフラーレン分子になることが知られています。この分子がさらに集まって結晶を作り、隙間にアルカリ原子が挿入されると絶対温度にして約40ケルビン(K)度の転移温度を持つ高温超伝導体となりますが、その超伝導発現のメカニズムは長く謎に包まれていました。

一般に、超伝導状態は固体中の電子がペアを作ることによって起こります。この電子のペアを作る原動力のひとつとして知られているのが、固体中の原子の振動です。この原子の振動を起源とする超伝導体を「従来型超伝導体」と呼びます。一方で、フラーレン固体中の電子は強いクーロン斥力を受けながら運動していることが知られていました。通常、このクーロン斥力は、原子の振動を利用した超伝導を阻害する働きがあります。このため、フラーレンは従来型の超伝導体としては理解できず、その発現メカニズムが多くの研究者の興味を集めてきました。フラーレン固体でなぜ高温超伝導が実現するかを明らかにするためには、電子と原子の運動を精密に解析しなければなりませんが、これは固体物理としても計算物理としても最も難しい問題のひとつです。特に結晶構造以外の実験情報を使わず(非経験的)に超伝導の計算を行う方法論の開発はまったくなされていませんでした。国際共同研究グループは、電子と原子の運動を精密に考慮して超伝導状態を調べる新しい理論を開発し、それをフラーレン固体に適用することにしました。

<研究手法と成果>

国際共同研究グループは、フラーレン固体の超伝導に関わる低エネルギー電子状態を表す理論模型を構築する新しい方法論を開発し、スーパーコンピュータを駆使して大規模数値計算による解析を行いました。この結果、結晶構造以外の実験情報は一切使わず、相図中の金属相、超伝導相、強相関絶縁相の相境界(どの温度で転移が起こるか)を誤差10K未満の高精度で決めることに成功しました。特に超伝導相においては、電子−格子相互作用注5)(原子の振動)とクーロン斥力が協力的に働く特異的な状況にあり、これが高温超伝導発現の鍵になっていることが明らかになりました(図1)。

<今後の期待>

超伝導転移温度は、超伝導に関わる物理量の中で最も注目されていますが、これを非経験的に高い精度で計算するのは非常に困難です。その理由は、標準的な電子状態計算が取り扱うエネルギースケールに比べ、転移温度が格段に小さな量だからです。一方、超伝導転移温度を非経験的に計算できれば、新しい超伝導体の設計へつながることが期待できます。

超伝導発現に電子相関が絡む非従来型と呼ばれる超伝導体について、本研究レベルの精度で実験相図を再現した例はなく、本研究はフラーレン固体の超伝導発現機構の解明というだけでなく、方法論開発の面でも、新超伝導体の物質設計の可能性を開く成果と言えます。

<参考図>

図1 フラーレン固体の相図

  • 左:スーパーコンピュータによる理論計算で得られた相図
  • 右:実験で得られた相図
  • 理論計算の超伝導転移温度が実験値を10K未満の精度で再現している。

<用語解説>

注1) 高温超伝導体
超伝導現象は通常非常に低い温度で実現する。転移温度が多くの超伝導体よりも高いものを高温超伝導体と呼ぶ。どの程度高いと高温超伝導体と呼ぶかについてははっきりとした定義がないが、絶対温度にして概ね20K以上であれば、多くの場合、高温超伝導体と呼ぶ。典型的な高温超伝導体としては、銅酸化物高温超伝導体、鉄系超伝導体などがある。
注2) クーパー対
超伝導状態では、固体中の電子はペアを組んで行動する。このペアのことを、超伝導の基礎理論の立役者の一人である米国のL.N.クーパーにちなんでクーパー対と呼ぶ。クーパー対形成の原動力はいくつか可能性があるが、理論的、実験的に確立したものに原子の振動がある。
注3) クーロン斥力
電磁気学によれば、同じ符号の電荷を持つ粒子の間には斥力が働く。これをクーロン斥力と呼ぶ。固体中の2電子間にもクーロン斥力が働くが、膨大な数の他の電子が間に割り込みながら運動しクーロン斥力を弱める働きをする。これを遮蔽効果と呼ぶ。遮蔽されたクーロン斥力に、原子の振動を媒介とする引力が打ち勝つとクーパー対が形成される。
注4) モット絶縁体
電子間のクーロン斥力が原因で電子が移動できなくなった結果、電気伝導が抑えられて絶縁体になるものをモット絶縁体と呼ぶ。
注5) 電子−格子相互作用
量子力学によれば、固体中で電子は粒子としての性格と同時に波としての性格を持つ。固体中で原子が静止して規則正しく並んでいれば波が散乱されることはないが、実際には原子の格子は振動している。この振動によって電子が散乱される強さを電子−格子相互作用と呼ぶ。

<論文情報>

タイトル Unified understanding of superconductivity and Mott transition in alkali-doped fullerides from first principles
著者名 Yusuke Nomura, Shiro Sakai, Massimo Capone and Ryotaro Arita
雑誌名 Science Advances
doi 10.1126/sciadv.1500568

<お問い合わせ先>

<発表者> ※研究内容については発表者にお問い合わせ下さい

理化学研究所 創発物性科学センター 強相関物理部門 計算物質科学研究チーム

研究員酒井 志朗(サカイ シロウ)
チームリーダー 有田 亮太郎(アリタ リョウタロウ)

Tel:048-467-4022(有田) Fax:048-467-4022(有田)
E-mail:(有田)

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